切り損じる小次郎(『宮本武蔵はこう戦った』より)
徐に小次郎は、背負っている刀を下から前に回し、鐺で大店の軒先にある燕の巣をはたき落した。白っぽい土煙をたてながら、巣は地面に落ちて、砕けた。砕けた中に、何やら黒いものが、五つ六つ混じっていた。それは、よく見ると、子燕であった。まだ飛ぶことも出来ない子燕は、歩くこともやっとのことで、一つに集まって、唯か弱く泣くばかりであった。
小次郎は、落とした巣には一瞥もくれず、群衆を一通り見渡すと正面に広がる通りに顔向け、視線を空に向けた。空を見つめたままに、小次郎は静かに息を整えて