ホントシオリ vol.04
2019.04.26 LOFTproject RooftopWEB 掲載
今回、ご紹介する作品は本谷有希子さんの『生きているだけで、愛。』。
昨年2018年に映画化され、鑑賞を終えた帰り道に初めて自身のInstagramへ作品の感想や自分の思い、過去の話を交えて投稿したら想像以上の反響やDMでのメッセージを頂き、“自分の思っていることを文字として、言葉として伝えてもいいんだ”と、この連載へ繋がる、わたしが文字を書くきっかけにもなった作品でもあります。
前回に続き、同じ題材『誰かに愛されたい。ただ、それだけなのに。~後編~』として作品(本作品は“恋愛小説らしくない恋愛小説”だと思う)のご紹介とわたし自身の体験と経験も重ね合わせ、同じ思いを抱えた誰かの心にそっと届けばいいな、と思いながら…今夜も。
あんたが別れたかったら別れてもいいけど、
あたしはさ、あたしと別れられないんだよね 一生。
本谷有希子「 生きてるだけで、愛。」新潮文庫 / ¥432
高校二年生の秋。パニック障害と診断された。
手の感覚がなくなって、どんどん呼吸が浅くなり上手く息ができない。「次は起きないように頑張らないと」とか「ここで過呼吸になったらどうしよう」という不安な気持ちから電車はもちろん、学校生活、家にいても同じようなことが頻繁に起こり、幼少期からお世話になっていた内科の先生に“心療内科”を進められた(当時、中学三年生)。
母は「まさか自分の子どもが心療内科に行くなんて!」と、かなりショックだったみたいで、定期的に通院をするわたしの背中、過呼吸になりそうなわたしに対して、苛立ちながら「そんなに弱い子に育てたつもりはない! なんで、普通に生きられないの? なんで、強く生きられないの?」とよく言っていた。
今では芸能人の告白も多い精神病のひとつとして耳にしたことはあると思う。日常生活ではさほど困ることはないんだけど、多くの人はパニック障害+αで他の精神病も抱えながら”生きづらさ“と共に今日を過ごしている(と、思う。)。
愛することも愛されることにも不器用な主人公・寧子25歳。躁鬱病や過眠に悩まされる自称メンヘルの引きこもり。そんな寧子と同棲をする津奈木は他人との距離を保つことで誰も傷つきも傷つけもしない、そんな考えで何事にも無関心な男。
原作では、寧子目線での津奈木が多く、読み手側が寧子の気持ち、立場になっての”想像する津奈木“でしかないんだけど、映像では”しっかりと津奈木がいる“(津奈木役として菅田将暉さんが演じているんだけど、無関心な中でも津奈木自身の葛藤や人間性が言葉の伝え方やトーンでもわかりやすく、影響されながらも彼は彼自身でもがいている様子がわかる)。
津奈木目線での感情も伝わりやすくて本が苦手な人は映像作品を先に観てから原作を手にしても十分に生きづらさを感じられるし、より想像しやすいと思う。
読んだあとも観たあとも…すごく疲れた。もちろん、良い意味で。だって、痛いほどに寧子の抱く思いがわかってしまうから。
作品の中に寧子のこんな言葉がある。この言葉だけを見ると”すごい面倒くさい女“だと思う人が多いだろうし、実際にわたしも言葉だけを見たり、聞いたりしたら同じように思う。
ただ、寧子の立場として、実際に自分と置き換えて作品を読むと痛いほど共感をしてしまう。きっと同じ言葉を相手に言ってしまうと思うし、同じような気持ちになったことも正直、何度もある。
病気というモノは風邪でもなんでもそうなんだけど、自分からなりたくてなったワケではない。視力が弱いのも、定期的に禿げる円形脱毛症もわたし自身が望んでなっているワケではない。
精神病も同じ。自ら望んでないのに、そんな自分と一生付き合っていくワケで…だからこそ、一番近くにいる人には一番の理解者であり、同じように”わたし“に対して同じくらいに疲れて欲しい。…そう思ってしまう。願ってしまう。すがってしまう。求めてしまう。そんな描写が痛いほど、泣きたくなるほど、細かく描かれている。
周りがうんざりするのもわかる。すごくわかる。「なんで、そんなに弱いんだ」と言われるのもわかる。変わりたいと何度も願う。何度も何度も…。起きたら違う人間でありたいと、なんでこんなに周りの期待に応えられないんだと、嫌気がさす。周りからうんざりされているのもわかるし、心の奥では十分過ぎるほど理解もしている。
だけど、そんな自分に一番うんざりしているのは紛れもない自分自身でもある。
中学生の頃から東京に上京してからもずっと”デパス“という薬を飲んでいた。病院の先生に何度も飲む量も時間もいろいろ注意されていたんだけど、酷いときには1シートそのまま全部を一気に飲むこともあり「薬無くして…」と言って処方してもらうこともあった(2回目以降はダメだった。先生も気づいていたんだろうな)。
そんなわたしが今では4年間も薬を飲まずに生活できるまでにはなった。本職(アパレル)+3つ掛け持ちで(阿佐ヶ谷ロフトA含めて)アルバイトをしていた頃にロフトの先輩が呑んでる席で「精神病も薬なんか頼っちゃダメ! あれで治る人なんていなくない? 薬なんか頼るくらいならうちら頼れよ! って思う」と、当時も今もわたしは精神病を患わっていることは誰にも言っていない(当時の彼氏と家族くらい)。その中でそんな言葉を先輩が言っていて、「そうですね。精神病ってよくわかんないんですけどね」と、笑って誤魔化しながら返していただけど、その言葉がすごく響いて…薬を断てた。
