フリマの御恩
私は今育休中である。最近、某有名フリマサイトで「使わなくなったけれど捨てるのにはもったいないもの」を「手間を考えたら、捨てた方がよくない?」くらいの価格で出品してみることにした。
そしたらなんと一週間足らずで、購入してくれる人が現れた。アディダスのジャージ上下セットだ。
ジャージ上下セットは一体どのような配送方法が無難なのだろう。フリマ初心者の私は商品にあった配送方法を熟知しておらず、簡単に匿名配送で取引できる方法を選択していた。縦20センチ、横25センチ、高さ5センチの専用BOXで、黒い猫さんが届けてくれるアレである。
仕事帰りの夫に頼んで、専用BOXをコンビニで買ってきてもらった。
絶望的だった。え?縦20センチってこんな短い??高さ5センチまじでこれ???夫が手にしていたのは、数字に弱い私がイメージしていた大きさの箱より、一回り小さな箱だった。
それでもこの配送方法で販売し、取引が成立している以上、この箱で送るしかない。ジャージを箱のサイズに合わせながら、きれいにたたんでみると高さ15センチはゆうにある。
こういうこともあろうかと、100円均一で圧縮袋を買ってあった。徹底的に空気をぬくために、掃除機を用いて、圧縮し、口をしめようとするのだが、不器用な私はどうも空気がはいってしまう。
見かねた夫が掃除機の役を名乗り出てくれ、私は口を閉めることに専念できることになった。
夫「いくで、せーのでひくから、すぐ閉じるんやで!!!!!!」
フツフツと笑いがこみあげてきた。どこから湧いてきたそのやる気????というのが、おもしろくてならず、でも仕事から帰って晩御飯を作ってくれている夫が手を止めてまで手伝ってくれているのに、ここで茶化すのは最低だ、と私でも分かった。
笑いをこらえるのに集中していると、うまく口が閉められない。何度か挑戦し、平静を装いながら夫と連携プレーをこなし、それなりの感じに圧縮することができた。
それでも高さ10センチ。絶望的だった。
私は同じ配送方法で違う形の専用BOXがあることも知っていたので、夫にお礼を言ってそれをコンビニに買いにいくことにした。
うーーーん、大きさはよい感じだが、絶望的に薄い。(だって薄型専用BOXだもの。)とりあえず買ってみるまでもなく、薄い。
意気消沈して、家に帰り、半泣きになりながら、フリマ先輩の意見をネットで見てみることにした。知りえた情報は、蓋が閉まっていて、形状が著しく変化していなければ送ってもらえること。そういう場合は配送方法の変更を検討すること。
変更できれば、それがベストなのだが、そうとなれば取引相手に住所や名前を聞かなければならない。(サイズの大きな匿名配送は、販売価格が低いので使えなかった)匿名配送だから、購入してくれたというのもあるだろうに、それは大変失礼ではないか。
という私の意見を交えて、ポケモンカードをフリマでよく買っている夫にも相談。
夫「おこめちゃん。これはやるしかない。専用BOXで送るしかないんや。本気を出そう。」
そう言ってくれた夫の顔は、みなぎる闘志と決意に満ちていた。それからは夫の指揮のもとの梱包作業が始まった。
まず夫がジャージの下、私が上を担当し、大きさを最大限に活用し一番薄くなるようにたたむ。
夫「ちょっとでも薄くなるように、固定概念をすてた研究が必要や。」
とか何とか言いながら、それぞれ少し斬新なたたみ方を考案。圧縮袋のどの位置に入れるかもこだわる。そしていよいよ圧縮。
私は夫が私のために(?)こんなに本気になってくれているのだから、私も熱くならなければならない!!!!と今度ばかりはやる気十分。
夫「おこめちゃん、いくで!!これが大人の本気ィ!!!はい!!!!」(掃除機をひく)
私「ほい!!!!!」(圧縮袋の口を閉じる)
夫の考案で「せーの」で掃除機をひいて、閉じるよりか、「1・2」のリズムでひく・閉じるをできるだけ素早くすることにしたのだ。
そこで、一筋の光が見えた。
夫&私「一番しっかり圧縮できてるぅ!!!!!!!」
これならなんとか箱に押し込めそうだというジャージの姿がそこにはあった。その後、「大人の本気を見せてやるぅ!!!!!」とか「娘ちゃん(0歳4か月)、私たち夫婦の勇姿をよく見とくんやで!!!!」とかなんとか二人で叫びながら、箱に押し込み(夫はもはや箱に乗っていた。)、無事に梱包が完了した。
それは育休中、久ぶりに感じた達成感だった。もはや感動をしていた。夫も感動していた。売上は300円だったので、「これが300円分の労働の重みよね。」とか夫と抱き合いながら余韻にひたった。
私は夫にお礼を何度も言った。そして夫に「フリマの御恩」を授けたのだ。このアイテムは、頑固者の妻に言うことを聞いてもらえる権限(1回限り)である。おそらくしょーもないことで喧嘩したときなどに使うのがベストだと私は思っている。
しょっちゅう思っていることではあるが、私はこの日、人のためにここまで本気になれる素敵な夫と結婚して良かったと心から思った。もちろんまだ「フリマの御恩」は使われていない。
私の配送方法のチョイスミスで、つめつめの梱包になってしまったことを先方には謝罪し、温かく受け入れてもらい、無事に取引を終了したことをお伝えしておきます。
一生懸命梱包したジャージを今どこかで誰かが着てくれていると思うと、なんだか胸が熱くなるこのごろです。