継続率は未来を見通す
PdMノウハウの第11回目のnoteです。第10回目のnoteは「逆算と積み重ねのプロダクトマネジメント」でした。もし良ければ読んでいただけたら嬉しいです。だいぶ間が空いてしまいましたが、今日は「継続率は未来を見通す」というタイトルで、プロダクト開発に携わっていると必ず耳にする継続率 (Retention rate) を改めて言語化することで、理解を深めていきたいと思います。また、シミュレーションを作りました。参考にしていただき、自身のプロダクトが1mmでも成功に近づけば幸いです。僕が所属している組織について、このnoteで言及している概念については全く関係がないことを最初に明記させていただきます。
【付録】 DAUシミュレーション
最初に、付録として添付するDAUシミュレーションを貼っておきます。最終的には、このグラフが示す意味や使い方、自分で引く方法まで書いていきたいと思います。DAUとして継続率を説明していますが、読み替えれば、SaaSのクライアント数予想など他の指標についても応用が効くはずです。参考にしてみてください。
継続率とは何か
まず最初に、継続率 (Retention rate) とは何かについて定義をしたいと思います。僕は単に「リテンション」や表記では「RR」という感じで使っています。そもそも、継続率とは何なのか。このnoteでは、webあるいはスマホのアプリケーションについて書いています。
継続率は以下の式で与えられます。通常、継続率はスマホアプリの場合、インストールからN日時点のものとして扱われます (RR = Retention rate) 。
例として、2022/10/1に100人の人がアプリをインストールしたとして、起算日が0日目とカウントすると7日後の2022/10/8にアプリを利用した人が20人だとすると、継続率は20%ということになります。この時、注意すべきはインストールから7日間で利用した人の数ではなく、"7日後"にアプリを利用したユーザー数になるということです。そのため、それまでに利用してなかった人が8日目で偶然使うなどもあるため、7日目までに利用しなかった人がアプリの利用を止めてしまったということではなく、あくまで7日後時点での話ということです。
継続率はなぜ重要なのか
継続率がどんな数値か、大枠は理解できたと思います。では、なぜ継続率が重要な指標なのでしょうか。
ECでもスマホアプリでも、全ての源は利用していただけているユーザーさん一人一人にあるはずです。お店に来てもいないのに、何かを買ってもらうということや、スマホアプリでは取って欲しいアクションを促すということ、そもそもアプリを開かなければ行えません。そして、継続率を把握してないということは、「この前、キャンペーンの時お客さん100人くらいきたけど、今日は全然こないね、なんでだろうね」というようにデータを見ずに感覚だけでビジネスをやっているのと同じであり、再現性が高いとは言えないかと思います。
また、ほとんどのプロダクトの場合、新しくユーザーを引き込むために必要なコストがあるはずで、顧客獲得単価 (Cost Per Action : CPA) と言われているものです。例えば、極端な話ですが、100円しか利益がでないユーザーを1人あたり1,000円の広告で獲得していては、穴の空いたバケツに一生懸命に水を入れているのと同じです。また、一度来たユーザーが二度とこないということはなく、何回もリピートしてくれるお客さんもいるはずで、そこに客単価が掛け算されることで顧客生涯価値 (LTV) が導かれ、計算式上はLTVがCPAを上回っている必要があります。もちろん、ビジネスを運営するには顧客獲得に使われる費用だけではなく、人件費やオフィス代などさまざまなコストがあり、それらも加味する必要はありますが、計算式が複雑すぎるため、LTV > CPAという式がよく使われます。
上記より、継続率は全ての根幹となるユーザー数を把握し、その応用としてプロダクトの健全性を見るためのLTVの試算に利用されるということがなんとなくわかってきました。次に、継続率の一例としてDAUを予測するシミュレーションをしていきたいと思います。
DAUを予想する
継続率を用いることで、DAU (Daily Active User) を予想することが可能です。DAUは以下の式から与えられます。
例として、アプリを公開して3日後のDAUを予想してみます。
この計算式を任意の日数で試算することで、1,000日先のDAUを予測することが可能です。そのシミュレーションをこちらで行いました。最終的には、このようなグラフになります。計算に用いた、新規インストール数や継続率については定義タブ内にあります。
このシミュレーションでは、あえて長期の継続率を低くしてあります。プロダクトによっては、数年単位でずっと使い続けてくれるユーザーが一定数いたりするので、長期になれば継続率は寝てくる時もあります。あえて長期の継続率を低くした理由は、DAUが長期で寝てくるようにしたかったためです。DAUが寝てくるということは以下のことを示しています。
