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新規事業で闘い続けるためのプロダクトマネジメント

こんにちは!

dely, Inc.で新規事業開発をしている奥原 (@okutaku0507) といいます。役割としては、プロダクトマネージャー (PdM) 兼エンジニアと言った方がわかりやすいかも知れません。

この記事は「dely #1 Advent Calendar 2020」の7日目の投稿です。

6日の投稿は先日ネットスーパー機能をリリースしたコマース事業部の松岡さんが書いた「VS Codeで作るAWS Vault付きのポータブルなTerraform環境」でした。Terraform環境を簡単に構築する方法を紹介してくれていて、コードサンプルもありわかりやすいので、是非読んでみてください。

今年は「dely #2 Advent Calendar 2020」もあるので、是非お楽しみください。

はじめに

僕はdely, Inc.に入社した2016年9月からずっとサーバーサイド (Ruby on Rails) のエンジニアをしています。そして、2018年の5月ごろからPdMになり、レシピ動画サービスであるクラシルのプロダクトマネジメントを担当していました。同時に開発部のGMを兼務した後、現在は新規事業のPdM兼エンジニアをしています。僕が担当している新規事業については、こちらの記事を読んでいただくか、実際にプロダクト (クラシルチラシ) を見ていただければと思います。

dely, Inc.に在籍している4年間の中で、クラシルのほぼゼロから今まで、そして新規事業のプロダクトをエンジニアという側面、PdMという側面で向き合ってきました。この記事では、日々プロダクト開発に向き合っている方にとって、ゼロからモノ創りをしていく、そして成長していく過程でどのように自分の役割を変えていけばいいのかというノウハウが少しでもお役立てできたら嬉しいです。

これを読めば、新しくプロダクトを創る方法がわかるものではありません。教科書のように順序立てて解説はしておらず、Tipsをつらつらと書く形式です。それぞれの項目はある程度独立しているため、目次から自分が興味のトピックスを選んで読んでいただいても構いません。全体が長く、それぞれ文章の繋がりがない場合、同じようなことを書いているところもあり、文章を読んでいて迷子になってしまう可能性が高いので、適宜休憩を挟みながら、興味を持ったところを読んでいただければと思います

全てのプロダクトはゼロから始まる

当たり前の話ですが、全てのプロダクトはいわゆる0=>1から始まります。このnoteというプロダクトも、Google、Twitter、Facebook、Instagramというグローバルなプロダクトも創設者の圧倒的な熱量と共に産声を上げました。どのプロダクトも固有の成長ドラマがあるわけですが、ほとんどのプロダクトは日の目を見ないまま、あるいは一時の注目を浴びて終わりを迎えます。

日本で最大級のレシピサービスであるクラシル、新規事業であるクラシルチラシの担当PdMをしてきて、プロダクトのフェーズによって求められる、プロダクトを成長させるための関わり方は異なってくることを体験してきました。それぞれのプロダクトのフェーズにおける組織の在り方によっても、自分が何をすべきかは変わってくる中で、これをすれば必ず成功するというような成功メソッドはありません。むしろ、どんな優秀なPdMが心血注いだからといって、マーケットや環境変化によっては担当するプロダクトが成功するとは限らないのです。

僕らPdMという役割は、プロダクトを成功させるために何をすればいいのでしょうか。答えのない、変化する答えにどう向き合っていくのか。僕も日々学んでいます。

なぜ新規事業が必要なのか

なぜ、新規事業を創る必要があるのでしょうか。

会社に所属している者は、CEOであれ一社員であれ、会社のビジョンを達成するために日々活動をしています。dely, Inc.では「Be The Sun」というビジョンがあります。僕はそれを達成させるべく、PdMとしてプロダクト開発をしています。決して、利益を得ることが目的ではない点が重要ですが、持続的な活動のためにはお金が必要になります。そのために、会社は様々な事業を営んでいます。ビジョンを実現させるために、より大きな利益を産む事業を創ることは重要な活動の一つです。

既存事業を持つ会社が新規事業を創る理由の一つは、昨今のプロダクトライフサイクルの短期化にあると考えています。要するに、一つの事業で利益を上げられる期間がどんどん短くなっているため、安定している既存事業であろうと常にリスクに晒され、競合が台頭してきた時にすぐにひっくり返されてしまう可能性があります。

インターネット業界は顕著だという感覚はありますが、政府が出しているデータを見ても、全体としてプロダクトライフサイクルは短命化の一途を辿っているようです。その理由として、デジタル化によるニーズの変化速度が早く、人々のニーズが多様化していることや技術革新が進み、機能的価値が満たされやすくなっているということが挙げられます。デジタル化という文脈では、ユーザーは日々膨大な情報に晒されていて、価値観は常にアップデートしているのと、様々な情報がデータ化され、個々に最適化されることでパーソナライズが進んでいることが考えられます。また、技術革新でいうと様々な技術的なハードルが下がることで、機能的な価値をマネしやすくなっている、同じようなプロダクトが短期間で乱立して市場がすぐに赤く染まってしまうということが挙げられます。スピードが競合優位性であった時代は終わりを迎えました。

次の理由として、事業のポートフォリオが多い方がマーケットの変化に強いためだと考えています。近年で最も影響を与えたのがコロナウイルスだと思います。日々のニュースで見ている限りでは、大打撃を受けているマーケットで立ち行かなくなってしまった事業もあれば、潤って急激に成長している事業もあります。また、プラットフォーム上で展開している事業でプラットフォーム側の変更によって変更を余儀無くされるケースもあります (直近ではiOS14の広告IDの取得の変更など) 。マーケットの変化は時期的な要因もあり、ポートフォリオを複数持っておけば、苦しい時期が過ぎるまでは他の事業で耐え忍ぶことができたり、そもそも斜陽な事業に対してリソースの投下をコントロールしROIが高い事業にフォーカスすることができます。

PdMが新規事業を立ち上げることについて

Twitterで各社のPdMが担当するプロダクトが既存/新規なのか、toC/toBなのかというアンケートを取ってみました。その結果が以下です。

91名の方にご回答いただき、toC既存事業とtoB新規事業が共に30%を越えていることがわかりました。推測ですが、この10 ~ 5年の間にクラシルをはじめメルカリ、SmartNewsなどの多くの巨大なtoCプロダクトが誕生し組織も大きくなりました。プロダクトと組織の規模が大きくなれば、プロダクト開発をマネジメントするPdMが必要になります。そのため、toC既存事業が多くなることは理解できます。注目するのは新規事業を担当しているPdMが過半数を占めていることです。

「なぜ新規事業が必要なのか」で新規事業の必要性について考えました。プロダクトライフサイクルの周期が短縮されて、一つの事業で勝つことが難しい世の中において、新しく事業を創り出すことはとても重要です。つまり、この時代のPdMだからこそ新規事業を創り出すという難しい課題に向き合い、戦い続けるためのプロダクトマネジメントが求められていると考えています。

新規事業の起こり

新規事業はどのようにして誕生するのかを考えてみます。会社によって特色があると思います。

まずは経営層起点で新規事業が考案されることは多くあると思います。経営層は自社のプロダクトだけではなく、他社のプロダクト、世の中の大きな流れを常にwatchしていて、自社のビジョンを達成させるための長期戦略を考案しています。その中で、レシピ事業からのリテール事業への派生など既存事業の枠組みを越えているビジネスモデルの事業など、自社の強みを活かすことができる領域で新規事業を考案します。成長しつつある既存事業とシナジーが効いて、自社のプロダクト群が競合との関係性の中でより強固なビジネスになる領域にリソースを投下します。

もう一つは時代の流れが大きく変化するタイミングです。新型コロナウイルスの影響で、インターネットでは5~10年後の未来が早く来たと言われています。確かに、仕事を通してオンラインでミーティングが当たり前になり、各種エンタメ系のサブスクを使っている、ECを多用するようになったというのは多く耳にします。また、外出を控えている関係で既存事業が立ち行かなくなり新しくプロダクトを創出しなければ会社自体の存続が危うくなることもあると思います。また、5Gなどの技術の進歩により今までできなかったことが可能となり、人々の生活に溶け込むことで生まれてくるプロダクトもあります。時代の流れが大きく変化するタイミングは新しくプロダクトが生まれてくる好機であり、タイミングを逃さないために、スピーディにプロダクトを届けるプロダクトマネジメントが必要になってきていると思います。

