ホントシオリ vol.02
2019.03.29 LOFTproject RooftopWEB 掲載
深夜に本を読むことが多い。仕事が終わってお家に着き、ソファでごろ~んとしながら、昼間に買っておいた本を手に取り、ぱらぱらとページをめくる。物語に夢中になると、どんなに厚い本でも一気にそのまま最後まで読み続け…カーテンを開けるとすっかり空が明るくなっている、なんてことがよくある。
物語の世界はいろんな感情を思い出させてくれる。
悲しかったこと。切なかったこと。憎しみ。心が温まる優しい気持ち。相手を思う好きの気持ち。嬉しいこと。楽しいこと。本を読みながら泣いたり、笑ったり、いろんな感情が心の奥の方からどくどくと沸いてくる。その感覚がとても好き。
特にわたしが好きな本は文章としての文字情報しかないのに、“おいしい”と感じてしまう本(笑)。“なに言ってんだコイツ”って感じでしょ? 大丈夫、わたしもそう思ってる(笑)。
なんて言うのかな? 読みながら、想像してると…“あ~いい匂い! おいしい!”ってなるんですよ。(実際には食べてはいないし、ただの妄想の世界なんだけどね。)文章が苦手で伝える表現力もないので、同じ気持ちを体感して欲しいので…早速、お腹がぐうぐうする2冊を紹介します!(分かち合えたら本当に嬉しい!)
マーガリンではなく“上質なバター”がポイント
我慢できなくて、真夜中に味わってしまった黄金色の泉
柚木麻子「BUTTER」新潮社 / ¥1,728
この作品は2009年に発覚した首都圏連続不審死事件での木嶋佳苗被告の実話を題材として物語が描かれている。とても題材として重い作品なのですが、木嶋被告がお料理や食べることが大好きだったので、作品の中にも様々な“おいしい”食べ物の描写が描かれているんです。読んでいくと最初に登場する食べ物が「バターの素晴らしさが一番よくわかる食べ方よ」とタイトル(「BUTTER」)にもなっているバターを使用した“バター醤油ご飯”。ちょっと、皆さんにも“おいしい”を感じて頂けるように作品より本文を抜粋してご紹介。
バターは冷蔵庫から出したて、冷たいままよ。本当に美味しいバターは、冷たいまま硬いまま、その歯ごたえや香りを味わうべきなの。ご飯の熱ですぐに溶けるから、絶対に溶ける前に口に運ぶのよ。冷たいバターと温かいご飯。まずはその違いを楽しむ。そして、あなたの口の中で、その二つが溶けて、混じり合い、それは黄金色の泉になるわ。ええ、見えなくても黄金だとわかる、そんを味なのよ。バターの絡まったお米の一粒一粒がはっきりとその存在を主張して、まるで炒めたような香ばしさがふっと喉から鼻に抜ける。濃いミルクの甘さが舌にからみついていく…。
いかがでしょう?“ごくん”と思わず唾を飲み込んじゃいませんか?(笑)この情景を想像しながら深夜に読んでいたのですが…もう、我慢できなくて!すぐ試してみたくなっちゃうし、口の中で混じり合う黄金色の泉を味わいたくなっちゃって。余っていたごはんを温めて、お家にあったECHIREバターの残りとお醤油をちょろっとかけて、食べちゃったんですよね。am3:00に。超高カロリー飯を…。(本当にこうゆうことばっかりしちゃう)
作中にもある通り、冷蔵庫から出したばかりのバターはしっかりと歯ごたえがあって、ごはんの温かさと口内の温度でゆっくりと溶けだす感じ。(まさにこの瞬間が黄金色の泉!)もったり濃厚な口いっぱいに広がるバター風味。本当に美味しい…。
バター醤油ご飯を頬張りながら、物語を読み進めていくと更に濃厚さも深まり、口の中、頭の中だけではなく全身がもったりと重くなるほど読み応えのある作品。
本作品の紹介、内容については以前、Rooftopにて掲載をしているので気になる方は合わせて読んで頂けたら嬉しいっ♪
食の好みが似てると満たされた気持ちになる
今日もごはんと思い出を胃袋へ
西加奈子「ごはんぐるり」文春文庫 / ¥605
わたしにとって、ひとりでごはんを食べに行くことが“いつものごはん”。