新規インストールと離脱数が釣り合うということは、これ以上にDAUが増えることがないことを意味しています。DAUを増やすためには、新規インストールを増やすか、離脱数を改善する、つまり継続率を高める必要があることがわかります。
継続率は未来を見通す力
プロダクト開発において、仮説を立て、検証し、また仮説を立てといった改善サイクルを回すことは、再現性高くビジネスを成功させるために非常に重要です。また、闇雲に時間を浪費せず、見切るをすぐにつけるという意味でも数字を追うことは非常に有用だと言えます。
これまで、継続率とは何か、計算方法、シミュレーションをして、DAUを予測することができるようになりました。それでは、どのように継続率と向き合っていけばいいのでしょうか。
突発的に創られるケースを除き、特に会社として取り組んでいる場合は何かを始める前には、常に計画を練る必要があります。いわゆる事業計画などです。その中で、どのように利益を創出していくのかが取り組むかどうかのキモになってくると思いますが、その数式の中でユーザー数やクライアント数、そしてそれぞれがどのくらいの利益を生むかを試算すると思います。そこで、継続率の概念を正しく認識して計画に盛り込めているかが重要になってくると思います。継続率は裏返すと離脱率 (チャーンレート) にもなるため、正しく扱えることはさまざまなケースにおいても有用です。また、新しくプロダクトを創るだけではなく、新機能リリースの際にも応用することができます。
計画は計画なので、実際にプロダクトを世に出した時に、数値分析することで、その数値が事業計画に沿っているのか、ビハインドしているのかが見えてきます。1 ~ 2ヶ月もすれば継続率は大体出てきて、その後のシミュレーションも松竹梅で予想することも可能になり、出てきた継続ではどのくらいがユーザー数のアッパーでそのユーザー数を今後どうしていくかを考えることが可能です。CPAなどはすぐに出てくると思うので、LTV > CPAが成り立つのかどうかを予想し、今後どのような手を打っていくべきか、まだ何が不確実性としてあるのかを考えます。LTVは長期に渡らないと見えてこないため、それすらも何パターンもシミュレーションすることが大切です。このように、継続率は未来にプロダクトの姿を見通し、今後来る不確実性をあぶり出し、最善の打ち手を検討するための道標になってくれます。
このnoteを書く際に参考にした記事を貼っておきます。
継続率はカテゴリに依存する
最後に、Tipsとして継続率の特徴について書いて締めようと思います。まず、世に出ているアプリの継続率については、data.aiといったような外部ツールを使うことで確認することができます (仕組みを理解して、正しく用いる必要があり、鵜呑みしないように) 。しかしながら、これでは見れない数値もあるので、アンケートを応用したり、ユーザーインタビューを数をこなして定性と定量でデータを取得する必要があります。
もう一つ、継続率を把握する方法として、継続率がカテゴリに依存することを紹介します。このサイト "Retention rate on day 1 and day 30 of mobile app installs worldwide as of August 2020, by category" にカテゴリごとのリテンションのデータが書かれています。なぜ、継続率はカテゴリに依存するのかというと、そのプロダクトが使っているのが人間だからです。
ユーザーは、何かしらの課題を解決するために、アプリを利用しています。「暇だから何となくTwitterを開く」も、暇を潰したいという課題を解決するために、無意識的にアプリを開いていることになります。つまり、課題がなければプロダクトを使わないということになります。課題が生じるのは、人間が生活や仕事をしている時であり、それは僕らに強く依存します。
例えば、駅から3分のところに住んでいて、周りに飲食店やスーパーもあれば、遠いところに速く行きたいという課題は生じずに、自転車を使うという解決策も利用しません。しかしながら、同じ人が引っ越して、駅からもそこそこ距離があり、最寄りのスーパーよりもちょっと離れたところの方が品揃えが良いとなれば、頻繁に自転車を利用して移動するかと思います。雨の日、日差しが強い日に傘を利用するのも一種の課題解決で、課題がなければ傘は使いません。このように、プロダクトを使う機会は利用する人間に依存します。
これはインターネットサービスでも同じことが言えます。例えば、引っ越しを検討している時に開く、不動産情報が載っているサイトを引っ越しの予定もないのに毎日開くということはほとんどないはずです。人間の生活や仕事における課題解決以上にプロダクトを利用するケースは考えにくいという訳です。カテゴリによって、課題解決がある程度規定されるため、利用シーンや文脈も固定され、継続率が決まってくるということです。しかしながら、ゲームなどのエンターテイメントはブレが大きく、その範疇で説明できなかったりすると思います。
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