会社によっては、既存事業とはシナジーがない領域で新規事業を立ち上げることもあります。その場合M&Aをして参入するというパターンもあると思いますが、ド新規で新しい領域に切り込んでいくのもまた面白いですね。その場合、社内の知見や人的リソース以外は新しい取り組みになると思うので、難易度は高くなるかもしれないですが、既存事業に引っ張られて特定領域を抜け出せないようになってしまうこともあるので、一つの戦略だと思います。

もう一つのパターンが、筆者は経験したことがないですがボトムアップからの新規事業起案です。リクルートやCAなど大企業で行われている印象が強いですが、小さいベンチャーでも、意思が強い社員に任せる形で新規事業を立ち上げているということも耳にします。後述しますが、新規事業には確固たる意思が成功に必須条件だと思うので、熱意ある社員が火種となって新規事業に挑戦していくのは良いことだと思います。

新規事業のマーケット選定

プロダクト開発にPdMとして関わるようなって2年の若輩者ですが、新規事業を成功させる上で重要になってくるのが、マーケット選定とチームの熱量だと考えています。いかに優秀なメンバーが揃っていたとしてもマーケット選定をミスるとプロダクトは成長しないのではないかと考えています。つまり、プロダクト開発における必要とされていないものを創ってしまうということです。

この記事では、PdMと事業責任者は分けて考えているので、PdMが新規事業においてどのマーケットに張るかという意思決定を行うことは少ないかも知れないですが、新規事業を担当する際に考えていたことなどを書きます。マーケット選定という言葉を使いましたが、プロダクトの切り口を考えるということに近いです。

新規事業を担当する際に、本当に無知であったため、様々なことを調べました。僕の場合、すでに領域はほぼほぼ決まっていたのとはっきりとしたベンチマークがあったので、ゼロベースで考えるということはありませんでした。しかしながら、インターネットで、3C分析、SWOT分析、PEST分析...etcを調べてみたりしました。フレームワークをある程度網羅するという話では、下記の記事を参考にしました。

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また、教科書的な本ですと読んだ中でわかりやすかった一冊を紹介します。

フレームワークの強いところは、これまでにその分野のスペシャリストの方々が、失敗を繰り返すながら築き上げたフローが思考に迷った時の道標になるということです。一方で、フレームワークにおんぶに抱っこになってしまうと、本質的なことを見失ってしまうこともあるので、注意が必要だと思いました。

様々な切り口があると思いますが、僕のプロダクトに対する考え方を書きます。ユーザーの生活の中、既存の体験の中でいかに自社のプロダクトが寄り添うことができるか。生活の中で煩雑な体験を省くことができるか。つまり、ユーザー生活習慣の文脈の中で自社のプロダクトが使われる場面において、最適なタイミングで最適なコミュニケーションができるようにということを考えています。長い話になるので、こちらのnoteを参考にしていただければと思います。

例えば、料理においては開発すべき課題は「ハンバーグをどうやって作るか」ということだけではありません。

今日の献立を考える、材料を買いに行く、後片付けをするなど、料理という生活習慣の中でユーザーが億劫になっていることはとても多くあります。その課題に対して、今までも様々なアプローチがなされてきましたが、課題が複雑に絡み合い、個々の最適なソリューションが異なるため、まだ大きな課題として横たわってきました。この課題に対して 、献立を考えることについてはクラシル内での献立機能や、買い物についてはクラシルチラシネットスーパーなどのソリューションで今まさに取り組んでいます。

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既存のレシピ動画事業からシナジーが強く働く領域という考え方もできますが、ユーザーの行動の中で、自分たちが解決する価値がある、もっとも強いイシューを解決しに行くという捉え方をしています。

会社として継続的に課題と向き合っていくためにはそれ相応の資金が必要になります。しっかりとマネタイズができるのかという観点もなければ、ユーザーにとって素晴らしい事業であったとしても存続させることができません。そのバランスを取る必要がありますが、その答えを僕が現段階では持っていないので、今後学んでいけたら紹介したいと思います。

何を創るのかを決める

取り組むべき事業領域が選定されれば、何を創るのかという要件定義を行います。PdMとしての本領が発揮される場面で、最も重要なことです。

何を創るかということは競合となるプロダクトがあるかないかで変わります。競合プロダクトの強弱はあるとは思いますが、競合が全くない場面はあまり多くないと思います。競合がない場合でも、関連する領域を調べることはできます。要は、自分たちのアイデアだけではなく周辺のプロダクトを徹底的に調べることが重要だと考えています。

競合がいる場合、その競合プロダクトを使っているユーザーにインタビューを行い、なぜそのプロダクトを使っているのか、どのような課題を解決しているのか、不満に思っていることはあるのかということを調べます。どのような機能があって、使用率はどのくらいなのか。ユーザーがそのプロダクトを好んで使っている本質的な課題解決はなんなのかを網羅的に把握することが大切です。後発の場合は特に、競合プロダクトの本当に重要な機能的価値をいち早く実装することが大事だと思っています。最初から、最も優れたものを創ることを考えるのではなく、まずは現状のユーザーが抱えている課題を素直に解決するのが良いと思います。

最低限の機能的価値が整ってから、自社ならではの新しい価値を追加していきます。当初同質であると思われていたプロダクトも目指したいビジョンが異なれば、徐々に方向性が変わっていきます。そのため、ユーザーのどんな課題を解決して、どのような幸せを届けていきたいのかは、初期の段階からしっかりと言語化しておくことが重要です。

アイデアは、アイデアとアイデアの掛け算であり、天から降ってくるものではないと考えています。まずは自分の中にできる限りインプットして、本当はこうあるべきなのだけれど、解決できていない課題に対して真摯に向き合うことが重要であると考えています。参考になる記事を貼り付けておきます。

プロジェクトマネジメントを学ぶ

前段の話が長くなりましたが、具体的な話に移っていきたいと思います。まず、根底に持っていたい方がよいことはプロジェクトマネジメントの基礎知識であり、それを体系的に学ぶことはとても大切です。基礎がなければ応用はあり得ません。恥ずかしながら、これまでプロジェクトマネジメントを体系的に学んだことがなく、感覚やその都度インターネットで調べた知識を使って仕事をしてしまっていました。僕の勝手な推測ですが、新卒でエンジニア/デザイナーをしてPdMとなった方、新卒でベンチャーにジョインしてPdMをしている方は意外とプロジェクトマネジメントの基礎が抜け落ちていることはないでしょうか。まずは焦らずに基礎を固めるということは本当に重要であると痛感しています。僕が読んだ本の中でわかりやすかったものを紹介します (Amazonのリンクがエラーで貼れなかったので、別リンクでシェア) 。

詳しい話は本の内容を読んでいただきたいのですが、プロジェクトが失敗してしまう原因から始まり、お作法が具体例をベースに書かれているので、頷きばかりの本でした。むしろ、今までプロジェクトマネジメントを学んだことがないのが怖くなったくらいです。是非とも、一度プロジェクトマネジメントについて学んでみてください。徐々にプロジェクトマネジメントについて理解が深まったらPMBOKを学んでみると良いかと思います。

フェーズに分けて、スケジュールを引く

新規事業を立ち上げる際に最も重要なことの一つは、何をいつまでに創るのかということをフェーズに分けて明確にし、可視化することです。

その際に、PdMはフェーズ1ではどこまで創るか、フェーズ2ではどこまで創るかなどを明確に示すことで、チーム全体が目指すべき方向性がはっきりさせる必要があります。当たり前のようですが、高い山は一気に登ることはできません。新規事業を立ち上げる際に、その新規事業がなぜ重要なのか、どのような方向性で進んでいくのかを経営層をはじめ、チーム内外のメンバーに示して行き、協力体勢を得られなければ、プロダクト云々の前に成功は遠ざかってしまいます。経営層やマネージャー層だから、全てのことを把握しているだろうと思うことは大きな間違いです。何を話すにしても、前提の知識を揃えて話を始めるために、わかりやすいプロダクトの道筋を示すことはPdMの責務の一つです。新規事業チームは外からみて何をしているのかわかりづらいと思われることが多いですが、それではプロダクトを成功させることはできません。しっかりと透明性を高めていく取り組みをしていく必要があります。

