『ブラス:バーミンガム』を世界でいちばん愛した男
これは「ボドゲ紹介 Advent Calendar 2020」の16日目の記事です。ぐらさん、毎年ありがと!
みなさん、はじめまして!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
おしょうと申します。ふだんはボードゲームネットアイドル活動を行うかたわら、海外ボードゲームの翻訳、編集なんかをやっています。さて、今日は『ブラス:バーミンガム』を世界でいちばん愛した男について話していきましょ~~~!!
そもそも『ブラス:バーミンガム』って?
世界にはさまざまな宗旨がありますが、ある人物を神と崇める一派があります。その神名はマーティン・ワレス。
マーティン・ワレス神
神は1日目に『蒸気の時代』を、2日目に『ストラグル・オブ・エンパイア』を創られました。そして3日目、西暦に直すと2007年の頃になるのですが、重量級産業ゲーム『ブラス』を創り、稀代の傑作が産声を上げることとなります。『ブラス』はワレス神の信者のみならず、世界中の重ゲーマーを虜としました。頑強なゲームシステムと開始時の些細な違いがもたらすカオス力学的なゲーム展開から、幾億回のプレイにも耐えうる立派な子だったといいます。
それから年を重ねること指折り数えて両手いっぱい、すなわち2017年、Kickstarterにてあるプロジェクトがローンチしました。神の威光を一身に受けたその双子、兄の名を『ブラス:ランカシャー』、弟は『ブラス:バーミンガム』といいます。
兄は『ブラス』の血を色濃く受け継ぎ、原作のマップはそのままに、例外処理を減らし、2人用マップが追加されました。しかし姿は見目麗しく一新されており、外箱の箔押しからクレイチップに至るまで、豪奢という言葉がこれほど似合うゲームは他にありません。
一方の弟はといいますと、ルールの根幹は原作と同じですが、枝葉末節に至るまで大幅なアレンジが加えられ、マップは一新、資材の種類は追加、大雑把だった部分はマイルドに、ランダムセットアップでさらにリプレイ性は増加と、ボードゲームがたどった10年間の歴史を詰め込んだものへと変貌を遂げました。
TakeWatch氏のブログ「精神科医のボードゲーム日記」に、『ブラス:ランカシャー』のレビューおよび2作の違いについて記した素晴らしい記事があるため、そちらをご確認いただければと思います。
ざっくりレビュー:ブラス(新版)/Brass Lancashire
徹底比較:白ブラス/黒ブラス(翻訳記事)
『ブラス:ランカシャー』と『ブラス:バーミンガム』の最大の違いはなにか?
その秘密はパッケージに隠されています。
わかりましたか?そう、ここです。
『ランカシャー』はマーティン・ワレス単独の作品なのに対し、『バーミンガム』はマット・トルマン、マーティン・ワレス、ギャバン・ブラウンの共作となっています。長い前置きとなりました。
そう!!!!最後に名を連ねるギャバン・ブラウンこそが、『バーミンガム』を傑作たらしめた立役者であり、本作を世界でいちばん愛した男なのです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ギャバン・ブラウン氏
ギャバン・ブラウンとは何者か?
ギャバン・ブラウンは『ランカシャー』と『バーミンガム』を出版したRoxley社の主要メンバーであり、『スーパー・マザーロード』のデザイナー、『サントリーニ』『スチームパンクラリー』のデベロッパーです。
かつて、ギャバン・ブラウンはワレス神を信奉するボードゲームのギークでした。ギャバンとワレスの出会いは2011年のエッセン・シュピールまで遡ります。
『ブラス』原作を無限にリプレイしていたギャバンは、その年に出版された『数エーカーの雪』を確保するため、エッセン初日のドアが空いた瞬間にTreefrog社のブースまで駆けていきました。この年、ギャバンは『JAB: Real-time Boxing』というゲームをデザインしており、これと『数エーカーの雪』を交換してもらったといいます。ギャバンはこの瞬間のことを「まるで2人のサッカー選手がジャージを交換しているように感じ、ほぼ漏らしかけました。とはいえ相手はクリスティアーノ・ロナウドで、私は2部リーグの無名選手に過ぎませんが」と回想しています。
そして時は2016年に移ります。彼が世界で最も愛するデザイナーと共に仕事をするのは今しかないと決心し、最も愛する『ブラス』をRoxley社で出版すべき理由を、1000の言葉を用いてBoardGameGeek上にてワレスに送りつけたといいます。これに対するワレスの返事は一言、「No」でした。
ギャバンは落ち込みながらも、3ページに渡って再びメッセージを送ります。「ワレスさん、あなたは誤解しています。Roxley社はどうしてもこのゲームを出版したいのです」。そしてワレスの返信は「わかったよ、ギャバン。ときには粘り強さが報われることもある」。こうして『ランカシャー』と『バーミンガム』の物語は始まりました。
ギャバン・ブラウンというギーク
ギャバン・ブラウンの性質は、彼のBGGでのコメントにて垣間見ることができます。
ブラス 10点
史上最高のゲーム。
プエルトリコ 10点
ジャンルを定義したゲーム。10点以外を付けることがあろうか?
