失業は「子供を持つ」という選択にどのくらい影響を与えるのか
仕事を失うというのは、人生において大きなストレスとなる出来事であるのは間違いないところ。経済的な不安だけでなく、自己評価の低下や社会的なつながりの喪失などさまざまな影響を及ぼすわけで、実際これらの影響を介して失業がストレスやうつ、不安につながることは複数の研究で確認されています。
そんな中で最新の研究では、「失業が妊娠に対してどのように影響するか?」にフォーカスしていて面白かったです。上記を踏まえれば失業が生物学的な生殖能力や子供を持つという意思決定に影響を与える可能性は十分ありそうですけど、これまでこの点についてはあまり調べられてなかったらしいんですよね。
この研究ではイギリスとドイツの3つの大規模な年次家計調査のデータを分析しておりまして、カップルの失業経験とその後5年以内の妊娠の発生との関係を評価してます。また、夫婦の収入や収入分配、子どもの有無、女性の年齢など、さまざまな要因によって影響が異なるかどうかも調べてくれております。
まずはデータセットの概略を簡単にチェックしておくと、
それぞれのサンプルは15,000人強の参加者で構成されており、これらは国の人口を十分に代表している
データは、1991年から2020年までの期間に収集されている
参加者は、妊娠可能な年齢(男性は18~50歳、女性は45歳)であり、少なくとも一方のパートナーが1年以上就業していた場合に研究に組み込まれた
ちなみに、ドイツとイギリスが選ばれた理由は、欧州で最も人口の多い2つの国でありながら、労働市場の慣行、税制、福祉政策に大きな違いがあるためだったそうです。
分析の結果をまとめると、
非自発的に予期せぬ失業の経験は夫婦の妊娠にネガティブな影響を与えていた
両国とも、この影響は、特に女性が失業した場合に大きかった(男性が失業した場合でも同様に確認されたが)
具体的には、女性が失業した英国のカップルは、最初の1年間に子供を持つ確率が2%で、対照カップル(ずっと職に就いていた)に比べて3.3%低かった。5年経過すると、その効果は4.3ポイントの差になった。ドイツでは、女性が失業したカップルの出産確率は、1年目に3.3ポイント低下し、5年後には累計で13%低下した
この効果は、イギリスではパートナーの収入が同じか女性が多い場合、また女性が20代半ばから30代後半までの子供がいないカップルで顕著であった(イギリスでは女性が仕事と育児の両立に苦労しており、仕事を失った場合に再就職することが難しいためだと考えられている)。ドイツでは、家計への貢献度が同じか、男性が稼ぎ手である夫婦、女性が35歳~40歳で子どもが1人いる夫婦で影響が顕著であった
両国とも、中所得のカップルは比較的影響を受けやすかった
だったそうで、やはり失業は夫婦にとって子どもを持つインセンティブを減らしちゃうみたいですね。
まあ失業から5年以内の比較的短期の影響しか評価してないとか限界はありますけど、子供を増やしたいなら仕事の安定性は大事っぽい。言われてみればあたりまえな気もしますけど、失業による様々な角度での損失は、子どもを持つ機会費用の損失よりも強く作用するんだなーとか感じた次第でありました。
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