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黙ってるけど。

康夫は静かな男と評判だった。

だけれど、康夫自身は、ずっと腹を立てていた。
勿論、それじゃダメだっていうのは分かっているので、静かにしている。
だから、ずっと我慢しているのだ。
それが良いことではないことも分かっているので、出来るだけ一人になってホッとしたいと思っている。

何でこんなに腹を立てているのだろう。
実際、腹が立つことが起きてはいるのだけれど、起きすぎていて、記憶にすらない。
つまり、もう、次から次へと、
「あ、クソっ」
とか、
「ムカつく」
とか、
「ふざけんな!」
と、頭の中を駆け巡っているのだ。
だけれど、そんな人であってはならないと、ただ、静かにしている。

ジッと我慢して、顔に出さないようにして、ただ黙っているのだ。
そんな自分に、康夫は苦しくなっていた。
もう、何もかも放り投げてしまいたいなぁと思っていた。

何も楽しくないのだ。

康夫は、一人で、公園にある池をベンチから眺めていた。
鯉がグルグルと回っていた。

苦しいなぁ。と、今日も我慢している。
と、同僚の小畑が横に座った。
「康夫さん、いい天気ですね」
康夫は、やはり腹を立てていた。
一人の時間が欲しいのにと。でも、勿論黙っていた。
「……」
「……」
二人で黙って池を眺めた。
「こういう静かな時間を持つことも大事ですね。康夫さんみたいに」
と、小畑は、なにかに納得していた。

康夫さんは、何言ってんだよ勝手に、と思っていたが、勿論黙っていた。

こいつも苦しいのかと、思った。
ふん、俺のが苦しいのによ。
と、思っていた。

そして、小畑を見て、ゆっくりと頷いた。

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奥田庵 okuda-an
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