では、どのようにフェーズを切れば良いでしょうか。それは、そのプロダクトが世の中のユーザーに使ってもらうためにまだ不確実性が高いと思われることが検証可能な単位でフェーズを切ればよいと考えています。実装やデザインの切りが良いところではなく、フェーズによってどの仮説を検証したいのかを考えます。

そして、次に重要なことは工数を見積もりスケジュールを出すことです。フェーズとスケジュールが出てくるとざっくりしたロードマップを創ることができます。デザインツールが充実しているので、Figmaなどを使って可視化させるのがよいと思います。フェーズ1は何月までに到達させ、フェーズ2への移行の判断はいついつまでに行い、などの具体的な話を詰めていきます。新規事業でありがちだと思うのは、しっかりとした方向性が示されないままフワッと始まってしまい、明確な目標がないままに何をしているのかわからないと周囲に思われてしまうことです。新規事業担当PdMは事細かに周囲に対して自分のプロダクトがどのような状態であるかを説明していく必要があります。

専任PdMをつける

新規事業が上手くいかない原因は、プロダクトが良いかどうかの前、組織的な問題が多くあると思います。急成長するベンチャーでは、リソースが常に足りません。新しいスタートアップが次々と生まれ、資金も多く流れ込んでエコシステムが整ってきたにも関わらず人的なリソースの供給が追いついていないと考えています。リソースがないないと言っていては、いつまで経っても新しいことを始めることはできません。

あるあるとしては、様々な役割が兼務で新規事業がスタートしてしまうことです。本当の初期は良いかも知れませんが、実際に開発が進む段階では専任のPdMが必要であると強く思います。新規事業では、仕組みが整っていないので何もかもがカオスな状況です。人間はわかりやすいものから手をつけてしまいがちですし、人事評価という面でも兼務という状態ではフォーカスしきることができません。できるだけ早く専任のPdMをアサインしてください。PdMが要件定義して、ゴリゴリ進めていく中でエンジニアやデザインリソースが潤沢にあることが望ましいですが、そんな上手くいくとは思えないので、開発リソースは外注するか社内のリソースを借りる必要があります。

新規事業に対して専任のPdMをつける人的リソースの権限がPdM自身にないことがほとんどだと思いますので、この記事を読んでいただけている方が権限を持っていないかも知れないので、自分からリソースの権限を持っている人に進言するなどしても良いと思います。

ここで前述したフェーズとスケジュールが重要になってきます。いくら社内だからといって、よくわからないものにはリソースを投下することができません。社長肝いりのパターンで半ば強引に進めることはできるかも知れないですが、誰もが納得して進めることができないとどこかに歪みが生じて上手くいかないでしょう。そのため、フェーズ1ではこれこれこういうものをいつまでに創る計画を立てているので、そのためのスキルセットを持ったエンジニアやデザイナーが必要であるということを社内の利害関係者や経営層に示していく必要があります。結構カロリーが高いことをするので、専任ではないと気持ちが他にいってしまうこともしばしばだと思います。人間、言い訳をするのは得意なので、言い訳ができないように環境を整えることが重要です。

しかしながらPdMリソースも貴重です。余剰リソースなどないと思うので半ば、専任のPdMをつけるという意思決定を決めでするしかないと考えています。PdMはただ単に役割なので、適切に権限移譲して、なんとか一人新規事業に充てるようにします。

専任PdMをつけることのデメリットもあります。それは自分のプロダクトに集中するあまり視野が狭まってしまうことです。具体と抽象を行き来して、本当に今この事業にリソースを投下すべきかどうか常に考え続ける必要があります。世の中が急激に変化して、実は他の事業にリソースを振った方が会社全体として良い判断になるうるかも知れません。そうすれば、自分の担当プロダクトがなくなってしまう危機になると思いますが、本来の目的を失ってはいけません。自分のプロダクトを成功させることが目的ではなく、会社のビジョンが実現し、社会により良い影響をもたらすことが最終的なゴールだと考えて、俯瞰して物事を捉えることが重要だと考えています。

PdMと新規事業の親和性

PdMの役割、スキルはプロダクトのフェーズや個人の職歴によって千差万別です。担当するプロダクトによって役割は異なりますし、自身が何からPdMになったのかによって強みは変わってきます。それぞれについて考えてみます。

まず、僕はエンジニアからPdMになったので実装することが得意です。新規事業の超初期において、きめ細やかな仕様書がなくても叩き台をさっと作って仮説検証することができます。初期段階は不確実性が最も高い状態です。スピーディに創って壊すを繰り返すならば、頭の中のアイデアをすぐに実装して試していくスタイルは新規事業の立ち上げと相性が良いと思います。

デザイナー出身PdMの強みは高速な要件定義と協力体制の構築にあると思います。作るべきものが決まっている段階での実装は速いです。昨今のアプリ開発ではデザイン性が高く、ユーザー求めている体験も高度化しているので、ただ単に創っただけでは使われない可能性が高いです。高速なUI/UXをチームに提供して、要件定義を推し進めていくことは新規のフェーズでは非常に強みになります。また、デザインスキルを活かして開発の用件やスケジュールを可視化させて説明し、協力体勢を作ることで、プロダクトの成功の確度がぐっと高まると思います。

ビジネス出身のPdMは想像に偏ってしまいますが、そのプロダクトでいかにマネタイズできるかを示していくことが強みであると思います。PdMというよりも、事業部長の方が向いているかも知れません。ビジネス出身の方がPdMをされているケースであれば、PdM自身がそのドメインのスペシャリストであるケースが多いと思います。新規事業を成功させるためには、ドメイン知識は欠かすことができません。前提知識があれば、要件定義をする際に具体的なアイデアを元にすることができ、使われないプロダクトを創ってしまうことがぐっと減ると思います。

役割を明確にする

新規事業において、関わるメンバーの役割を明確にしておくことは非常に重要です。何でもしなければいけないフェーズではありますが、個々の役割がかにばってしまっていたり、ボールを拾う人がいなかったりすればリソースを最適に充て、成果に結びつけることはできません。

具体的には、新規事業を立ち上げるために必要な役割を列挙して責任者をアサインしていきます。皆が認識しているように見えて、実は責任者が不在であったり、同じようなことをやってしまうことは多くあると思います。役割を可視化させることで、全員の認識が揃い自分がフォーカスすべき領域が明確になります。また、大事なのはプロダクトオーナーを経営陣の誰かにすることです。少なくとも経営陣の誰かにしなければ様々なリソースの確保や方向性の合意など、重要な場面での調整が困難になってしまいます。

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新規事業におけるPdMの役割

新規事業、つまりプロダクトが初期段階におけるPdMの役割は既存プロダクトとはどう異なるのか考えてみます。PdMとは「プロダクトの成功に対して責任を持っている」役割になります。そのため、基本的な概念自体は変わらないのですが、初期段階ではそれぞれの役割がかっちりと決まっていなかったりするので、広いカバー範囲が求められます。そのため、僕も新規事業においてはクラシルが初期だったころと同様に幅広い役割をこなしています。もうやっていないことも含みますが、新規事業を立ち上げていた時にやっていたものを抜粋します。

・クライアント先に行くセールスに同行する
・CS対応
・管理サイト/APIの実装
・エンジニアの採用
・プロダクトの目標設定資料を作成
・ロードマップ策定
・様々な企画を回す
・KPIの自動レポーティング
・redashでSQLを書いて分析...etc

概念的には以下です。この図におけるグレーの領域がPdMのカバー範囲です。グレーの領域はそれぞれの役割がカバー仕切れない領域です。初期ではプロダクトを成長させるために必要な役割がそれぞれまだ大きくないので、メンバー個々がカバー範囲を広げることもできますが、その中でも落ちてしまうボールをPdMが拾いにいきます。

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MVPとは何か

MVPという言葉は新規事業プロダクトをリリースする際に必ず出てくる言葉だと思います。課題検証が可能な最小単位のプロダクトという捉え方をしてますが、気を抜いてしまうとMVPではないものを創ってしまうことがあります。わかりやすい図や記事を紹介します。

@kecbon さんがシェアしている画像や貼られている記事の中にある車のMVPに共通していることは、それぞれ仮説検証ができる単位であるということです。機能を少なくすることや、機能を小出しにするのではないのです。工数がない、スケジュールが厳しい時に、機能を減らそうとしてつい仮説検証ができないという状態をやってしまいがちなので、常にこの図を頭の中に描いておいた方が良いと思います。重要なのは、フェーズを分けて実装していく中でも、どの仮説を検証したいのかをイメージしておくことだと思います。

