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ホントシオリ vol.14

2020.03.06 LOFTproject RooftopWEB 掲載

美しい容姿に魅了され、舞台に登壇した瞬間にしっかりと真っ直ぐ前を見つめ、パフォーマンスをする美し過ぎる青年に出会ったのは、今年1月。
当店にて開催をした「阿佐ヶ谷ロフトAイメージガール公開オーディション」という企画へ平成墓嵐突鬼隊・LIQさんからご応募頂き、限られた僅かな時間の中での自己PR、パフォーマンスはもちろん、“この人のことをもっと知ってみたい”と思い、個人賞をLIQさんへ捧げ、その副賞として、わたしがこうして不定期に更新を続けている『ホントシオリ』、書籍を通して、LIQさんのことをぜひ、皆さんにも知って頂きたいと思う。

あなたには出会えてよかったと思える敬愛する作家さんに出会えていますか?
今回はLIQさんとわたしがそれぞれ好きな作家さんを前編・後編としてそれぞれご紹介。

作家さんも人間だから作品名や内容が異なっていても、“その人らしさ”みたいなのを感じるときがある。なんとなく好きな作家さんを知ると相手がどんなモノ、コトが好きなのか、少しだけわかる気がする。


矢部嵩「保健室登校」角川文庫ホラー / ¥637

『なんだって出来るやつが一番偉いといってましたけど、つまりカエルも食えた方がいいと』
『カエルだろうがミミズだろうがゴミ層だろうが食える
べきだ』理科の教師は頷いた。
『いじめだって出来た方がいい。人も殺せた方がいい』
『捕まるじゃないですか。食ったら腹壊すじゃないですか』
『実際殺すかどうかじゃない殺せることが大事なんだ。
食えることが大事なんだ。やっちゃいけないことなればこそ出来るけどやらないことが大事なんだ』『やらない
やつが偉いというのはそういうことだ。」

保健室登校p193『平日』

皆様初めまして。普段は大学に通いながら『平成墓嵐』『平成墓嵐突鬼隊』としてアイドル、メンズアイドル、またソロのパフォーマーとして、皆様にあられもない姿をお見せしているLIQ(リク)と申します。

 今年1月16日に阿佐ヶ谷ロフトAにて行われた『阿佐ヶ谷ロフトAイメージガール公開オーディション!!』にイメージガール候補として出場させていただきました。結果、審査員のおくはらしおりさんの個人賞を頂き、今回こちらroof top web『ホントシオリ』にてコラボ記事を書かせて頂くこととなりました。学校の修学旅行の際、古本屋を見つける度に『10分だけ待ってくれ〜』と班のみんなに懇願し、もう2度と来ることのないであろう古本屋を涙を呑みながら物色する行為を繰り返して最終的に行方不明になったほど古本屋巡りが趣味で、本が大好きな僕にとって一番嬉しい企画を頂き本当に嬉しく思います。

僕の専門分野(偉そうだな)は怪奇漫画、VHS(ビデオのこと)、悪趣味系サブカルチャーで、これらと比べると小説に関しては知見が浅いのですが、それでもこの人は他の追随を許さなすぎだろと思う作家さんが1人います。それが矢部嵩さんです。2006年、武蔵野大学在学中19歳にして、『沙央里ちゃんの家』を発表し第13回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞。あの、僕自身若い方なんですけど(現在22歳)若き才能みたいなのを目の当たりにしちゃうと興奮で感情がバグっちゃうんですよね。1番ヤバかったのは漫画家の大山海さんが『頭部』でアックスの新人賞佳作を獲ったとき。その時の大山さんの年齢はなんと17歳。アックスをリアルタイムで読んでいた当時16歳の僕は『頭部』があまりにも面白くて、そしてこんな面白い漫画を描いたのが自分とたった1コしか歳が変わらないということに強烈な衝撃を受けました。興奮冷めやらず毎日『頭部』が掲載されたアックスを学校に持っていき、しかしこの衝動をどうしたら良いかわからずアックスを床に叩きつけていました。すみません、伝わる人にだけこのエピソードは伝わってくれれば良いです。

