Okuguchi Fumiyu

奥口文結(おくぐちふみゆ) ことばとデザインの仕事をしています。 一日のはじまり・合間・おわりに、ちょっと一息つけるような文章を綴っていきます。

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最近の記事

それでも、なぜ嫌いになれないのか。

遡ること今年の1月。お正月気分も抜けない最中に、クエンティン・タランティーノ監督『レザボア・ドッグス』のデジタルリマスター版を観に、映画館を訪れた。 その少し前から公開されていたリマスター版のビジュアルにはハッとしていた。 真っ赤で鮮烈。当時のモノクロ写真の切り抜き、それに合わせたフォントやレイアウト、すべてが惚れ惚れするくらい格好いい。 それでも、「私は映画館には行かないよ」と後ろ向きな姿勢でいた。 というのも、『レザボア・ドッグス』は一度鑑賞して挫折しているからである

    • 大人になってもファンタジーが読みたい

      今年、約20年ぶりにユニバーサル・スタジオ・ジャパンへ訪れた。中学校の修学旅行ぶりである。 当時あったE.T.のアトラクションは無くなり、軒並みVRを駆使したアトラクションになっていて、時の経過を感じた。 再訪の目的は、ハリーポッターの世界を再現したエリア「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」だ。 エリア入口から魔法界に足を踏み入れたような造りで、アトラクション・ショップ共に、ハリポタファンならニヤけてしまう楽しさがたっぷりのエリアだった。 ハリー・ポッタ

      • 短編集 | とある街で | 11:30 p.m.真夜中のモンブラン

        とある街の、ある日。 どこかにいるかもしれない9人の物語。 知らない誰かとも、どこかで繋がっている日常を、 おやつと共に描く短編集。 (2021年11月開催 絵とことばの個展「おやつ展2」より) 週末の仕込みを終え、明日のスタッフのシフトを確認し、お店を出たのが10時半。途中コンビニによって帰宅し、ざっとシャワーを浴びたところで、すでに時計は11時半を回ろうとしている。 あぁ。つかれた。 毎日そう言って、ソファに倒れこんでいる。四六時中、仕事のことを考えているが、辛いと

        • 短編集 | とある街で | 9:00 p.m.レイトショー、ポップコーン

          とある街の、ある日。 どこかにいるかもしれない9人の物語。 知らない誰かとも、どこかで繋がっている日常を、 おやつと共に描く短編集。 (2021年11月開催 絵とことばの個展「おやつ展2」より) 企画資料をまとめていたらこんな時間になってしまった。急いで会社を出て、映画館へと走る。 郊外のシネコンを除いて、この町の映画館は一つ。社会人になって引っ越して来た知り合いのいないこの町での楽しみは、専らここで映画を観ることだ。 金曜日の夜ということもあり、映画館は混んでいた。夕

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        • 短編 | とある街で
          9本

        記事

          短編集 | とある街で | 8:00 p.m.さきちゃんのお茶会

          とある街の、ある日。 どこかにいるかもしれない9人の物語。 知らない誰かとも、どこかで繋がっている日常を、 おやつと共に描く短編集。 (2021年11月開催 絵とことばの個展「おやつ展2」より) しーーっ、ママがこないようにしずかにね。 ベッドに入っていれば、ねたふりすればいいからだいじょうぶよ。 きょうは、これからお茶会をするの。 アリスのティーパーティーみたいな、おおきなテーブルで、 さきちゃんとあなただけでね。おやつをひとりじめするのよ。 のみものは紅茶にする?そ

          短編集 | とある街で | 8:00 p.m.さきちゃんのお茶会

          短編集 | とある街で | 6:00 p.m.商店街、再会コロッケ

          とある街の、ある日。 どこかにいるかもしれない9人の物語。 知らない誰かとも、どこかで繋がっている日常を、 おやつと共に描く短編集。 (2021年11月開催 絵とことばの個展「おやつ展2」より) パートを終え、旦那のスーツを取りにクリーニング屋に行き、その足で商店街に買い出しに来た。娘のお迎えまで三十分。肉屋へ向かう。 駅前の商店街は、私が子どもの頃からほとんど変わっていない。八百屋、金物屋、一昔前のデザインの服が並ぶブティックなど、昔ながらのお店がそのまま残っている。郊

          短編集 | とある街で | 6:00 p.m.商店街、再会コロッケ

          あなたはどう感じるか

          7月14日、スタジオジブリ・宮﨑駿監督最新作『君たちはどう生きるか』の上映がはじまった。その週末、私は映画館のシートに身を沈め、写メにおさめた本作品のポスターにいる、サギを見つめていた。 レイトショーにも関わらず、シアターは老若男女でほぼ満席だった。 約2時間後。エンドロールが終わり照明が点いたシアター内には、何とも言い難い、不思議な空気が漂っていた。 上映がはじまった直後は、その作品の監督や演者のファンの割合が多いこともあり、何となく感じ方が似通っているというか、鑑賞後の

          あなたはどう感じるか

          短編集 | とある街で | 4:30 p.m.昇降口、メロンパン

          とある街の、ある日。 どこかにいるかもしれない9人の物語。 知らない誰かとも、どこかで繋がっている日常を、 おやつと共に描く短編集。 (2021年11月開催 絵とことばの個展「おやつ展2」より) 帰りのホームルームが終わり、先生から返却された携帯を開くと、「ねぇ、さっきヤバかったんだけど♡♡♡あと、コーチに対戦表もらってから向かうから昇降口で待ってて」と美咲からのメール。 ホームルームの前に、近くの席のみんなで雑談していた時のことだ。話はひょんなことから好きなパンの話にな

