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他人に気に入られたいと思う気持ちと、まあ、いいやと思う間のとき。
「他人に気に入られようと思うと、色々なことが分からなくなる」
と、仲の悪い妹が言った。
「それは結局、他人が何を考えているかなんか分からないからなのだけれど、それを理解しつつ、どうしていいか分からなくなって、混乱して、苦しくなる」
僕は何も言わず、妹の話の続きを待った。
「なので、他人になんか気に入られなくたっていいや。なんて思ったりするのだけれど、そんなことを思ったとしても、結局、解決にはならない」
「他人って誰?」
「分からない。漠然とした、誰か」
それじゃ、どうしようもないよ。と言いたかったが、言わなかった。
妹もそんなことは分かっているのだろう。
僕は、安売りで買った炭酸水を冷蔵庫から二つ取り出し、一つ妹に渡した。
「そういう時は、一人で出かける。そして、大勢いる人を眺められる場所に行って、好きな音楽を聴くといい」
と、僕なりの解決策を提案した。
「その根拠は何?」
「根拠はない。僕がそうしてるから。それだけ」
「なんでそうするの?」
「大勢の人が、僕なんか気にしないで、通り過ぎていくのが心地よくなるんだ。そして、BGM付きで一人一人を眺めていると、なんだか、他人に受け入れられたいなんて思う、自分について少しだけ照れたりする」
「なにそれ?」
「それに、他人に受け入れられたい、なんて思っている人について考えたりするんだ。そういう人は嫌いじゃない」
「私は?」
「嫌いじゃない」
僕がそういうと、仲が悪い妹は、少しだけ安心したような表情を浮かべ、炭酸水を口にした。
「炭酸を飲んでゲップでもするといいよ。気が紛れるから」
僕がそう言うと、妹は少し不機嫌そうに僕を見て、部屋を出ていった。
まあ、仲が悪いのだ。
それでいい。
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