ホントシオリ vol.07
2019.08.07 LOFTproject RooftopWEB 掲載
じりじりと日差しが強くなり、なにをするんも億劫に感じてしまう。
外に出ても暑く、どこにも行きたくない…。お部屋にずっととじこもって気持ちだけ、ひんやりと涼みたい。そんな気持ちを抱きません? お家から出たくない病。(笑)
今回、「ホントシオリ」はじめてのコラボ企画(?)として現役書店員としても働くお笑い芸人・カモシダせぶん(ウルトラトウフ)さんと共に一冊ずつ『ホラーなんだけど、ただただコワイでは終わらない作品』として、ホラーが苦手な方にも手に取って頂けるような物語をご紹介。“ただただコワイ”それだけであれば、ググれば簡単にすぐたくさんの本の情報が出てくる時代なんだけど「コワイけど、泣ける」とか「コワイけど、小説としても面白い」とかそんなホラーの世界を今回はご案内しますね。
Roof topWEB連載「ホントシオリ」をご覧の皆様、初めまして、松竹芸能に所属をしウルトラトウフというコンビでの芸人活動をしつつ、都内で某書店のスタッフもやっている、書店員芸人カモシダせぶんと申します。
今回から僕も、こちらの「ホントシオリ」で、自分の好きな本の話をしようと思ってます。僕自身のしょうもないエピソードも混ぜながらですが。
650冊ほどブログで本の紹介をやってたり、雑誌の小さいスペースで書評を書かせてもらったりしてますが、たっぷり長文で本の紹介は初めてですね…伸び伸びやれて嬉しい。お手柔らかにお願いしますね。
「激辛ホラー」もあれば初心者向けな「甘口ホラー」もある
ホラー小説史上もっともほんわかしたキャラ
倉狩聡「かにみそ」角川ホラー文庫 / ¥648
さて、ホラー小説がテーマです。夏らしい。
ホラーって単語自体で、怖いのちょっと…と敬遠する人もいるでしょう。ただミステリ小説も、十角館の殺人(本格ミステリ)から、おしり探偵シリーズ(児童向け、おしりって!)があるように。
ホラーにも平山夢明の「独白するユニバーサル横メルカトル」のような「激辛ホラー」もあれば初心者向けな「甘口ホラー」があるんです。
それがこちら、倉狩聡の【かにみそ】
どうです? タイトルからして、まろやかでしょ?
「かにみそ」初心者でも手に取りやすいタイトル。いきなりホラー小説デビューに大石圭の「湘南人肉医」手に取る人も素敵だとは思いますが。
僕がこの本知ったのは、書店で働いてる時、新刊で来た本の中に「日本ホラー小説大賞 優秀賞受賞」の帯が。どんなだろうと見てみると賞からは想像できないほど、気の抜けたタイトル、マンガ家西島大介さんの可愛らしい表紙絵だったので、読んでみることに。
この小説は、毎日鬱々と働き、実家で暮らしてる男と、頭のいいカニの出会いから始まります。男と人間味溢れるカニの間には友情が生まれ、カニはどんどんエサを求め、男はカニにどんどんエサを与え、カニの知能が発達し、男と会話が出来るようになる、更にエサを与えてくとカニはやがて…と言った話。
ホラー小説の中でもだいぶ変な方だと思います。勿論ちゃんと怖い所は怖いんですけど、穏やかな部分も多く、はっきり言って和みます。
例えば男に対してカニがこんな言葉をかける。
「どしたの。うかない顔しちゃってさあ。ちゃんと飯食ってないでしょ。ダメダメ、食わなきゃ死ぬのは人間もおれたちも同じでしょ。腹へってるとさ、絶望感二割増しになるもんだよ。というわけで、ごはんにしようよ。おまえってばいつもインスタントばっかりなんだもん、たまにはまっとうなやつ食べよう」
いやお前、カニというより…
ルームシェアしてる友達だろ。
久しぶりにお互い休みの時間帯が被った時に心配してくれる、友達だろ。
ホラー小説史上もっともほんわかしたキャラです。
男には両親、職場の同僚や、セフレもいて「決定的な孤独」では無かったんですが、ほぼ全てを許せる友達がいない。そんな「実は心の壁が高い男」の信頼を得たカニ。
カニ、コミュ力高いなーーー。
これがホラー展開になることも驚きだし、何よりラスト、なんと泣けます。タイトル「かにみそ」なのに。人とカニとの友情に、泣けるんです。「かにみそ」なのに。
ホラー好きの方には勿論、小説は好きだけど、ホラーは苦手って人にもオススメな、カニで出汁をとったかのようなまろやかで味わい深いホラー小説です。
怖いんだか、怖くないんだか。みたいな甘口ホラー話は僕自身にもあって
中学生の時なんですけど。ある友達が家族で大阪に旅行してきたらしく、お笑い好きの僕にお土産で「よしもと新喜劇のキーホルダー」を沢山くれたんです。
山田花子さんや、Mr.オクレ師匠、間寛平師匠、池乃めだか師匠などバラエティ豊かで、しかもこのキーホルダー、後ろにボタンがついてて、それを押すと、例えば山田花子さんだったら「汗ばむわぁ…」などのギャグを言ってくれるキーホルダー。
それでしばらく遊びまして、実家の二階、自分の部屋で寝てたら、急に何かの音で目が覚めたんです。机の方を見ると、もらったキーホルダーが一斉に鳴り始めてる。「あへあへあへ」「ごめんくさい」「パチパチパンチ」などギャグではあるんですが、不気味。
一個一個ボタンを押して消してったんですが、間寛平師匠だけはボタンを押しても「あへあへあへ」と言いっぱなし。気持ち悪かったんで、キーホルダーの豆電池を抜いたんです。