          短編集 | とある街で | 4:30 p.m.昇降口、メロンパン

          短編集 | とある街で | 3:00 p.m.ビジネスホテル、ドーナッツ

          とある街の、ある日。 どこかにいるかもしれない9人の物語。 知らない誰かとも、どこかで繋がっている日常を、 おやつと共に描く短編集。 (2021年11月開催 絵とことばの個展「おやつ展2」より) さっきから、足元でシーツがよれて、居心地が悪い。直すのも面倒で、シーツにくるまってだらだらしている。 就活の面接でこの町に来た。日帰りは難しかったので、安いビジネスホテルに予約を取った。 ホームページをちらっと見ただけのさして興味が湧かない会社の面接を終えて、ホテルの部屋に戻ると

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          話すことば、書くことば

          エフエムラジオ局で6年間、番組制作と話し手の仕事をしていた。 番組制作は、どんな内容をどんな時間帯で、誰がどのように伝えるかを企画し、取材をしたり、その音声素材の編集作業を行うものである。 話し手の仕事は、原稿を読んでニュースを伝えたり、ナレーションをしたりする、いわゆるアナウンサーとしての仕事と、番組でメッセージを読み上げて回答したり、最近の出来事を喋ったり、ゲストにインタビューをしたりと、もう少し幅広いパーソナリティとしての仕事がある。ラジオ局での仕事は、それらを行っ

          話すことば、書くことば

          短編集 | とある街で | 2:00 p.m.公園、タマゴサンド

          とある街の、ある日。 どこかにいるかもしれない9人の物語。 知らない誰かとも、どこかで繋がっている日常を、 おやつと共に描く短編集。 (2021年11月開催 絵とことばの個展「おやつ展2」より) 常連の佐々木さん、商店街の肉屋のおっちゃんが帰り、面倒くさい親戚の祐作がきたから退散する。まぁ、接客はほとんど妻に任せているのだが。 「お父さん、公園?」 「あぁ。」 はいはい、母さんは前掛けで手を拭いて、弁当包みと水筒を俺に手渡した。 「飲み物、あったかいのにしておいたから。

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          カフェインが効きすぎるときは

          コーヒーが好きである。 家にいるときは仕事の一区切りに、出先のときは移動中やカフェで、その時々のスケジュールや時間によって内容やタイミングはまちまちだが、毎日の楽しみとして摂りたい。 香ばしい香りや味に、ひととき心がほぐれる……はずが、おや。 何だか胸がはかはかする。体調が悪いわけでもないのに、カフェインが思いのほか効きすぎてしまう時がある。 思えば、コーヒーを飲むようになったのは社会人になってからだ。 苦く渋いだけ、と思っていた大人の飲み物。そこには甘酸っぱい風味のもの

          カフェインが効きすぎるときは

          短編集 | とある街で | 10:00 a.m.取引先、つまらないものですが

          とある街の、ある日。 どこかにいるかもしれない9人の物語。 知らない誰かとも、どこかで繋がっている日常を、 おやつと共に描く短編集。 (2021年11月開催 絵とことばの個展「おやつ展2」より) ふぅ、と一呼吸ついて、呼び出しボタンを押す。 「商工観光課の高橋です。10時から佐藤さんとお約束しておりました。」 受付の電話で努めて明るく名乗ると、お待ちください、と若い女性の声が応えた。 程なくして、小柄な女性がドアを開けた。佐藤さんの部下の伊藤さんだ。 「お世話になっており

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          タコライスと台風

          仙台に帰省した沖縄に住む友人が、お土産に、家で作れるタコライスのキットを買ってきてくれた。タコスミートを温めてご飯にかけるだけで、手軽に沖縄料理を楽しめるのは嬉しい。 タコスミートは牛挽肉を使っているからかコクがあり、付属のホットソースをかければ甘辛いアクセントが生まれた。 何となく見よう見まねで作ってきた我流タコライスとは違い、スパイシーな沖縄の味付けを楽しみながら、過去に訪れた沖縄で食べた料理の数々に思いを馳せる。 野菜やお肉がたっぷりのチャンプルー、食感が楽しい海ぶ

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          短編集 | とある街で | 8:00 a.m.喫茶店、モーニング

          とある街の、ある日。 どこかにいるかもしれない9人の物語。 知らない誰かとも、どこかで繋がっている日常を、 おやつと共に描く短編集。 (2021年11月開催 絵とことばの個展「おやつ展2」より) 朝一番、メール一件、上司から。 「佐藤さん 午後の資料を添付します」午後からの社内ミーティング資料だ。 ない。添付がない。ため息をついた。 もう何度目だろうか。部下の私が言うのは何だが、とにかく詰めが甘い上司は、連絡事項も漏れが多い。 会社に寄ってから打ち合わせに向かった方が良い

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          いつもトートな女

          おおらかで、でんと構えていて、包容力があるのがタイプ。 バッグの話である。 色々なバッグがあるなかで、いつも手にしてしまうのはトートバッグだ。 運ぶ、背負うを意味する「トート」バッグは、二つの持ち手がついた手持ちかばん。手に持ったり、腕にかけたり、長めの持ち手なら肩にかけたりと、 さまざまな持ち方ができる。持ち方に、その人らしさが表れたりする。 トートバッグの代名詞ともいえるアメリカのメーカー「L.L.Bean」のトートバッグは、氷を運ぶために作られたということもあり、と

          いつもトートな女