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老人とミカン。


通勤途中、バス停へ行くまでの道に一軒家があり、そこの家に、ミカンが木に育っていた。

それをなんとなく眺めて、毎朝出勤。

すると、視線を感じる。

ビジッ。
何かが閉まる音。

次の日、またその家の前を通るとき、見ると、ジッと二階の窓からこちらを見ている老人がいた。
人を疑うような厳しい視線の爺さん。


ビシッと、窓が閉まる。

「……」

外を見ている? いや、ミカンを見ている?
いや、ミカンがとられるのではないかと見ている?

窓は閉まったが、半分顔が見えて、こちらを見ている。

「……」

僕は、バス停でバスを待ちながら、「ミカンと老人」について考えた。
ミカンを盗まれた経験があるのだろうか?
ミカン盗むなと、看板を掲げたこととかあるのだろうか?
カメラをセットしてミカン泥棒の瞬間をとらえることもしたりするのだろうか?
ああ、明日にはいいミカンになっている、食べるのが楽しみだなんて思った次の日盗まれていたりとか。
ミカン泥棒を目撃したが、何も言えなかった自分への後悔とか。
いや、見つけて、叱ったけれど、逆に馬鹿にされた過去があり、視線を送るだけの日々なってしまったのだとか。

老人とミカン。

次の日、また出勤の時、ミカンを眺めた。

ビシッと音がする。

そうかそうかと僕は思う。

そしてミカンを収穫したら、老人は今度は何を眺めるのだろうなぁ。
と、思い、僕はバスを待った。



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