ホントシオリ vol.09
2019.10.21 LOFTproject RooftopWEB 掲載
2017年。阿佐ヶ谷ロフトA開店10周年のときに雑誌編集に憧れを抱いていたわたし(当時アルバイトスタッフ)は“何かカタチに残るモノを作りたい”と思い『Asagaya/LoftA10』というフリーペーパーを発行していた。(本当にアルバイトなのにも関わらず、最後まで1年間発行させてくれた偉い人達には感謝しかない)その内容は阿佐ヶ谷ロフトAのイベント紹介や注目している方へのインタビュー、よく出演頂いている演者さんで本が好きな方には書籍紹介、食べることが好きな方にはグルメ記事などをお願いをし、デザインはわたしの頭の中のイメージを汲み取り、素敵にイメージ以上に具現化してくださる(わたしの脳内を読み取る天才)oriharaさんに依頼。初めての冊子制作にしてはお陰様で120点満点の大成功だった。(ご協力してくださった皆さん本当にありがとうございました!)その中で、お笑い芸人の真夜中クラシック・タケイさんに書籍紹介をお願いしたことがあり、その内容があまりにも強烈でだったので鮮明に記憶に残っていて。今回は『ホントシオリ』を通してタケイさんの脳内を皆さんに覗いて頂きたくて!!!早速、一緒に覗いてみましょう(笑)。
君は村上春樹を読むのかい?
村上春樹「回転木馬のデッドヒート」講談社文庫 / ¥550+tax
はじめまして、真夜中クラシックというお笑いコンビを組んでます。タケイユウスケです。
今回自分が読書をするきっかけとなった本のことを書いてくれないかとのお話を頂き、ありがたく受けさせていただきました。
僕がガッツリ本を読むキッカケとなったのは、19歳の頃です。当時僕は福岡の服飾の専門学校に通っていました。18歳で高校を卒業し、1年間フリーター生活をしていた時に、僕はバンドをやっていました。メジャーなバンドなど分からず、地元鹿児島で活動しているバンドの追っかけみたいなことをしていて、その時のライブで色んなバンドを知るということを1年続けていました。朝9時から夜の17時まで働き、そのまま2時間かけて車とフェリーを乗り換えライブハウス。そうしてライブを見た後打ち上げに参加させてもらい、フェリー乗り場に止めている駐車場の車で寝て朝からバイトに行くという、今思うと考えられないような生活をやっていました。
その時僕の周りのバンドマンが読んでいた本が村上春樹でした。格好良いバンドの人は皆、村上春樹を読んでいる。それがきっかけで僕は村上春樹を知りました。
専門学校に入学した僕は、地元で一緒にバンドをやっていた友達の家に行った際本棚に村上春樹の本があるのに気付きました。
「やっぱりバンドマンは皆読んでるんだな」
僕は友人に頼んでその本を借りました。それが村上春樹:著「回転木馬のデッドヒート」でした。1985年に刊行されたもので、著者自身が聞いた話をいつか何かの種になるかもとメモしていたものを小説にしたものだったと思います。初めて村上春樹に触れる僕はいきなり長編は読めないだろうと、この短編集から入りました。この作品に収録されてる「レーダーホーゼン」という話がとても面白く、僕はこの作品で村上春樹の小説の面白さにのめり込みました。小説ってこんなに面白いのか…!と他の作者が書いた本にも手を出し始めたのは、初めて読んだ本が良かったからだと思います。初めて読んだ作品がもし肌に合わなけば、きっとそのまま本を読むことも無かったと思います。
しかし読んだ時期は悪かったかもしれません。
タケイ19歳。バキバキの童貞。こじらせた童貞が村上春樹に触れると待っているのは「影響」です。
