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時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第1話「やっぱり年上には逆らえない」
お龍、
わしは今、33歳。もうじき、34歳になる。
最も頼りにしている後藤象二郎は30歳。将軍様(徳川慶喜)は31歳。二人ともわしよりも年下じゃ。大政奉還の建白書を後藤に託して将軍様に出したが、どうなるかのう。わしらだけでは、心配じゃき。早く容堂公に京に入ってもろうて、後押ししてもらわんことには心配じゃ。それも、西郷どんが京におらんうちにじゃ。早うせんといけん。
そういえば、西郷どんは40歳か。容堂公の一つ年下じゃ。あの桂小五郎とて34歳。無理やり松平春嶽のおやじを引っ張り出したとして、41歳。どうしても最後は西郷どんの押し出しの強さに負けてしまう。
お龍、
わしは最近つくづく感じるのじゃが、わしらは所詮西郷一座の猿芝居の役者に過ぎんと思えてきたわ。わしは西郷どんの手の平で踊らされているお猿さんじゃ。ああ、アゴおやじ(武市半平太)が生きておったらなあとしみじみ思うわ。土佐藩は、もったいないことをしてしもうたのう。我らの土佐勤皇党を木っ端みじんにしおって。
アゴおやじが生きておったら今頃堂々と西郷どんと渡り合っておったのにのう。容堂公の気まぐれで、アゴおやじまで命を落とすことになるとはのう。
残念じゃのう。挙句の果て、残ったわしらは命からがらの脱藩じゃ。皆ばらばらになってしまった。
死んだ者もおる。なのに、今頃になってお天子様の世に戻すとなったら、土佐藩上役もあたふたしておる。わしらも慌てて藩士に戻してもろうたが、藩邸にも入れてもらえん。ご機嫌伺いだけで藩士に戻したのが、見え見えじゃ。あの中岡慎太郎に至っては、北白川の藩の別邸を力づくで分捕ってしもうたわ。
あれは庄屋の倅で書も達者で弁が立つのじゃが、血の気の多いのが玉に疵じゃ。あいつは、なんでか知らんが岩倉具視に気に入られて、倒幕じゃ、倒幕じゃと騒いでおるわ。
あいつは、幕府の本当の力を知らんのじゃ。わしらが勝さん(勝海舟)のところで、どれだけ操船を練習したか知らんのじゃ。この世で、幕府以外に戰の出来る船を操る者は誰もおらん。船は借りることが出来ても、人までは誰も貸さん。亀山社中とて大砲は打てんわ。陸じゃ多少時間は稼げるかも知れんが、海じゃひとたまりもないわい。皆、熱病のように倒幕じゃと唱えておるが、こまったものよのう。あれもこれも、西郷どんの操り糸で踊らされているだけのような気がするのじゃ。
お龍、
わしは西郷どん一座の猿芝居の猿では終わらんきに。
わしは、商いで世界へ乗り出すのじゃ。この世の中で、商いでわしに勝てるものはおらん。世界を相手にする社中(会社)を作るぞ。もう、猿芝居の猿は御免じゃ。
わしの社中じゃ。誰にも文句は言わせん。世界中を航海して回るのだ。お龍、うぬも必ず連れてゆくぞ。
それまで、首を長ごうして、待ちょっといてくれ。
必ず、必ず戻ってくるきに待ちょっといてくれ。もうちょっとじゃきに。
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