PMFをどう判断するか

梶谷さん (@kajikent) のnoteを引用させてもらいます。とても詳しく書かれているので、是非とも読んでみてください。

PMFの@定義として頻繁に挙げられるのが、「顧客を満足させる最適なプロダクトを最適な市場に提供している状態」です。

PMFをしているかどうかをいかに判断するのか、はとても難しいと思います。スタートアップにいて様々なプロダクトを創り見てきた感覚では、PMFしたかどうかはリリースした直後の市場の反応がはっきり違います。toCのプロダクトではRRや定性的にも熱量が高い口コミがあったり、toBのプロダクトではクライアントの反応が良く契約が進むという反応があります。これは初期の段階なので、コンセプトや将来性に対して期待をしてもらっているという可能性は高いですが、少なからず新規事業の種であるということを判断できると思います。

もしもプロダクトをリリースして、ユーザーは使ってくれているんだけどリテンションしない、口コミもない、クライアントの反応が良くないなどあれば、すぐに事前に立てた仮説を見直す必要があります。リリースしたプロダクトが仮説検証が可能な状態である前提ですが、ユーザーやクライアントの反応が悪いならば仮説そのものが間違っている可能性が高いです。仮説が変わればソリューションであるプロダクトも変わるので、すぐに仮説を見直してプロダクトを創り直す必要があります。

撤退基準を設け、すぐに断ち切る

新規事業で最も重要なことの一つに、どのような状態になれば撤退をするのかということをプロダクト開発に入る前に明確にしておくことです。プロダクト開発が進んでいくと、プロダクトのことを我が子のように愛してしまい、もし上手くいかなかった時に撤退するという判断をすることが難しくなることがあります。サイバーエージェントの例をご紹介します。

スタートアップJJJには、盛り上げるのと同時に、適切なタイミングで撤退できるようにするという側面もある。撤退基準のルールは、「資金ショート」「6Q連続赤字」「4Q連続時価総額1億円以下」「3Q連続時価総額減少」の4項目。撤退しそうになるとイエローカードが出され、会議でも紙が張られて周囲も気付くようになっている。

明確な撤退ラインは会社のフェーズや考え方によって異なるとは思いますが、具体的なKPIを設定したり、将来的な利益がどのくらい望めるのかということで四半期ごとに判断することが多いのかと思います。KPIについて、toCプロダクトでは、ユーザー数やRRなどサブスクなら新規会員数でしょうか。toBプロダクトでは契約数が挙がってくると思います。PdMは自分のプロダクトを成功することをまずは考えるべきですが、このプロダクトは本当に成功するのか、会社にとって本当にリソースをかけるべきなのかということを常に俯瞰して考えることが重要だと思います。

危機感をすぐに共有する

新規事業においては、個々の事象が事業に与える影響が大きいです。例えば、ユーザー数が1,000人を越えたということやクライアントとの契約が1件決まったということはどのフェーズの事業においても素晴らしいことですが、事業に与えるインパクトが占める割合でいえば、新規事業であるほど大きくなります。

同様に、チームの一人一人が抱えている危機感が新規事業のその後に関係してくる可能性も非常に大きく、新規事業そのものの存続に関わる事態になりかねません。危機感というと大袈裟かと思いますが、モヤモヤ感といいますか、漠然とした不安なことは、結構当たると思っています。そのため、そのモヤモヤ感をメンバー間で共有し、早急に手を打つことが非常に重要だと思っています。

しかしながら、これが目の前のことに注力していると言い出す機会がなかったり、モヤモヤしているだけで言語化できないので発さないなど様々な要因で表出してこないことが多いと思っています。また場の空気的にも言えないということもある可能性もあります。僕は1on1の時に、今モヤモヤしていることはあるかということを定期的に聞いたり、アンテナを神経質に立てて新規事業関連のslackでのやりとりを注視するようにしています。ちょっと気になったことでも逐一確認するようにして、不安の芽をすぐに取り除くことを心がけたりしています。PdMはプロダクトの成功に対して責任を持っている一方で全知全能ではないので、上手く情報を集めて少しでも危機感があるところは自分が入っていく姿勢が必要だと考えています。

既存事業と上手く連携する

新規事業を成功させるために、必須条件の一つは既存事業、組織と上手く連携をすることです。全てを自分のチーム内だけで解決しようとしないことを常に念頭においておくことが重要です。組織が分かれていて、やっていることも異なってくると、なかなか相談できないということはよくあることだと感じています。しかしながら、事業は違えど同じ会社で同じビジョンに向かって戦っている仲間には変わりがないです。連携するというのは、リソースを借りるということもあると思いますが、それには止まりません。社内でのナレッジや技術の相談を含めて、新規事業チームは自分たちだけで戦おうとしないことが重要だと考えています。

連携に必要なことは、状況の可視化と相手のメリットを考え抜くということです。新規事業だから、社内だからといって甘えてはいけません。まずは、自分たちは何のために新規事業を立ち上げているのか、そのためにどのようなロードマップを引いていて、どのような状況にあるのか。これは、たとえ経営層であったとしても全てを把握しているとは限りませんので、全く知らない人に説明するくらいの意気込みで理解してもらえるように心がける必要があります。また、新規事業だからといってtakeし続ける姿勢では搾取しているだけです。新規事業だからこそ、新しい技術を試すであったり、スピーディに企画を試すであったり、何かしらのノウハウをシェアするなど既存の組織においてもメリットのあることを意識する必要があります。全くのゼロからスタートアップしているのではないという利点を最大限活かすことで、1%でも事業の成功のために行動すべきだと考えています。

環境を分け、独立性を担保する

「環境」という抽象度が高い言葉を使ったのは訳があります。環境的な面でいうと、メルカリやサイバーエージェントでは子会社を立てて、オフィスも分けていたということもあります。

既存事業もそうかもしれないですが、新規事業は上手くいってない期間が長かったり、スタートアップと似た独自の文化が形成されるなどあります。少なくともある程度の規模になったら事業部として独立させるべきだとは思いますが、同じ社内とはいえ独自の文化を育て、事業を成功に導いていくためにはオフィス環境すらも分けるなどしても良いかも知れません。

また、開発環境も分けるなどして完全に環境を分けておくことでスピーディーに意思決定して進めることができます。既存事業では、関わる人も多く様々なルールが設けられていることも多く、人為的なミスが事業に与える影響が大きいです。そのため、それを防ぐための仕組みがあります。一方で、新規事業では事業自体を成長させることが目下の取り組むべき事項にあるのでスピードを重視して様々なことを先延ばしにしていることも多くあります。そのような違いを調和させるか、環境を分離してお互いに影響しないような仕組みを作ることに注力するかありますが、環境を分離させることが良いのではと考えています。

なんでも"しない"

新規事業はカオスな状況下であり、担当PdMは何でもする姿勢が大事です。しかしながら、向かってくる球を何でも打ち返していては時間がいくらあっても足りません。意識すべきは、今チームがリソースを投下すべき最も重要な課題は何かを常に考えることです。下記の本がとても参考になるので、読んでみてください。

とはいえ、やるべきことは山積していきます。やるべきことを精査していったとしても、プロダクトの初期では様々なことが整っていないので、やった方がよいことは無限にあります。僕が具体的にしていることは、notion に定期的に自分の業務を棚卸して、具体的なアクションを羅列しています。羅列して、そもそも取り組むべきか、本当に自分がやるべきか、実装せずに済む方法はないのかなどを考えています。棚卸ししておくことで、取り組み忘れるということはないですし、依頼が来たからトッププライオリティになるなどがなく、同じ土俵に並べて優先度をつけることができます。PdMは何でもすべき姿勢は必要ですが、何でもしないことを意識することが必要です。

既存事業と変わらないもの

僕はクラシル事業のPdMも担当していたことがあり、エンジニアとしてはクラシルの創業期から携わらせてもらっています。一つの事業しかないスタートアップ期と一つの事業が成長し、新規事業を立ち上げるということも今まさに経験しています。既存事業から新規事業に変わった時に変わらないものについて考えたいと思います。