今まで「俺」だった一人称は「僕」になり、ヴィンテージのカメラを携え一人知らない遠くの駅で降りては空の写真を撮りました。「人を書きたい」と訳の分からない事を言い始め小説を書き、「君には分からないと思うけど小説書いたからどう?読んでみる?」と、人の気持ちが分からない僕は、優しさで読んでくれる友人の「面白かったよ」さえ「お前に俺の高尚な作品が理解できるか!」と思ったりしてました。
グループで作品を作る際の話し合いで「タケイ君はどんなものを作りたいとかある?」の質問に「やっぱりセックスって山火事だと思うんだよね。そんな作品を作りたいのよ。ほら、分かるじゃん?言いたい事。ちょっと抽象的すぎるかな?」等と言って物凄く友人たちを困らせたりもしました。
ちなみにこの時僕は童貞です。友人にこっそり「コンドームって色付いてるけど、アレってペニスに色移りしたりしないの?」とか聞いてました。
村上春樹を読んで良い方向に影響を受ける人がいるとしたら、僕は間違いなく悪い方向に進みました。
時々村上春樹を読んでる人が嫌いだと言う人を聞きます。理由は何となくわかります。面倒くさいのでしょう。話していても論点のずれた返しや例えをされ、常に上から目線で話しをされ、少し知識が無いと溜息を吐くのです。自分自身が村上春樹の登場人物の「僕」に感情移入しすぎて、読み終わった後は「俺」自身が「僕」になっているのです。勿論「僕」はそんな奴ではないのに、勝手に自分自身の型に無理矢理押し込めるので歪な「僕」像になって人に迷惑を掛けるのです。
悪いラーメンズファンにもこんな感じの人がいます。自分かもと思い当たる人は気を付けましょう。僕は気を付けました。
村上春樹は本当に素晴らしく、作品もとても素晴らしいですが、19歳の頃の僕のような勘違いしているバキバキ童貞はまず大槻ケンヂの「グミチョコレートパイン」から始めるようにしましょう。
映画もフランス映画は見てはいけません。映像美など今のあなたの人生には不必要です。そんなものを楽しめる感性は今のあなたに携わっていません。どうせ8ミリフィルムで撮ったものしかあなたには分からないのです。
「狂い咲きサンダーロード」「さらば青春の光」「モテキ」から始め、間違っても岩井俊二作品はちゃんと恋愛をしてから見るようにしましょう。ギリギリ「スワロウテイル」はOKですが、「リリィ・シュシュのすべて」はまだ早いです。「短編映画」「実験映像」という耳触りの良さに騙されないようにしましょう。
音楽もアートブレイキーやジョンコルトレーンなどのジャズはとりあえず置いといて、「挫・人間」「暗黒大陸じゃがたら」「戸川純」を聴きましょう。分かりもしないのに「ここのリフが良いよね」などと言わないようにしましょう。間違っても「やりたいことは分かるけど、まとまってない感じがするよね」などと分かったように言っては駄目です。そうして色んな価値観を踏まえて初めて村上春樹を読んだとき、君の心に新たな感動が芽生えるのです。
そう。それは良く晴れた夏の日に突然降りだす夕立のような衝撃で、きっと彼の作品を読み終わった後の君の顔はまるで餌を取り上げられたブリティッシュ・ショートヘアのような顔になっていると思うんだ。
それはまるで初めから決まっていたかのように。あるいはそれを初めから君が求めていたかのようにね。
タケイさんの脳内は変わらずにバッキバキだった。思っていた以上に歪んで屈折をしている。きっと、この仕事をしていなかったらタケイさんと会話すらもしていなかったかもしれないし、出逢ってもいなかったかもしれない。そのくらい癖が強い。ただ、それこそがタケイさんの唯一無二の魅力でもあり、最狂な武器でもあると思っている。(本当にタケイさんありがとうございます!)