 矢部嵩との出会いはおそらく中学生の頃です。ちょうど怪奇漫画を集め始めた頃かな。本屋さんを散歩し、角川ホラー文庫のコーナーに辿り着きました。角川ホラー文庫の黒一色の背表紙は文庫本コーナーではなかなか目を引く漆黒さで、ふと手に取ったのが矢部嵩の『保健室登校』でした。(ちなみになんですが、ここ数年の角川ホラー文庫はもう目も当てられなくないですか?ただのラノベじゃん。カドカワだから仕方ないとかで納得できないよ。ホントシオリでも以前に紹介されている『かにみそ』とか、ああいう独特な才能はもう発掘されないのかと考えると夜毎枕がしめります)ぱらぱらとページをめくっただけでもはっきりとわかる異端な文章構成。見たことのない歯車の噛み合わせ方をした単語選び。読んでいると不安になってくるような、ギャグとシリアスのテンポ。衝撃的でした。これで察しがつくと思いますが、矢部嵩の書く文章はとてつもなくクセが強いです。受け付けない人は本当に受け付けないだろうし、多分ある程度文章慣れした人じゃないと、理解するのも難しいのではないかと思います。(矢部嵩さん本人も自身の作品を『読みづらいけど面白い』と評価しています)そしてこの狂気の文章は、マイナーカルチャーに片足突っ込んだ中坊を大変刺激する結果となりました。アレマ、テオレマ。因果因果。

 矢部嵩作品でまず目を引くのはブッ飛んだ設定と突っ走りすぎな残酷描写。クラス対抗リレーをしているだけなのに死体の山が生まれます。しかし見かけの設定やグロ描写のさらに奥を覗けば、矢部嵩の思想が、哲学がこれでもかと溢れています。

 冒頭に引用した会話文は、『保健室登校』収録の『平日』という短編のもので、僕の最も好きな言葉でもあります。できないからやれませんじゃ何にもならない。できるけどやらないやつが1番すごいんだ。ここでわたくしLIQが引用するのは90年代悪趣味カルチャーの主犯格、青山正明の言葉です。短いから聞き逃さないで下さいね。

『妄想にタブーなし』

冒頭に引用した言葉と、青山正明のこの言葉、ほとんど同じことを言っているのがわかりますか?露悪なものを扱うカルチャーにとって最も大切なことです。

 矢部嵩作品に戻ります。今作を読み返した時に、今の自分の状況だからこそ胸に刺さるセリフがありました。

『というのもあの子には許される内に大勢を巻き込んで何か迷惑をかけておいて欲しかった。才があっても経験はないし〜中路〜きっと伊里田はこれから今よりずっと普通の子になっていくと思う。人とは縁学んで馬鹿が薄まれば人にだってきっと好かれる。私はそれがもったいなく思う」『年取ればどうあれちゃんとはなってく、その前にお前は馬鹿で酷い奴だったんだよという消えない証
を伊里田に立ててやりたいように思う』

保健室登校p273『殺人合唱コン(練習)』

なんだか今の自分に言われてるようで不思議な気持ちになりました。大学生ながらも人前でステージに立ち歌ったり踊ったり馬鹿をしたりと特殊な人間になってしまった僕も、年取ればちゃんとしていってしまうでしょう。俺は馬鹿をしていたと、消えない証を立てているとはまさに自分の今のことだとしか思えません。ここまでやっちゃったら、この先普通になるのなんてホントにもったいないよね。このまま一生残る傷をたくさんつけて、替えの効かない人間になれればいいなと22歳の現在の想う所存でありました。

矢部嵩さんの短編小説がこちらでたくさん読めます。個人的には『花屋の娘』『メルヴィル第六先生の』『ぺらぺらちょ山』『複数人の回転』が好きです。是非読んでみてください。

以上LIQでした


今回のホントシオリvol.14は作家特集として阿佐ヶ谷ロフトAイメージガールオーディションに参加をし、見事(不名誉な?)おくはら個人賞を捧げた平成墓嵐突鬼隊・LIQさんに矢部嵩さんの作品をご紹介して頂きました。LIQさんの人柄も垣間見える内容で、元々のコンセプトとしている「ホントシオリ」の解釈“本としおり(書籍とわたし)”、“本当しおり(本当のわたし)”という二面性も感じられるステキな文章だな、と。(何様なんだという目線で申し訳ない!)衝撃的な作品に出会うと感情がバグっちゃうのも共感するし、どんどん若い人たちが本離れをしている中でも、こういうバグを感じながら、いろんな刺激を受け、感化されながらも自分を築いていける人生を謳歌したい、と若い世代はもちろん、わたし自身も思う、今日この頃。どんどん感情バグらせていろんな妄想をしていこう!

次回はわたし自身が影響を受けた作家さんをご紹介。

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