プロダクトに対する向き合い方は変わらないと思います。2,600万DLされている日本でも有数のアプリから、本当にゼロベースからスタートをして、rails newすらも自分の手で行いましたが、誰かを幸せにするプロダクトを創るということは変わらないですし、むしろ会社全体としては対象とするユーザーやクライアントが増えるはずなので、楽しみでした。これからの仕事人生の中で、一つのプロダクトに一生を捧げることは滅多にないと思います。様々な規模のプロダクトにフォーズも異なる中ジョインすると思うので、既存プロダクトに執着することなく、どうすれば自分のプロダクトを成長させることができるのかということを考えられる機会が得られたのは幸運でした。

プロダクト開発においても、やっていることはほとんど変わることがないかなと思います。既存事業を開発していて、突然明日から新規事業の開発をすることになったとしてもキャッチアップ以外はやること自体はほとんど変わらないと思います。仕様書を書いて実装をして、など基本的なフローは同じです。新規事業だからということで何か特別なことがあるとかはないように思います。これはエンジニアとしてもデザイナーとしても、どのフェーズにおいても通用する人材になるという点では、実務レベルでは変わることはないですが、後述する仕事の仕方をアップデートする必要はあると思います。

既存事業と変わるもの

既存事業から新規事業に担当が変わり、一番変わったものは仕事の進め方です。プロダクトに関わる人数がぐっと落ちるので、プロダクトマネジメントの領域が広がります。その結果として、チーム内でコミュニケーションするパスが多くなるので、臨機応変に対応しなければならないことが増えます。また、事業部長との距離が物理的にもかなり近くなるので、素早く共有することで物事の意思決定のスピードがあがるため、細かい優先度を適宜変えながら仕事をすることになります。クラシルの初期の頃も同様だったと思うので、これはフェーズによって異なるのだと思います。

もう一つ、競合関係や外部環境がプロダクトに与える影響の度合いが高くなったと思います。具体的には競合の動きやクライアントの反応・要望によって優先度を都度判断する必要が出てきます。既存事業においては、チームが成熟し開発フローも安定しています。開発するためのチームも複数あるため、急激に変化があった場合でも全ての優先度を変えてチーム全員が動くということは少ないと思います。新規事業の場合は人数が少ないということもあり、日々の優先することが何かという変化の度合いは、やはり新規事業の方が刻一刻と変化すると思います。環境要因のプロダクトに対する影響度合いが強いので、しっかりと外にアンテナを張って置く必要があります。

また、後発の場合は競合の方が圧倒的に強いので、競合関係を強く意識する必要があります。競合に対してもいずれかは存在が知られてしまうので、封じ込める手段を取られた時に柔軟にイシューを変えなければ、リソースや経験値では何枚の上を行く存在ですので、すぐにたちゆかなくなってしまいます。競合にはない機能を開発したとしても、機能的な差分はリソースをかければすぐに真似ることができるので、数年は真似できない武器を持っておくことは非常に重要だと思いました。

事業成長のために必要なこと

新規事業を成長させるために、どのようなことが必要なのでしょうか。紹介するNewsPicks CTO 杉浦さん (当時) の記事は大切な示唆を与えてくれます。

最初に結論を言うと、事業を成長させるために必要な3つの事は 「Think big」「Start small」「Scale fast」です。
でっかく考えて、小さく打ち出して、ここだと思えば一気に拡大する。これだけです。この3つができていれば事業は成長します。

これは非常に大事な考え方だと思っていて、ここでは「Start small」について考えます。

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杉浦さんの記事では、上の小さい丸ではなく、下の尖った形状が「Start Small」であると書かれています。

小さく始めるのではなく、尖らせて始める。単純に小さく始めると、ただの小さいサービスになってしまいます。ただの小さいサービスをスタートしても世の中は何も変わりません。これには、気をつけないといけません。

まさに、そうだなと思うのですが、前述したMVPとは何かということにも似ていて、ついつい陥ってしまう罠に少ないリソースとタイトなスケジュールだと、小さい丸を作ろうとしてしまうことがあります。新規事業を創る価値は今まで市場になかった新しい価値を市場に対して問うことだと考えていて、競合と全く同じプロダクトを作っても、同じものを超低コストで提供できるなど構造の転換などがないと誰も幸せになりません。

ここで大切な考え方は「競合と同じものを創るな」ということではないということです。時間軸の話で、同じ領域で長くコミットしてきた競合よりも優れたものを作れろうなどと最初の段階から自惚れてしまってはいけないです。まずは、しっかりとコアな価値を最速で構築しつつ、その後に独自の価値を創り上げていく必要があります。その時に競合関係に囚われずに本当にユーザー、クライアントにとって価値があることは何かということを「Think big」する必要があります。短期では悲観的に考えて、長期では楽観的に、こんな世界あったら良いよねということを想像して、小さく始めることが重要なのだと思います。

新規事業PdMに必要なマインドセット

PdMは「プロダクトを成長させるために責任を負っている」役割です。基本的には既存プロダクトと同じで、何としてでもプロダクトを成長させるために何でもする姿勢が重要だと思います。

強いて書くのであれば、未知の分野に果敢にチャレンジする精神をより強く持つことだと思います。エンジニア出身ではありますが、データベース関連はフレームワークに任せっきりでSQLをまともに書いたことがなかったり、今まではチームメンバーに可視化させるためのスプレッドシートからのGASでSlack通知などはお願いしてしまっていました。しかしながら、新規事業となればリソースはとても限られています。この1年でSQL力がぐっと飛躍して、スプレッドシート関連やGASで何でもできるようになりました。そして、外部との交渉の現場にも出ていったりと今まで他部署で行っていたことをすることが多いです。ご紹介するLINEの記事にあるカメレオンのように、自分自身を変化させていくことが、事業の存続にクリティカルヒットします。

また、常に意識したいことは自分の事業だけで考えないことです。常に組織や業界全体を俯瞰して鷹の目を持つ意識が重要で、気を抜くとすぐに自分の中だけで解決しそうになってしまいます。自信があればあるほど、自分が何とかするという思想、ダークサイドに堕ちてしまうのですが、本質的には事業が成功する (事業ビジョンを達成する) ことを目指しているので、それを忘れないようにすることが重要です。

新規事業におけるチームマネジメント

新規事業におけるプロダクトチームのマネジメントで心がけていることは、自分事化するクセをつける、自走できるように情報収集と権限移譲する、個々の壁を取っ払っていくことです。

新規事業はスタートアップに似ています。関わるプロダクトにおいて、関わる人数はグッと減ります。例えば、100人一つのプロダクトの様々なことを取り組んでいたところが、一気に数人で一つにプロダクトをどうにかしなければならない環境になるわけです。正直なところ、100人で向き合っていた時には、自分事化できる面積や高さには限りがあると感じています。しかしながら、新規事業においてはコミットしている人が数人になるので、基本的には関わる数人にプロダクトの存続がかかっているわけです。全てを自分事化して、明確な役割があった上で何でもしていく姿勢はチームに所属する誰もが持たなければなりません。それはPdM以外もそうです。そのクセを個々が身に付けることができるかが成功の鍵を握っていると思っています。常に口癖のように伝えていく、自分自身が在り方を示していくことを忘れてはいけません。

自走できるチームとはどのような状態でしょうか。

僕の考えでは、自分自身で物事を決めていくために必要な情報を自分自身が膨大な情報の海の中から取捨選択できる状態で、権限が移譲されていることが自走するためには必要だと考えています。まず、自分で意思決定していくためには、必要な情報を集める必要があります。しかしながら、社内に飛び交っている情報だけでも膨大な量があり、外はまさに情報の海になっているため、その中から自分のプロダクトを成長させるために必要な情報を取捨選択して取得しなければなりません。これが非常に難しいことで、日々仕事をしている中で実務だけをやっていては情報は入ってこないし、情報収集だけやっていれば一向にプロダクトは前に進みません。バランス感覚が重要なので、既存組織では情報の取捨選択をマネージャーが行っているケースもあります。しかしながらリソースが乏しい新規事業においてはマネージャーが実務もこなすプレイングマネジメントをすることが多いので、チームの個人が情報を取得することができた方がチームの生産性が高くなります。そして最後に適切に権限が移譲されていることです。ルール整備とまではいかなくて良いですが、適切に意思決定ができる情報量があり論理的な思考ができれば、あとは意思決定して推進していくだけなので、権限が適切に移譲されていれば推進が可能です。PdMに毎度どうすれば良いのかを問わずしてもプロダクトが前に進んでいくので、適切に権限が移譲できている状態を目指すのがよいと思います。

