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龍馬が月夜に翔んだ

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#土佐藩

抜けば、斬る!(『龍馬が月夜に翔んだ』より)

抜けば、斬る!(『龍馬が月夜に翔んだ』より)

望月弥太郎が、こいつらによって無残に切り刻まれたのだ。

望月はもう帰ってこないのだ。

あの望月はいない。

もう夜明けが近いというのに、彼は永遠の夜に閉ざされたままだ。

藤堂平助の眉間の醜い傷は、望月の恨みだ。

あろうことか、いま望月が私に恨みを晴らして下さいと哀願している。

龍馬の目には、知らず知らずに涙が溢れてきた。

零れ落ちた涙が、心の傷からにじみ出た血液のように畳を濡らしてゆく

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近江屋、突入!(『龍馬が月夜に翔んだ』より)

近江屋、突入!(『龍馬が月夜に翔んだ』より)

齊藤一は、菊屋の峯吉から、坂本龍馬が今は隠し部屋寝ている。今入った三人組は、十津川郷士と名乗っていて、近江屋の二階にいるとの報告を受ける。

「よし、藤堂平助さんと服部武雄さんが中に入って、中岡慎太郎ら三人を外に出して下さい。あくまで、不法侵入した不逞浪士を排除するという形です」

藤堂が、

「もし、刃向かってきたら?」

「当然、応戦して下さい」

日頃無口な服部が口を開く、

「相手が三人、

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月夜に吠える狼(『 龍馬が月夜に跳んだ』より )

月夜に吠える狼(『 龍馬が月夜に跳んだ』より )

あたりが薄墨を塗り重ねるように暗くなってくる。色の境がくっきりとしてきた。黒はより深みを増し、灰色には微かに金色が混ざるようになってきた。

月の光だ。月が出ているのだ。

漆黒は悪事を包み隠してくれる。しかし、冷たい月の光はそれを許してくれない。

「遅くなってすまん。山崎烝さんからの差し入れだ」

齊藤一は、柄と鞘を握った手を離さないで、緊張感を途切れさせないように、大石隊5人の各々の懐におに

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