僕が「会社をきれいにしたい」と思っている理由
前回、初めて書いたnoteを読んでフォローしてくださったり、いいねを押してくださったり、直接コメントをいただいたりと、たくさんの反響をいただいてとてもうれしかったです。お読みいただいた方々、どうもありがとうございました。
これからも月に1回くらいのペースで、僕自身が普段考えていることを中心に、noteを書いていこうと思っています。よろしくお願いいたします。
今回は前回の投稿でも書いた「経営を整えてスタッフの待遇もきちんとし、外の業界の人に堂々と見せられる会社にしようと決意しました」ということについてです。
飲食店は絶滅してしまうのか
「飲食店は絶滅してしまうのか」と、ちょっとショッキングな見出しになっていますが、僕は、このままでは本当に絶滅してしまうと思っています。
その理由のひとつは飲食店の数の多さです。
とくに東京は、飽和状態で、コロナ前の数字ではありますが、あるデータによると1000人あたりの飲食店の数が世界でもっとも多く6.22店。これにパリの6.15店、ミラノの5.04店が世界の上位3都市です。アメリカの都市をみると、ロサンゼルスがもっとも多く2.37店で、ニューヨークの1.39店が続きます(出典)。
もちろんこの数の多さが刺激になって、料理のおいしさやサービスの質が上がり東京を美食の都市にしていて、たとえば東京に「ミシュランガイド」の星の数が世界最多であるのも、多くの飲食店が凌ぎを削ってきた結果ということもできます。
しかし一方で、この飲食店の多さが価格低下を招き、低価格競争に向かわせているという側面もあると思っています。
低価格競争になるとどうなるかというと、なかなか下げられない食材の原価や家賃の変わりに人件費を削っていく。具体的には、スタッフの数を減らして、少ない人数で営業することになります。そうすると当然スタッフへの負担は増え、休みなし・長時間労働の「ブラック企業化」していってしまいます。
日本の人口は2004年にピークを迎えて以降、減り続けています。今からおよそ30年後の2050年に人口は1億人を切るといわれています。それはどういうことか。飲食業界にとっては、国民の食事機会が絶対的に減っていくということを意味しています。
減っているうえに、飲食店の数は変わらないばかりか増えていくのであれば、その少ない数を業界内で奪い合うようになり、さらに低価格競争が起きることは想像がつきます。
「人を喜ばせるのは人」だから人材は宝
そもそも、東京にこれだけの飲食店が多いのは、飲食店への参入障壁が低いからです。これが下がれば、レストランの数も減り、価格ではなく質で選ばれるようになるかもしれませんが、日本政府が中小企業を奨励し続けていることを考えると、参入障壁を高くすることはないと思っています。
もちろんテクノロジーの発達で、働くスタッフに負担をかけずに人件費を削減する方法もあります。インターネットの登場は、それを推し進めました。一部の業態では、無人のお店も出てくるでしょう。
だけど、僕自身は「人を喜ばせるのは人」だと考えているので、レストランには人はいなくならないと思います。飲食業だけではないですが、人は宝、人材こそ大事にすべきだと思っていますので、人件費をどんどん下げていこうという考えは、僕にはありません。むしろ、もっと人材がほしいくらいです。
人材が集まれば、たとえば今僕がやっているような企業のメニュー開発などをブリアンツァのなかで作った開発チームで提案していくこともできますし、ソムリエのメンバーが中心になってワインのコンサルティングチームを作ることもできます。低価格競争のなかでしっかりと生き残っていくためには、スタッフの力を集めてレストラン以外のマネーポイントを増やしていくことが大事だと僕は考えています。
ほかにもOEM商品の開発や、近年技術革新が目覚ましい冷凍食品など、ロスが少なく価格が安定しやすい商品とレストランがコラボレーションしていくこともあると思います。とうぜん、その場合には参入資本がネックになると思います。日本の飲食業界は、アメリカのように投資資本が入りにくいので、なかなか進んでいないのが現状です。
一方で個人店と呼べるような小さなお店でいえば、SNSを使ったマーケティングやブランディングで、小さく始めて初期投資を押さえるやり方が主流になっていくと思います。キッチンカーなどは、初期投資が少ないので、これからの可能性がある分野のような気がします。
会社をきれいにすれば人材が集まる
アメリカで飲食業界に投資家が入ってきやすいというのは、成長分野であると考えられているからです。日米では経済状況が違うので簡単に比較することはできないのですが、僕が現地で感じたのは、飲食業界で働くスタッフに対して“やさしい”ということです。
1日8時間労働というのは当たり前。3月にロサンゼルスにオープンした「MAGARI」ももちろんそうで、スタッフは2交代制。仕込みをした人と料理を作る人が違うなんてことはよくあることで、そのなかでレストランが運営されています。働く人にとってやさしい環境ということは、そこで働きたいと憧れる人が増えることにもつながります(もちろん、飲食業で働く醍醐味そのものの楽しさ、充実感もあります)。それは、とても業界にとって大切なことだと思います。
この「あこがれられる職場になる」というのは、とても重要で、それは「働きやすそう」でも「かっこいいから」でもいいと思うんです。ブリアンツァも「働きたい」と思ってもらえるグループでありたい。職場として憧れられるために何をすべきなかをいつも考えています。
そういった意味で、ロサンゼルスの出店や、4月に茨城県つくば市のアメリカの電気自動車「テスラ」の充電スポットにオープンした、ソーラー蓄電技術を用いたオール電化キッチンの「パスタ・マガーリ」などは、どちらも飲食店が憧れの職場になるための取り組みだと思っています。
たとえばフードマイレージやエネルギーの持続性、フードロスの削減などといったSDGsに掲げられているテーマに飲食業界が取り組む。そういった姿勢を第三者に評価してもらうことがブランディングに繋がり、そのブランディングが「働きたいという憧れ」になって、リクルーティング、人材の確保にもつながると思うのです。
飲食店にとってもスタッフがもっとも大事
ブリアンツァは、お客様に喜んでいただけるお店にしたいと思っています。そのためには、誤解を恐れずに言うと「おいしい」にこだわりすぎてはいけない。もちろん飲食店なので、おいしさを追求していくことは大前提の話です。
というのも「おいしい」の感じ方は人それぞれ主観的なものだと思うからです。僕にとって好みでなくても、誰かがすごく好きということもあります。そういったある意味で不確定で偶発的な要素を求めてしまうよりも、きちんとチームとしてのゴール設定して、それに向かいながら、総合的にレストランでの食事を楽しんでいただけるようにしたい。
では、どんなお店なら「お客様に喜んでいただけるのか」というと、それはやっぱり人がいることです。たとえば、ロボットや画面越しに映った人に接客してもらうのは食体験としては新鮮で楽しいですが、僕は、人に接客してもらった方がうれしいし、人が作った料理を食べたいと思います。
お客様を喜ばせることができるのは、やっぱり人なのです。だから何度も言うのですが、飲食店にとって人が宝、スタッフをもっとも大事にしないといけないんです。
今は、絶滅寸前の飲食業界ですが、「やっぱり人材が大事だった」と気付いてからでは遅いのではないでしょうか。そうなる前に、まずは率先して自分の会社をきれいにして、働きたいという人を増やしていきたい。
一つの実例ができれば、変わりたいと思う仲間もできてくると思います。ブリアンツァがその先例になればいいと思っていますし、必ず成功させてそのやり方をたくさんの仲間にもお伝えしたいと思っています。
大好きではじめた飲食業界がなくならないようにする。そのためにも、早く会社をきれいにしたいと、僕は思っているのです。
「ラ・ブリアンツァ」オーナーシェフ
奥野義幸
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