最後に、新規事業ではプロダクトに関わる人数がぐっと小さくなるので、個々の連携が肝心です。そのためには、できる限り個々に壁を作らないマネジメントが必要です。個々というのは、プロダクトチームだけではありません。プロダクトチーム、セールスチーム、マーケチームが有機的に連動することが必要です。最も簡単に壁を取っ払う方法は、コミュニケーション量を高めることです。物理的には、席を近づけることです。既存組織で人数が多くなるとどうしても席は部署ごとになって朝会などのmtgも部署内だけで完結してしまいます。新規事業では、密にコミュニケーションできるように物理的に近くに寄せて、個々の会話が横耳に入るくらいで良いと思います。何気ない会話の中に、重要なことが含まれていることもありますし、明らかに話しかけ易くなります。普段どんなことをしているのか、いつ話かけやすいのかというタイミングを見つけることは意外と大変なのですが、すぐ近くにいればそのタイミングを見つけることも容易になり、情報伝達や相談の機会は飛躍的に高まります。

新規事業におけるステークホルダー調整

新規事業におけるステークホルダーは誰でしょうか。割と自分たちだけで全てが完結していると思い込んでしまうことがある気がするのですが、会社は常にその新規事業がこれからも投資していく価値があるのかを考えています。新規事業に割いているリソースを既存事業に回した方が全体最適になることもあります。

新規事業におけるステークホルダーは、広くは経営層と各部署の部長レイヤーになると思います。会社でも重要な方々からの理解を得られ、協力体勢を作れなければ、プロダクト云々の前に社内的な事情でプロダクトの運営が上手くいかなくなってしまうと思います。なぜなら、プロダクトの成長確度を1%でも上げるためには、自分たちだけで解決しようとせず、会社にあるアセットをフルに活かすプランを考えた方が良いため、何かしらをお願いすることがあるからです。その場合、自分たちのプロダクトが会社に対してどのように役立つプロダクトなのか、何を目的に何をしようとしているのかをわかりやすく伝える必要があります。既存プロダクトにおいてプロダクトマネジメントをするとは別の難しさがあると思います。

曖昧さで語るのは止めよう

新規事業はスタートアップに似た雰囲気がありますが、別物だと思います。スタートアップの数人の時と明らかに違うと感じているのは、スタートアップ独特の阿吽の呼吸みたいな曖昧さでは、伝われないことがあるということです。自分の反省点なのですが、人数が少ないからといって、自分の考えが同期しているわけではないので、ノリで物事を進めようとすると、よく事故を起こしてしまい、誰も幸せになりません。そのため、しっかりとドキュメントに自分の考えを示しておくこと、誰に対しても話の始まりは目的や背景を説明して、何をお願いしたいのかということとアウトプットの期待を常に言語化するように心がけています。また、タスクも管理も曖昧にするのでは進まないことが多いので、NextActionと期日を明確にしてすぐにslackで共有するなどをしています。これは、たとえスタートアップ時でも役立つことだと思うので、今学べてよかったと思っています。

旗を立てる

プロダクト開発は山登りに近いと思います。どの山に登るべきかということを見誤ると、当たり前ですが、どんなに優秀な人を集めたとしても成功はできません。また、チーム内でどの山を登るかという共通認識を作ることが非常に重要で、そのことについて詳しく下記のnoteに書きました。

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PdMは日常的に、自分たちがどの山を登っているのかをしつこいくらいチームに説明していくことが必要で、言葉だけではなく、Figmaなどを用いて具現化することも大事です。新規事業は環境変化を強く受けるので、迷ってしまった時に自分はどの山を登っているのか、現在地を把握することができるようになっていることは結構大切だということを痛感しています。

ユーザーと向き合い続ける

新規事業こそ、定量・定性のユーザー分析は綿密に行った方がよいと思います。自分たちの目指す方向性が正しいのかを最初の内に軌道修正しなければ、後々取り返しがつかなくなってしまいます。目指している方向が1度ずれただけでも長期で見た時には辿り着きたかった地点とは大きくずれてしまいます。

定量分析はしっかりとログを仕込んでKPI設計をすれば良いので、見るべき指標が間違ってなければ大丈夫です。基本的には、指標はシンプルにするのが良いので難しく考えなくて良いと思っています。難しいのは定性的な調査で、答えを見つけることが容易ではありません。プロダクトをリリースする前なら、対象となりうるユーザーに聞いてみるという手段や競合サービスを使っているユーザーに話を聞くのが良いと思います。詳しいユーザーヒアリングの方法は別の本などにお任せしますが、気をつけないといけないことは、ユーザーに質問をする際に期待する答えに導くように無意識的に仕向けてしまわないようにすることで、ユーザーの本当の声を拾っていく繊細さが必要だと思います。

リリースしてある程度ユーザー数が集まりだしたら、使ってくれているユーザーの話を聞くことも必要で、自分たちが意図したようにプロダクトを捉えてくれているのか、新しい発見はないかを常に情報収集します。僕が思っているコツは、本当は対象ではなかったユーザーが使い始めた理由と対象だと思っていたユーザーが使うことをやめてしまった理由など、ギャップがあるところにヒントが隠れているのではと思います。割と自分たちが意図した通りのユーザーがいて満足してしまうことがありますが、ユーザーの行動が変容した起点にこそプロダクトを成長させる何かがあると考えています。

創って壊す、実験思考

気持ちとしては1打席でホームランを狙いにいくのですが、実際には1打席でホームランを打つことは容易ではありません。常に実験的な思考で、自分たちの課題認識を市場に問い続け、答え合わせをする姿勢、それらをスピーディに検証していくことが必要です。許される限り何度でも失敗して、スクラップ&ビルドを繰り返していく必要があると思うのですが、その度に何かしらの学びがなければ実験とは言えません。適当に開発して、ダメだったよね次に行こうではいつまで経っても成功は運任せになってしまいます。

実験とは、自分たちの仮説の検証であり、仮説が正しかったのかという学びが蓄積されていきます。どの部分が仮説と異なっていたのかを知識としてチームに蓄えていく必要があります。

もう一つ大切なことは、先人たちの実験結果の上に立つことです。

ノーベル賞受賞者である山中教授はプロフェッショナル仕事の流儀の中で、自分は鎖の一つであるという表現をされていました。研究とは先人たちが紡いできた鎖を自分も後世に繋いでいき、人類を前に進めることだと解釈しています。

プロダクト開発も同じです。今までインターネット界隈の偉人たちが作り上げてきたものの上に僕らが立っています。様々なプロダクトが世に出ては消えてを繰り返しています。それらは先人たちが行ってきた実験の軌跡であり、それらを頭の中にインプットする必要があります。それらの先に自分の解釈を加えて実験をしていく。ポッと頭に浮かんだアイデアを適当に試しているだけでは成功確度は上がりません。

プロダクトを前に進める

プロダクトを前に前に押し進めるためには何が必要でしょうか。

理念なき行動は凶器、行動なき理念は無価値 (本田宗一郎)

プロダクトを前に進めるためには、チームメンバーが行動をすることが重要だと思います。議論ばかりに時間を使うのではなく、アクション数を増やしていくのが重要だと思いますが、議論がない行動はそれはそれで危険だと思います。社内新規事業では気がつくと議論に時間を使ってしまうことが多い気がして、リソースがある程度あれば議論に時間を使う人と手を動かして物事を押し進める人を分けてバランスをとることができますが、リソースが乏しい新規事業ではそうはいきません。

しかしながら、アクション数を飛躍的に高めたからといってそれが事業の成長に寄与するとも限りません。このバランス感覚が重要ですが、新規事業を立ち上げる時にやっておいてよかったことは、最初に考える時間をガッツリ設けてしまうというやり方です。最初の1~2週間は手を動かさなくてもいいので、その時点で考えられることは全て考え切ってしまう。行動しながら考えるという脳の効率が悪くなりそうなことはせず、まとまった時間を取ること。手を動かしていないとうずうずしてしまう人も一度止まって考えたことを脳内に蓄積しておくことで、後々の動きのスピードが高くなった感覚があります。あらゆることをすでに考慮できているので、何かあったとしてもすぐに軌道を修正することが可能になります。プロダクトを前に進めるのはアクション数です。議論していても前には進まないので、気をつけないといけないですが、議論していない行動は徒労に終わってしまうことも考えないといけないです。