アグリコラ 9.9点
ゲーム史上最もリプレイ性が高い作品のひとつ。完璧なワーカープレイスメントゲーム。10点としなかった唯一の理由は、家族を増やさなければならないことなど、静的な(ゲーム展開に依らない)戦略が存在するからです。
数エーカーの雪 10点
8回プレイしました。それでもまだ巨大な玉ねぎの皮を一枚一枚剥がしているかのようです。レーティングで11点をつけることができれば、私のヒーロー、ワレスの名のもとにそうしています。
更新:9回目のプレイ。これまでで最も激しいゲーム体験のひとつ。(中略)このゲームにはデベロップに100年を費やしたように思えます。
更新:40回以上プレイし、out4bloodに大幅に負け越していますが、レーティングは10点のまま変わることはありません。近日、40回も遊ぶゲームにはよほどの魅力が必要ですが、本作はずっと私を虜にしています。しかし、ワレスがこのゲームを修正してくれることを願って止みません。『数エーカーの雪』は私のお気に入りのゲームです(もちろん『ブラス』に次いで)。適切に修正することはワレスにとっての最重要課題であると考えています。そうすれば、本作は何年も何十年も何百年にも渡って歴史に名を残す傑作ウォーゲームとなることでしょう。
ゲームの修正に関する提案:
(以下略:問題点と修正のアイデアが1700文字続きます)
そうなんです。彼は第一にボードゲームの、ワレスのギークなのです。それと同時にゲームデザイナーでもあります。どんなに好きなゲームであっても、デザイナーとしての血が熱く煮えたぎり、史上最高のゲーム『ブラス』でさえ、瑕疵と呼ぶには小さすぎるほどの違和感を見出してしまうのです。
彼は自分の経験と感覚を信じ、ワレスへの盲信に目を曇らせることもなく、『ブラス』を徹底的にブラッシュアップしました。テストプレイも何百回としたことでしょう。ワレスは完成した『バーミンガム』を3回だけプレイし、「OK」と答えました(そもそもワレスは、自分が出版したゲームをその後プレイすることはほとんどありません。ここにはある種の自信と、新たなゲームを生み出し続けねばならないという使命感を見出すことができます)。こうして世界でいちばん『ブラス』を愛した男は、世界でいちばん『ブラス:バーミンガム』を愛した男と呼ばれるに至ったのです。
以上がギャバン・ブラウンと『ブラス』の物語の一部です。わたくし事ですが、私も『ランカシャー』および『バーミンガム』完全日本語版の翻訳にたずさわらせていただきました。さまざまな人間が心血を注いだ作品に関わることができ、身に余るほどの光栄を感じております。みんな、無限に『ブラス』で遊んでいこう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
そして次の作品へ
エリア・オークションゲームの快作『メトロポリィス』。Roxley社はその続編『SKYRISE』の出版を予定しています。こちらの作品にもギャバン・ブラウンは関わることになるでしょう。なぜならば、やはり彼のレビューから引用することになるのですが、
メトロポリィス 9.2点
苦しい決断に満ちた鮮烈なゲーム。このミニマリズムとエレガントさの共存に思いを寄せるたび、驚嘆を抑えきれません。
彼は『メトロポリィス』を愛する男でもあるのですから。