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肉の下処理は、ぶっ叩いてワインに漬けろ【味・香り「こつ」の科学】

【はじめに】


僕の家系は、遺伝的にハゲる。
物心ついた時から、父親はC.C.レモンのCMに出てくるシンプソンズのお父さんそっくりだと思っていたし、祖父の遺影を見るとその血は脈々と受け継がれているものだと感じていた。


ホーマー・シンプソン 
(シンプソンズ)


三十代を目前にして、冬の針葉樹のようにスキマの空いた生え際を見るたびに嫌だなー嫌だなーと思う。

毎日お風呂場で抜ける髪の毛の数に絶望しながら、トンネルをスプーンで掘るような微力な抵抗を続けているけれど、それはおそらく、何もせずにハゲた後悔より、自分なりに抵抗した実感を持って後悔をしたいという思いがあるからだろう。

とはいえ、「やらない後悔よりやった後悔」とよく言うものではあるものの、未だに自分がどっちの後悔を嫌がるものかすら理解していない。

そんな自己理解の拙さを置いてけぼりにして、頭皮だけは着々と大人になっていっているんだね。。。
頭皮はえらいなぁ。

えらいねぇ~
(ジョジョの奇妙な冒険:荒木飛呂彦)


そんなことを、今日美容院で髪を切りながら考えた。




ところで本題なのだけど、最近こちらの本を読んでいる。

僕は昔から、本一冊読むのに時間をかけることが多い。
小説だとか、物語ベースの本だと1日とかで一気に読むこともあるのだけど、学術とか知識を与えてくれる系の本だと、めちゃくちゃ調べながら読むので、10ページ読むのに平気で5時間とかかかってしまう。全然進まん。

なので、「せっかくめちゃくちゃ考えて理解した内容だし、それをかみ砕いて発信したら役に立つんちゃうか?」とふと思い立った。

善は急げ。この気持ちの勢いのままにカフェへチャリを急行させ、この文章を書き始めている。


わかりやすさの是非はさておき、これをきっかけに、「こういう話って面白いんだ~」とか、「◯◯をする時にこうしたらいいのか~」とか、「自分も実際に読んだり調べたりして、詳しく理解してみたいな~」とか、そんなことを思ってくれる人が増えてくれると嬉しい。


【Q085 肉をやわらかくする方法】

今回は、本書の【Q085】に記載されていた、「肉を加熱する前にやわらかくする下ごしらえには、どんなものがありますか?」という質問の内容に触れたい。

結論の方法をざっくりまとめると、下記の2点に帰着した。

①肉を叩いたり切ったりして、繊維を壊す
②塩や特定の酸性の液体に漬けて、保水性を高める

①については、肉は加熱すると縮むし、なんとなく筋繊維が収縮したりとイメージが湧くと思うので、今回は割愛し、②の掘り下げをしたい。


■塩で漬けると、筋繊維が「溶けてほどける」

筋肉は、(1)ミオシンとアクチン(2)コラーゲンというタンパク質で大きくは構成されている。

特に(1)は筋肉の繊維を構築していて、いずれも塩溶性のタンパク質と呼ばれており、食塩の存在下で「溶ける」という性質が知られている。

「溶ける」とはどういうことかと言うと、一列に並んでいる繊維がほどけるという理解で差し支えないと思う。

そこから加熱が加わることで、ほどけた繊維が固まって、固まった繊維がいくつも繋がり、弾力を生む網目状の構造を形成する。[1]

難しそうなこと書いてあるけど、ほどけた繊維が→集まって→網目になる ってだけ

つまり、繊維をそのまま調理するよりも、ちゃんと溶かしてから加熱することで網目の中に肉汁を閉じ込めようっていう作戦。
塩で溶けるなんて、神様もおもしろい性質を付与したもんだ。

ちなみに、この性質は魚肉も例外ではなく、かまぼこなんかは加水して弾力を作るために、塩水を添加して繊維をほどいた後、タンパク質をくっつける酵素を使って弾力を調整している模様。[2]


■酸性の液体に漬けると、筋繊維が「保水」し、コラーゲンが「ゼラチン化」する

続いて、保水のお話。

基本的な性質として、上記に触れた(1)の筋繊維は、酸性の状態に置かれると水分を抱き込みやすくなる。

加えて、(2)コラーゲンタンパク質は、酸性もしくはアルカリ性にすることで分子がバラバラになって、ゼリーなどでよく使われる「ゼラチン」という状態になる。[3] ※これをゼラチン化というらしい


酸性にすることで起こる上記の2つの反応は、加熱した時の保水と、離水(水分が離れてパサパサになること)の防止に役立ち、いずれも肉をやわらかく、かつしっとりとさせることに役立つそう。

ここで、本書に紹介されていた論文のグラフを紹介したいと思う。[4]


縦軸は、数字が大きいと硬いよってこと



ええええ~~!!!
日本酒で漬けても水と硬さ変わらんのかい!!!!


初めて知ってほんとにびっくりしたのだけど、どのお酒を使うかによって肉の硬さがかなり違うみたい。

上の図は。数値が高いほどいわゆる「硬い」という評価をしているのだけど、ワイン類は水、みりん、日本酒と比べてかなり柔らかくなるようだ。
数字だけ見れば、1.5倍近く違う。

ちなみにみりん、日本酒の弾力が高い理由は、

  • 浸透圧等の理由で組織が膨潤すること

  • アルコールが脱水させて、繊維の密度が高くなること

という相反するマイナス要素が重なり、硬さに影響しているそうな。

本文中では、酸性か否かというpHによる影響だけでなく、各種のアルコールに含まれる有機酸(クエン酸とか、乳酸とか)等も柔らかさに影響しているのでは?と締めくくっている。

今までの経験や大枠の研究でなんとなくわかっていることではなく、今まで注目されなかったその他の要因が結果に大きく影響しているの、めちゃくちゃおもしろい。

【まとめ】

僕はかなりズボラなので、今まで「肉?筋切って日本酒に漬ければやわらかくなるっしょ!」と、調べも検証もせずに思考を放棄して下処理をしてきたけれど、日本酒に漬けてたら、わざわざぶっ叩いていることが無意味になってるみたいでした。

雰囲気で判断していると痛い目を見るんだね。


おばあちゃんが雰囲気で判断して、孫と映画見て気まずくなったコピペ思い出した
(魔法少女まどか☆マギカ:Magica Quartet)


以上、本書中の肉を柔らかくする方法についてのご紹介でした。

みんな肉を下処理する時は、ぶっ叩いてワインで漬けようね!!!!!!


出展

[1]山本克博 (2008), 筋肉タンパク質ミオシンの加熱ゲル化機構の新たな展開(今日の話題), 化学と生物 日本農芸化学会, 46, 748-750.
[2]植木暢彦(2022), かまぼこ製造における食塩の役割, Bull. Soc. Sea Water Sci., Jpn., 76, 201-207
[3]ユニテックフーズ, ゼラチンとは~基礎から徹底解説, https://shokulab.unitecfoods.co.jp/article/detail25/
[4]大倉龍起
et al.(2015), ワインに含まれる牛肉を柔らかくする成分とその評価方法, 日本醸造協会誌, 110, 8, 549-553




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