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時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第7話「オオカミが狙う獲物」
菊屋の二階から、土佐藩の出入りを監視している御陵衛士たちは不穏な動きを察知した。
土佐屋敷の前を素通りして、福岡邸に逃げ込むように這入る浪人風体の三人組。太刀の長さを見れば、土佐の者と見受けられる。
見たことのない顔。明らかに怪しい。
そして、人里離れた峠で旅人に襲い掛かろうとしてつけ狙う野犬のような目つきの悪い五人組が、それを追うようにしてついている。先頭の男は手槍を脇差に構えている。
見覚えがある。大石鍬次郎。
新選組、大石隊の連中だ。
新選組の中でも、彼らは市中見廻りの役には付いておらず、暗殺専門の別働隊である。
大石の両脇を固めた左右の隊士が同時に相手に斬りかかる。どんなに手練れの者でも、左右から同時に斬りかかれると防ぎ切れない。あわよくば左右どちらかの初太刀を受けたとしても、もう一方の者の太刀を受けてしまう。そこを中心から、大石が手槍で心臓を一突きする。一瞬にして相手を倒す。太刀で切り付けるのと違って、手槍で突けば返り血を浴びないで済む。鎖の着こみを着ていても、網目の間に切先は難なく突き通すことが出来る。後の二人は後ろを固める。これ以上が考えらい様な見事な態勢である。
大石隊は、今の新選組では最も信頼される暗殺専門部隊である。
その大石がなぜここに。
しかも、土佐の家老の福岡の屋敷の中に入ろうとする土佐藩士らしきものを追って。
何があるのだ。
「わしが、聞いてくる」
齊藤一が一人階下に降りて、裏口から路地を南に大きく下って、河原町通りを渡り、寺町通りとの間の小路を上がって、大石隊の後ろに回った。
「大石さん、どうかしたか?」
咄嗟に声をかけられた後詰めの二人は、柄に手をかけて鯉口を切った。
「齊藤じゃ」
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時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第6話「京は新選組に任せる」|大河内健志|note
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