ところがそれでも「あへあへあへあへ」と止まらなくて、そこでむちゃくちゃ怖くなったんです。で、たまらず二階の窓から家の庭に間寛平師匠のキーホルダーを投げました。
翌日、朝起きて机を確認すると、間寛平師匠のキーホルダーだけ無い。
つまりあれ夢じゃないんだ…と思ったのもつかの間、庭に寛平師匠を探しに行ったんですが全く見つからない。
本物の間寛平師匠はマラソンが凄いお方、もしかたらキーホルダーに魂が宿って、あのキーホルダーは電池も無いのに独りでどこかで走ってるかもしれません。
ホノルルとか…どうです。怖そうで怖くないでしょ。
怖い話で涼むって、人間の豊かな感受性がなせる冷却法。落語の怪談噺なんかもいいですね。
皆さんも自分に合った「丁度いい怖い話」で、この夏乗り切ってください。
この世で1番怖いのは幽霊でも怪奇現象でもない。
夏、ゾクゾクしたい本当の怖さを味わいたいあなたにオススメの一冊
貴志裕介「黒い家」KADOKAWA / ¥680+tax
わたしが人生で初めて手にした小説『青の炎』
2003年。当時13歳だったわたしは小学生の頃から嵐の二宮さんが大好きで(今でもずっと好き)…。二宮さん主演で『青の炎』が映画化が決まり、その時に初めて“原作を読もう!”と思えた作品。それまで学校の教科書すらも読めず(じっと座ってなにかをすることができないタイプ)…初めて完読できた作品でもあり、今でも定期的に読み返す思い出深い作品。小説は何年経っても色褪せることなく物語の世界をそのまま感じさせてくれる。(情景描写がすごく伝わりやすくて創造しやすいのも好き)
「好きな映画ってなに?」みたいな話になると決まって「悪の教典」と答える。
映画公開後の感想は賛否両論であったけど、とにかく“はんだごて”のシーンがゾクゾクして、大好きで、目の前で自分の手によって苦しめられる相手の表情が最高にたまらない…!!! 創造しただけでゾクゾクする。(映画での染谷将太さん演じる生徒・早水くんのシーンがとにかく最高! 観て頂きたい!)原作は何度も読んでいて、本当に面白くて、誰が書いた作品なのかと映画公開前に改めて小説を手に取ると“貴志祐介”。
貴志祐介さんの作品はわたし自身とっても好きなシーンが描かれていることが多いことに気が付き(ゾクゾクする感じ&小説として読みやすい)、今年当店阿佐ヶ谷ロフトAにて開催をした「文系ナイト」という企画でお笑い芸人さん達が自身のオススメ書籍紹介をするコーナーで貴志祐介さんの「黒い家」が紹介され、終演後にすぐに本屋さんで購入をし、読んでみて…今回の『ホラー小説紹介』にもぴったりだと思い、ご紹介を!(本が好きな人はぜひ一度「文系ナイト」に遊びに来て頂きたい◎!)
物語は大手生命保険会社で保険金の査定業務を担当する主人公・若槻慎二が顧客の家に呼び出され、そこで子供の首吊り死体の第一発見者となるところから始まる。
“保険金殺人”が主軸となっているので、自分の身の回りにも現実として起こりえるかもしれない、という現実味のある世界が主軸なのも想像しやすく、本が苦手な人でも状況、情景ともに貴志さんの作品は創造しやすいので、物語の世界へと一気に入り込める! また、本作品は1997年に出版され、翌年1998年に起こった和歌山毒物カレー事件と内容が酷似していることでも話題を呼んでいるので知っている人も多いはず!(日本では1999年、韓国では2007年に映画化)
最初は「え? これのどこがホラーなんだ…? 完全にミステリーなのでは?」と正直、思っていたんだけど、もう中盤から終盤にかけてはホラーとして気持ち悪いほどのゾクゾク感…。
読み終えてからの方が怖さが増してくる…!!! とにかく、近くにいる人間を疑いたくなる。人間不信になる(笑)。
完全なるフィクションなのに、実際に起こりえる内容でもあり、そこが更に現実世界の出来事として脳内変換をしまい…脳内で想像している登場人物達がリアルに動いていく。
ホラー作品なんだけど、幽霊も怪奇現象も起きない。むしろ、起きて欲しいくらい…。(その方が“物語”で終われるからね。現実ではアリエナイ世界として)
あなたのみている夢はなにかの予兆なのかもしれない。
そして、あなたが毎日、何気なく通っている道。あの家は、実は…。
読み終えた後はそんな風に毎日がよりエキサイティングに感じられちゃいます…(笑)。
“ただ、怖い。”だけではなくて、本当に小説として読みやすく、貴志祐介さんの本をこの夏はぜひ手に取って頂きたい!本当に怖いのは、いつだって…。続きは「黒い家」で。
今回、初めてのコラボ企画として、現役書店員でもあるお笑い芸人カモシダせぶん様と一緒に夏らしくホラー小説のご紹介をしました。
ホラー小説って聴くと純粋に怖くて読めない人も多いと思うのですが、カモシダさんがご紹介をした『かにみそ』のようにホラーなのに、泣ける小説があったり、怪奇現象や幽霊、心霊だけではなく、人間の怖さもあったり、いろんな愉しみ方があるんですよね◎!
わたし自身いつもは苦しみだったり、後味が悲しみだったりバッドエンドな物語を読みがちなんですが、いろんなステキな作品がまだまだたくさんあるので、今回のようなコラボ企画も愉しみながら(他の人が好きな本って気になるよね!)いろんな視点で作品をお届け致します◎次回もいつになるのか…気分次第になりますが、お付き合いください(笑)。
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