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時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第4話「物言わぬ刺客」

「坂本先生、中岡慎太郎様が訪ねてこられていますが、如何いたしましょう」

「こんな夜に、あの中岡がのこのこ訪ねてくるちゃないぜよ。名を語っとるだけちゃ。絶対に入れるな」

「はい、わかりました」

大政奉還に反対する同じ土佐藩の人間でさえ、わしの命を狙ろうておるちゅうに、同じ首謀者の中岡慎太郎がのこのこ来るわけないわい。

いつもなら、足音を立てずにすぐに戻ってくるはずの藤吉が戻ってこない。遠くで、言い争う声が聞こえる、廊下を駆け回る音が響き渡る。

そして、それが段々とこの隠れ部屋に近づいてくる。

やはり刺客。

部屋の前で、藤吉が闘犬のように無言で、相手と取り組み合っているのが分かる。大木が倒れるような大きな音がした。

「ほたえな」

思わず声を上げた。その瞬間、しまったと思った。

居場所が知られてしまう。

狙われている。

すぐさま文机の引き出しにある拳銃を取り出して、弾を込める。

手が震える。

寺田屋の時に受けた親指の傷痕が目に入る。

嫌な予感。

何人か?

予備の弾を手に掴むだけ掴んで懐に入れる。一個の弾丸が手から零れ落ちた。畳に転がる。

今はそれを拾う余裕はない。銃口を引き戸に向けて、両手で銃身を握り、充分に腰を下ろして身構えて、息を整えた。

ドンドンと引き戸を荒々しく叩く音が響く。

しまった。

いつもは、しっかり閉めているかんぬきが、さっき佐柳を招き入れた時に閉め忘れている。

その瞬間、さっと戸が開かれた。

最初は、槍だ。引きつけないと。

落ち着け。

一呼吸置く。

指先に力を入れて、まさに引き金を引く瞬間。

銃口の前に、髪を乱した中岡慎太郎の笑顔。

まさしく丸腰の中岡。正真正銘、中岡慎太郎。

身体の力が抜けた。

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大河内健志
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