信じてやり抜く

既存事業もそうだとは思いますが、スタートアップ時と比較すると、新規事業の場合は様々なステークホルダーからの意見をもらうことが多いです。誰からもらったアイデアでも、しっかりと吟味して必要なことがあれば取り入れていく必要があると思うのですが、重要なのは自分たちが信じることはぶらさないことです。なぜなら、実際に動く自分たちが信じていないことを追いかけたとしても成功には近づかないと思っているからです。自分たちだけで考えて行動しろというのではなく、外部の情報を含めて認識を常にアップデートしていく必要があると思いますが、常に自分たちが信じているものだけをやり抜くことが重要だと考えています。

仕事をしている上での失敗として、自分が考えていたものではなく、誰かのアイデアで動いた結果、実務を行うメンバーも腹落ちせずに進んでしまい、そのまま気持ちも入らないまま頓挫してしまうということがあり、自分が信じることを諦めてしまわないようにと自戒しました。新規事業では死活問題になるので、しっかりとチームが信じてやり抜けることをすべきだと考えているので、違った解釈だった場合にはしっかりと議論して進めるように心がけています。

競合との差別化

競合とどのように差別化していくかは必ず議論になります。数年の後発である場合は、機能的な差も大きくユーザーに使ってもらえる理由を作るのは難しいです。一つはコンテンツのフォーマットの転換期で、文字と写真のコンテンツから動画コンテンツへと移り変わるなどのがあれば、明確に差別化できると思います。しかしながら、そのような転換期は常に押し寄せるわけではありません。

まずは、競合がユーザーに提供している本質的な価値を分析するところからスタートして、機能的な差分を埋めていきます。同じ機能を提供しているうちは価格差でしか勝負することはできませんし、toC向けのアプリだった場合は基本的には無料である程度使うことができると思うので、価格での差別化をすることが困難になります。機能的に同じ機能を実装することができたら、ブランディングなどのマーケティング戦略で差別化を行いますが、本質的な価値が同じ場合には基本的には先駆者が優位の状態がずっと続くと思います。しかしながら、面白いことに数年程度プロダクトを運営していると、どのようなプロダクトを目指しているかによって、機能差分も少し出てきて同じようだけど異なるプロダクトになっていきます。その時に、圧倒的にユーザー視点で使い勝手がよいプロダクトを創り続けていけば、間違うことは少ないと思います。4~5年生き残っているプロダクトを創ることも容易ではないと思いますが、4~5年経つと登るべき山によって差分が出てくるのは面白い発見でした。裏を返すと、どういうプロダクトを創りたいのかという思想の良し悪しによって将来的な広がりが決まるということです。初期の構想がどれだけ大きくできるかに頭を使うのが良いと思います。

短期で悲観、長期で楽観

プロダクト開発において、短期で悲観、長期で楽観することが重要です。10年後にはこういう世界にしたいよねという実現性はおいておき、理想を広げていけるかが大事であると思います。一方で半年、1年後にはしっかりと数値を見つつシビアに捉えて神経質なくらい数字に貪欲になるのが吉だと思います。長期では最高のイメージを想像して、短期では最悪のパターンを考え尽くして先手先手で不安の芽を取り払っていく。この石橋を叩いて渡るくらい悲観して物事を捉えておくくらいがちょうど良いと思います。あらゆる場面でなんとかなるでしょと楽観的に考えてしまうと、後々取り返しが付かなくなってしまうことがよくあることです。

新規事業のリソース問題

新規事業において、リソース不足は死活問題です。スタートアップの場合は資金がショートするなどもありますし、どの新規事業にも予算があるので、湯水のように資金を突っ込むことはできません。また、人的リソース問題も頭を悩ますと思います。PdMはそのような場合にどのように立ち向かうべきでしょうか。

まず、新規事業だからといって何もせずに人がアサインされることはほとんどありません。PdMが取るべきアクションは、プロダクトフェーズとロードマップの可視化です。まずはプロダクトが目指している地点に辿りつくまでどのようなフェーズを辿るのかを言語化します。そして、フェーズごとのどのような開発が必要になるのかを考えて、必要な人員のスキルセットをリストアップして工数を見積もります。その後、どのくらいのスケジュールで達成させようとしているのかを可視化します。この段階になってようやく、新記事業の開発において何をするためにどれくらいの人が必要がなのかを周りに説明できるようになります。これらの前提がないのに人が足りない足りないと言っていては、リソースを管理している人も誰をどのくらいの期間アサインすればいいのか把握することは困難です。

そして、あとはどのくらいのスケジュールで達成しなければ、どのようなリスクがあるのかを説明できるようにします。競合も同じような機能をリリースしようとしているならば、競合よりも早くリリースしなければマーケコストが倍かかってしまうなどあれば、速度を早める必要があります。競合優位などがなければ、あとは事業をどのくらいのスピードで成長させていくかという話になるので、今あるリソースではどのくらいの期間でどこまでタスクを消化できるのかを決めて、早めるのか何かを取捨選択するのかを事業部長を含めて決めていきます。どれだけ頑張ったとしてもリソースは限りあるので、あとは期間をどうするかを意思決定するしかないです。社内でリソースが確保できないけれども、急がなければいけない機能がある場合には外部のリソースを使うという選択肢もあります。外部リソースは比較的にコストやオペレーションを考えると高いのですが、機能提供のスピードを買うという意味で検討することもできます。いずれにしても、新規事業が何をすべきで、どのくらいの期間を想定しているかが可視化された状態になっていないと、どのリソースを充てた方がよいのかなどの議論にならないので、そこはPdMがしっかりと説明できるようになっておくのが良いと思います。

リーンなプロダクト開発

新規事業はとりあえず、機能を実装しまくれば良いのかというとそうではありません。使われない機能にいくらリソースを投下したとしても費用対効果が悪くなってしまうので、最も使われるであろう機能をより早く提供することが求められます。しかしながら、プロダクト開発にはこの機能は実際に使われるのか?という不確実性が伴います。新規事業の場合は、競合プロダクトがあればそれを使って不確実性を落とすのが効率的です。すでに実装しようとしている機能がいずれかのプロダクトにあるならば、それを使っているユーザーに話を聞けば不確実性がグッと下がります。

もしも新しい機能を開発するとなれば、リーンなプロダクト開発をするのが良いです。いつも紹介させてもらってる川嶋さんのnoteを紹介します。この開発手法は新規事業にも有効です。特にリソースが枯渇している新規事業チームでは効果を発揮すると思います。何を実装してリリースすべきか、何を実装しないべきかを常に考えることは非常に重要で、プロダクトの成功に寄与します。思いついたアイデアをなんでもかんでも実装するのでは、誰も幸せにならない可能性が高いです。

具体と抽象を行き来する

成熟したプロダクトでは、機能やKPIごとにPdMを置いて開発体制を構築することがあると思いますが、新規事業のPdMは基本的に一つのプロダクトの全てが干渉範囲である場合がほとんどです。その場合、細かな仕様を決めることから、プロダクトの未来を考えることまで様々な役割をこなす必要があります。この具体と抽象を行き来する動きが、日々の中で何度も訪れます。午前のmtgで事業部長を含めて未来のプロダクトをどうしていくかを話をして、午後にはエンジニアやデザイナとプロダクトの仕様決めを行っていることはよくあることです。遠くを見すぎると足下の開発がおざなりになってしまったり、実務をゴリゴリ進めていてはプロダクトがしりすぼみしてしまいます。このバランス感覚が非常に重要で、使う脳の部分が異なる気がしています。コツは前述しましたが、できる限り具体と抽象を考える時間を分けること、抽象的なことを考える時間をまとまって取ることがおすすめです。細切れの時間の中では思考が途中で止まってしまってもったいないです。参考になる本を紹介しておきます。

BtoBtoCプロダクトの難しさ

現在担当しているクラシルチラシというプロダクトは、BtoBtoCのビジネスモデルのプロダクトです。レシピ動画サービスのクラシルはマネタイズにもよりますが、レシピ動画コンテンツを提供しているのは運営側であり基本的にはBtoCのプロダクトになります。