隣の席に座るカップルや家族の会話に耳を傾けると、微笑ましいエピソードに思わず笑顔がこぼれる。こんな風に日々ひとりで食べるごはんも周りの人たちの存在があることで、味わいが変わったり、とても魅力的に感じたり、そんな気持ちを西さんが文字で、言葉として代弁をしてくれる。
西さんの作品は今までも読んだことはあったんだけど、“エッセイ”は初めてだった。
大好きなこと、食への思いを独特な擬音や感性、視点で飾らない西さんの魅力を感じ、勝手ながら親近感を感じた。
作品の中で『日常の悪食』という章があるんだけどね、その中の表現で「べさべさに伸びて、汁けがなくなった麺類が好き」と西さんが書いていて、“べさべさ”って!って思って笑ったし、“汁気がなくなった麺”にはわかる~! と思わず共感してしまった。(文章表現もステキなんだけど、これだけで西さんの人柄もすごく感じられるでしょ?(笑))
日本の食文化だけではなく、幼少期を過ごした海外の食文化(エジプトに住んでいた頃の食べ物の話や、ニューヨークでアフガニスタンの料理のお店など)についてもたくさん書いてあり“そうなんだ!”と新しい発見もあるのも嬉しいっ♪
小説作品はもちろんなんだけど、本当に西さんは人の描写がすごく伝わりやすくて、わかりやすい! 食べ物に対する偏愛も感覚的で、大阪弁を交えながら率直な思いや独特な強いこだわりもあって、その表現がとても爽快で、心地良い愉快さがあるのも魅力のひとつ。一緒に西さんとごはんへ行けたら“きっと面白いんだろうな”と読みながら想像してしまうほど、勝手に身近に、親近感を抱いてしまった。
付録として、西さんと作詞家であり、お料理教室の主宰も担う竹花いちこさんとの特別対談の中でこんな言葉が出てくる。
「胃袋は思い出で出来ている。」
この前、友だちと高円寺のお好み焼き屋さんの前を通ったとき“あの時、食べたお好み焼き美味しかったな。今まで食べたお好み焼きで一番美味しかったな。”と看板を眺めながら思い、それと同時に記憶も蘇ってきて…。すぐに駆け付け、ずっと熱々のお好み焼きを頬張りながら話を聞き、真っ直ぐな意見を言ってくれる優しさ、本当によく笑いながら一緒に”めっちゃうまい!“って言いながら食べてたなって、看板を横目にその時のお好み焼きの味と共に記憶を思い出した。
悲しいときや辛いときに無理やり食べるごはんは、なんだか砂利を食べているようで、その時のごはんも味がなく感じる。楽しいとき、嬉しいときはいつも食べているごはんも不思議と美味しくなったように感じる。誰かと一緒に食べるごはんは、食べものの味だけではなくて気持ち(好きな人とのごはんはドキドキしない?)や一緒にそのお店、場所に行った記憶も残る。そんな思いを全部、胃袋が抱きしめているんだ。そう気が付くきっかけになった言葉。
”食“に対する興味が全くない人にこそ、作品を手に取って頂きたい! おすすめしたい! だって、猛烈に「中華食べたい!」とか「カレーが食べたい!」とかそうゆう気分のときってない? “食べたいものを食べたいときに食べる” って簡単なことなんだけど、意外と大切だと思う。高級なレストランやお洒落なお店に行ったときは勿論、ドキドキするし、テンションも上がるんだけど、マナーもさっぱりで…マナーを気にしているとそのことばかりが頭の中をぐるぐる巡り、最終的には「味が全然わからん!」ってなる(笑)。 “普通のごはん”の定義はよくわからないけれど、ごはんを食べられることに感謝して、誰かと一緒に(できることなら大好きな人と一緒に)笑って“おいしいねっ♪”って伝えたり、思いながら食べたいな。
読み返していたらすごくお腹が空いてきた…。
さて、今日もふかふかでほわっと温かいごはんを口いっぱいに頬張りますか♪(笑)
今回は、お腹が減っちゃうのはもちろん、心も満たしてくれるような(ごはんも食べて、お腹も満たしちゃえばとっても最高!)、そんな作品を2冊ご紹介してみました。是非、作品を通して“お腹がぐうぐうする感じ”を体感して頂きたい!(笑) 題材も異なる2冊(結構、両極端な作品)ですが、“食”を通してそれぞれの視点で物語の世界を味わってみてください。
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