わたしが初めて手にした小説は以前、カモシダせぶんさんとのコラムでもちょこっと紹介をしてましたが(コワイだけではないホラーの世界)貴志祐介さんの「青の炎」。
17才の少年が望んだもの。
それは、平凡な家庭とありふれた愛。
貴志祐介「青の炎」角川文庫 / ¥836
角が丸くなり、手に馴染むほどに柔らかくなった。
そのくらい初めて手にした小説はいまだに大切にしていて、定期的に読み返してしまう。
主人公である櫛森秀一は名門高校に通う優等生。ある日、10年前に母と離婚した養父、曾根が現れた。横暴な曾根から家族を守るため、秀一は法的手段に訴えたが、大人の社会の仕組みは、秀一のささやかな幸せを返してはくれなかった。母親の体のみならず妹にまで手を出そうとする曾根に、ついに秀一の怒りは臨界点に達する。
激しい怒りは、静かな激怒へ変わり青い炎が、秀一の心に燈った。自らの手で曽根を殺害することを決心した秀一は、完全犯罪を計画する。
―「青の炎」あらすじ
物語を読むことに抵抗を感じるときがある。小説はすごく好きなんだけど、とても偏った読み方や選び方をしてしまう。その時の自分自身と主人公の思いや環境が似ていないとなかなか読み進めることができず苦戦してしまうことがある。
「青の炎」を手にしたきっかけは嵐の二宮さんがきっかけと以前、紹介をしたんだけれど二宮さんの影響は確かに大きい。だけど、二宮さんが出演をしていた全原作を全て読んだり、観たりしたわけではない。読んでいない作品もある。その中で「青の炎」は家族構成であったり、当時中学生だったわたしにとって“高校生”という想像しやすい作品だったからこそ、のめり込んで夢中になれた作品だった。
4歳の時に両親が離婚をし、母親の実家で祖父母と母、弟との5人での生活が始まった。父親に言われた「お前なんかいらない」という言葉が幼いながらも傷つき、「もしかしたら母親にも捨てられるんじゃないか」と、思いながら小学生の頃は“いい子でいよう”という気持ちを少なからず抱いていた。
学校生活では比較的に大人しい方だったんだけど、小学生の頃には今でいう“デスノート”みたいなモノをずっと書いて引き出しにしまい、自分なりの小さな復讐を決行していたりもした。当時の自分を思い出すと、怖い。普通に。今では考えられないようなことを考えていたし、実行もし、とても陰湿な性格だったと思う。…にも関わらず、通知表の担任からの言葉には「大人しいけれど、まとめるときはまとめ、正義感の強い子」と書かれていた。(うまく大人を騙せていたんだな、と感心する。)
秀一も学校生活では比較的大人しい優等生タイプ。家に帰ると酒の臭いがする義父・曽根の存在。そんな曽根が自分の大切な家族、妹にも手を出そうとしている。みなさんも想像してみてよ。自分の大切な人へ暴力を、そして泣きわめき叫ぶ大切な人の姿をさ。
…たまったもんじゃないよ。
読みながら、わたしは作中に出てくるバットで何度も顔面がぐにゃりと原形をとどめないほどに曽根を殴り続ることを脳内で想像し、息の根を止めてやった。
でも、秀一はとても冷静にひとり静かに怒りを燃やし(これが「青の炎」の由来にもつながる)、自らの手で完全犯罪を構想していく。
考えろ。考えて、考え抜け。どうすれば、一番いいのかを。どうすれば、家族を守れるのか。
―作中より
自分のことよりも自分の大切な家族を守れるか、どうしたら曽根から守れるのか、そのことだけを一生懸命に精一杯の頭を使い、周りには迷惑をかけないよう友人にも恋人にも隠し計画を立て、たった一人必死に戦い、もがき苦しみ、葛藤をしていく様が事細かに描かれている。大人になれば、きっと“妹と一緒に家を出よう”、とか“家族で引っ越しをしよう”とかいろんな方法で守ることができたかもしれないけれど、高校生の秀一にとっては相談できる相手もいなければ、本当にひとりで戦うしかないんだよね。“自分にしか守れない”と。
この作品から受けた影響力は凄まじい。ロードレーサーに憧れ買ったのはもちろん、テープレコーダーを買ったり、それがきっかけでラジオを聴くようにもなった。きっと、この作品に出逢っていなければまた違う人生を歩んでいたかもしれない。
何度も読み返している作品だけれど、ラストシーンでは毎回泣きそうになる。ぎゅっと胸が苦しくなってしまう。
主人公・秀一の高校生らしい感情が上手く表現されていて、“自分は他の人達とは違うんだ”とか少し周りを見下し、優位に立とうとするナルシシズムな感じが、とても私自身にも通鶴理解できる部分でもあった。(当時ね(笑)。)ミステリー小説としての内容が難しく感じてしまう方も読める作品だと思う。
今回は、真夜中クラシック・タケイさんの『はじめて読んだ小説』としてタケイさんには村上春樹さんの紹介をして頂き、わたしは貴志祐介さんの作品『青の炎』をご紹介させて頂いたのですが、いかがでしたか?
1冊の本を通して、それぞれを知って頂くこと(性格や内面)を主軸にしている“ホントシオリ”。今回は今まで以上に作品を通して内面もより知って頂けるきっかけになったのではないかな? と思います。次回は、どんな内容にするかも、どんな作品を紹介しようかも決めてなく、ゆるゆるとした連載なんですが…もし、今この文章を読んでいる方で「こんな方とのコラボを読みたい!」などございましたらお気軽におくはらのTwitterへご要望を頂けましたら嬉しいですね。ま、次回は少し気持ちが穏やかに幸福感のある書籍をご紹介できたら、と。
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