BtoBtoCのビジネスモデルで代表的なものはリクルートで有名なリボンモデルかと思います。クラシルチラシにおいてもコンテンツを提供しているのは小売企業であり、それをユーザーに届ける中間に位置しているのが僕たち運営です。これはクラシルのPdMをしていた時とは別の難しさがあり、クライアントの幸せとユーザーの幸せの両方を考える必要があります。それがリボンモデルの根幹です。どちらか一方の幸せを優先するのではなく、どちらも幸せにしつつ、自分たちも幸せになるような三方良しのプロダクト設計が肝心です。

リボンの端の一方を伸ばそうとしても上手くいきません。両軸なのです。この答えはまだ持ててないですが、徐々に強固なリボンを形成することができれば、それが競合優勢になり得ると考えています。お金をかければすぐに構築できるというわけでもないので、地道な営業活動とマーケティングが必要な領域です。

たいろーさん (@tairo) が書かれている記事に、とても良い内容があるので紹介します。

要するに、つねに「生み出すインパクトの大きさ」を考えると同時に「一粒で、2度どころか3度美味しい解決策」を見つけ出そうとしているんです。

イケてるプロダクトマネージャーは常に、複数の課題を解決できるアイデアを探しています。リボンモデルのビジネスモデルを有するプロダクトにおいて、両端の課題を一気に解決できることが求められています。これをひたすら考えることが重要だと考えています。

toBに向き合うプロダクトマネジメント

現在担当しているプロダクトで初めてtoBクライアントに向き合うという経験をしています。実装するという点では仕様書を書いて実装するというシンプルなのですが、一番難しいのが何をすべきかを考えることです。toBのプロダクトはクライアントさんに契約をしてもらうことで利益を得ています。求めている価値を提供することができなければ契約してもらえず、1円も売り上げをあげることができないプロダクトになってしまい、仕舞いにはクローズとなってしまいます。この時、プロダクトチームが何をすべきかを考えることが非常に難しく、ただ単にセールスチームからリクエストがあったものをそのまま作ればよいというわけでは全くないのです。Yamottyさん (@yamotty3) の記事を紹介します。

僕の解釈は、一つ一つの要望を抽象化していって本当に必要なニーズを追究し、それらを複数個一気に解決できるアイデアにフォーカスすることです。しかしながら、時と場合によって期限がついている優先すべきものもあります。toBプロダクトのPdMの方々と話をするとあるあるの悩みで、一部しかたがないと思うこともありますが、常に抽象化すること同時解決できるインパクトが大きいイシューに向き合い続けることが重要だと感じています。

そしてもう一つの難しさは、自分がクライアントのことを理解できている度合いが上がりにくいということです。toCプロダクトであれば自分がユーザーになることができる例もあると思いますが、toBの場合はその立場に自分を置くことがしにくいです。PdMは体験させてもらえるならば、実際にtoBの現場に入って体験するなりするのが良いと思いますが、そうもいかない領域もあります。そうすると本当に解決しなければいけない課題に気がつきにくいという致命的なことに陥ってしまう可能性があります。そうならないように、自分もセールスチームの同行し一次情報を得ることや、クライアントヒアリングを定期的に行うことなどをして少しでも寄り添うことができるようにするのが良いと考えています。

一人の熱狂を生むサービスを創る

前述のPMFの話の中でも、どのようにPMFを判断するのか難しいということを書きました。どうやってそのプロダクトの良し悪しを判断すれば良いのでしょうか。この本がおすすめです。

N1分析をすると、実際にユーザーがどのようにプロダクトを使っているのかということがわかります。中には毎日毎日自分たちのプロダクトを使ってくれているユーザーもおり、それらの話を聞くことは非常に重要です。ユーザーやクライアント、たった一人でも熱狂させることができたなら、プロダクトが成長していける可能性は高いと思います。今思えば、レシピ動画のクラシルも初期から熱狂的なユーザーがいました。たまにユーザーインタビューに出ると2016年のリリース当初から使っているというユーザーさんにお会いすることもあり、非常に嬉しく思うのですが、当初から熱狂的なユーザーがいたということです。

熱狂的なユーザーが一人いるということは、個人個人は違えど、ユーザーがプロダクトを使う文脈はある程度パターンに絞られていると思います。たった一人いるだけで、後の大きなユーザーにとって有益なプロダクトである可能性は高いと思います。一方で、一人も熱狂的なユーザーがおらず何気なく使っていたり継続性が低い場合は非常に危険な状態です。すぐになぜ熱狂的に使ってもらえないのかを考え尽くす必要があると思います。

熱狂的なユーザーがプロダクトを使っている文脈を丁寧に紐解いていくと、抽象化することが可能なアイデアに辿りつくことがあります。それがコアな価値であり、磨き上げていくべきものだと考えています。意外とシンプルなものであることが多いです。クラシルで言えば「レシピが動画でわかりやすい」という価値が挙がってくるかも知れません。熱狂的なユーザーに話を聞くことは自分たちのプロダクトがどのように捉えられているのかという重要な示唆を与えてくれます。

スケールしないことをしよう

新規事業を成功させるためには、海外のスタートアップの事例を学ぶことも有益です。AirbnbやDoorDashの記事を紹介します。

既存事業を担当していると仕組み化すること、出来る限り自動化することを目指してしまいます。しかしながら、最初から上手くやろうとしてしまうと大切なことを見落としてしまうことになってしまう可能性もあります。最初から上手い仕組みを考えるのではなく、まずは自分たちで地道にやってみる。その中でインターネット的に解決すべき点とオペレーションを組んだ方がよいことを分けていくなど、実際にトライしたノウハウは血肉となってチームの財産になります。

PdMは特にユーザーやクライアントの代弁者となって、憑依するくらい理解することが重要です。考えるのではなく、自分の肌で感じること、まずは煩雑なオペレーションだったとしても体験することが非常に重要なのだとか考えています。

スタートアップの熱量

社内の新規事業は厳密なスタートアップではありません。新規事業に携わっている人もバリバリのスタートアップ人材であることは珍しいかも知れません。しかしながら、新規事業のチームにはスタートアップのような熱量が必要不可欠です。どうすればスタートアップのような熱量をチームに与えることができるのか。まだその答えに辿りつけてはいないのですが、重要なのはやはり"人"だと思っています。誰がやっても成功する方法ならば、誰もが成功します。ですが、現実ではそうではない。誰もが成功しているとは限らない。「これをすれば成長できる」ということはないのです。新規事業も誰をアサインするのか?という点が成功確度があげるのではないかと感じています。PdMが果たすべき役割は、どんな状況にも屈せず諦めない心で戦い続けることなのだと考えて日々向き合っています。

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運を掴み取る

フランスの化学者・微生物学者であるルイ・パスツールの格言が好きです。

Chance favors the prepared mind. (幸運は用意された心のみに宿る)

どれだけ優秀で実績がある人が新規事業をやっていたとしても、成功するかどうかは最後は運勝負みたいな側面があると考えています。市場の波が来るのか、競合はどう動くのかというのを察知することはできたとしてもコントロールすることは難しいです。突然やってきた競合に資金とリソースで殴り合いの戦いをしたら負けてしまうかも知れません。こっそりグロースして誰も追いつけない競合優位性を築くこともできるでしょう。こればかりは運次第だと思いつつ、それを手繰り寄せる力も実力のなのだと思います。

新規事業にはプロダクト愛が必要

個人的な考えを書いて締め括りたいと思います。

新規事業で最も大事な考えはなんですか?と聞かれたら「愛」だと答えます。しかしながら、愛があるだけではプロダクトを成長させることはできません。プロダクトを成功させるためには愛が必要だけれど、愛だけではプロダクトを成功させることはできない、そのためにしっかりとプロダクトマネジメントを学び、実践していく必要があります。詳しくはnoteに書きましたので、是非読んでいただければと思います。

終わりに

長いnoteを読んでいただき、本当にありがとうございました。

全ては役にたたなくても、たった一つでもどなたかのお役に立てたならば本当に嬉しいです。

このnoteを書いていて、プロダクトマネジメントの記事や本は増えてきたけれども、特に新規でプロダクトを立ち上げる時のカオスな中を切り開いていくプロダクトマネジメントについての活きたノウハウはまだ少ないように感じました。是非とも今後とも学んだことを発信していき、少しでも良いプロダクトが世の中に増えていってくれれば幸いです。

delyでは一緒にプロダクト開発に向き合ってくれる仲間を募集しています。

また、プロダクト開発チームがテーマ毎に話すイベントも開催しているので、興味を持っていただいた方は是非ともご参加ください。


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