今でも完治はしていない。相変わらず満員電車には乗れないし、人の多いところには行けない。すぐに呼吸が浅くなる。仕事では外ハケ(お店の開場前にお客様を整列させる仕事)ができない。
パニック障害以外でも躁鬱病や摂食障害、不眠症も同時に抱えていて、ぐるぐるとそれぞれの症状が巡回をする。
それでも、わたしにとって『薬を飲まない』はすごく大きな出来事ですごく嬉しかった。だからと言って、「先輩たちになにかを話したりしたのか?」と聞かれたら実際のところ何も話してはない。むしろ、この記事を読んで知る人がほとんどだと思う(わざわざ自分から周りに言うほどのことではないし、言ったときの「かわいそう」とか「あの人がおかしいのは精神病だから」みたいな感じで思われることがキライ。特別な病気でもなんでもないから、”普通に“いたい)。
ただ、何も話してはいないけれど心の中で、あの時に「こんな風に思ってくれる人たちがいる空間でなら頑張れるかもしれない」。そうに思えたことがきっかけで、阿佐ヶ谷ロフトAに今も勤めている。その先輩がいなかったらきっと、わたしは今ここにいないかもしれない。
精神病を患ったことのある人は寧子の気持ちが痛いほどわかるだろう。だからと言って、周りにも同じように「理解してよ!」とは求めないけれど、人間の“寂しさ”も描かれているし、人との関わり方や距離感も現実的に描かれている。
わたしはね、“普通”の人なんていないんじゃないかと思う。そのままの自分でいいんじゃないか、って。むしろ、寧子のように全力で思っていることを身体で言葉で表現できるような人間はとても美しいと感じてしまった。
どんなに長い時間を一緒に過ごす家族や恋人、友だちでも“分かり合える”なんてほとんどない。相手に言葉で声に出して伝えたとしても全部がわかるなんてない。頭の中では理解していても、それでも求めてしまう。生きている限り、自分と別れることはできないのなら、せめて一瞬だけでも、五千分の一秒でも誰かと分かり合えたと思える僅かな瞬間を信じて、今日も自分と共に生きていく。
いつか、この先の人生でたったひとりでもいいからわたしという存在が生きている、ただ、それだけでいいと思ってくれる、そんな人に出会えたらいいな、と。
今、ここまで読んでくれたあなたにもそうに思える人がいる人生を生きて、その思い、気持ちを大切にして欲しい。
毎日の生活の中で、息苦しさやもどかしい思いをきっと誰だって抱えながら今日を生きている。その“分かり合えない思い”を言葉はもちろん、体現としてありのままの自分をさらけ出せる勇気と強さを寧子のように持ち合わせることができたらいいな、と思いながら…明日はどんな作品を読もうかな、と夜更けと共に眠りにつく。
今回、同じ『誰かに愛されたい。ただ、それだけなのに。』を題材として前編と後編と分けたのは理由があります。
何度も何度も書き出し、修正をし、どんな風に伝えたらいいのか、どんな言葉を選んでいけばいいのかを自分なりに向き合い文字としての言葉に置き換える作業の中で、“一度に読むのには苦痛過ぎる”と感じたんです。実際に書いているときも当時のことを鮮明に思い出し、心がすごく疲れ果ててしまい、職場へ向かう途中で過呼吸を起こすようにもなってしまい…。そんな風になるのなら書かなければいい、という選択肢も勿論あるんですが(誰かに言われて強制的に書いているモノではないから)、ね。
ただ、その時に伝えたい、または抱いたときの自分の感情を大切にしたい、と思い前編・後編と実体験も絡めてご紹介させて頂きました。
書籍のみの作品紹介であれば、RooftopWEBや他の媒体でもたくさんの関連記事、情報が今は溢れているけれど、“わたしが紹介をする・書くこと”でたった一人の心になにかを届けられたなら、それが連載をする意味に繋がる、と勝手に思っています。
P.S.
決して、“かわいそう”という思いは抱かないで欲しい。
今を、あなたと同じようにただ精一杯生きてる。ただ、それだけのことだから。
~番外編『生きているだけで、愛。』映画作品~
今回、ご紹介させて頂いた「生きてるだけで、愛。」。本文でも少し触れているのですが、昨年2018年に映画化されており、主役である寧子を趣里さんが演じ、津奈木を菅田将暉さん演じており、お二人の演技力にすごく魅了され、引っ張られ…だからこそ、映画を観た後の疲労感が凄かったんですよね。(笑)
わたし自身、菅田さんが出演している作品がとても好きで。(個人的には古屋兎丸さんの作品『帝一の國』がとても好き)今年俳優業10周年を迎え、10年間でも数々の作品で主演、役柄を演じており、まさに“カメレオン俳優”と言われるのに納得してしまうような…同じ“菅田将暉”でも全く違うキャラクターを演じ、本当に目が離せなくなってしまうんです。
その菅田さんの配役、作品についてタイタン所属のお笑い芸人XXCLUB・大島育宙さんが自身のYouTubeで的確な菅田将暉映画作品の解説をしており(動画なのに申し訳ないんですが、大島さんの“ラジオ”という感じでいつも拝聴してしまい、どの作品についても大島さんの熱量はもちろん、的を得ている解説で腑に落ちるんです)、今回の「生きてるだけで、愛。」はもちろん、他の作品もご紹介しているので、菅田将暉さんが好きな方は是非! 今回ご紹介した作品(「生きてるだけで、愛。」)を読んだり、観たりして、心の重みを感じた方は大島さんがお薦めする作品を観ても楽しめると思いますので是非◎!
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