芥川龍之介『妙な話』私なりの考察
昨夜寝る前に、ナレーター窪田等さんの朗読する芥川龍之介著作『妙な話』を聴いていて、結末があまりにも妙すぎて、逆に眠れなくなり悶々と数時間も考察してしまった。
青空文庫:無料で読めるよ
あらすじは、簡易的には
友人の村上が私に「妹から手紙で伝えられた妙な話」をカフェで私に語る。
妹は新婚すぐ夫が戦役で海外派遣となり離れて暮らすこととなる。
初め夫は手紙で近況報告してくれていたのだが、何故か手紙がパタリと止まり、この頃神経衰弱(鬱)となる。
泊まりの用事で電車で出かける際、妹は「赤帽」と呼称される謎の人物に出会う。
赤帽は「夫は元気ですか?」等、妹のことを知らないはずなのに込み入った質問をしてくるが、何故か妹はそれほど妙とも思わずに色々答えてしまう。
話を聞くと赤帽は「じゃあ私が夫の様子を見てくるよ」と言い残し人混みに紛れ姿を消してしまう。
摩訶不思議な出来事に、妹は恐怖し、泊まりのお出かけのはずが、即日雨にびしょ濡れ顔面蒼白で家に帰ってしまう。
その赤帽はとくに妹に危害を加えたわけではないのだが、存在が不気味であり、神経衰弱(おそらく鬱)に拍車がかかる。
その後も、その影に怯え、まちなかの看板に赤帽の姿が描いてあると怖くなって帰ってきてしまったこともあるらしい。
3ヶ月ほど経ち、夫の友人の帰省とともに、赤帽が現れ、夫の近況を妹になぜか報告してくれる。
夫は無事であり、手紙が来なくなったのは「右腕を怪我して書けなかった」とのこと。
そのひと月後、確かに夫は妹のもとに戻ってきた。
さらに半月後、夫の任地が変わり、夫妻でそちらへ向かう電車内、再び赤帽が現れ、夫と共に目撃する。
夫は赤帽を見て顔色が変わるが、その後恥ずかしそうに語りだす。
「実はマルセイユにいるときに、見知らぬ日本人の赤帽が現れ、それほど妙だとも思わずに腕の怪我や近況を話したことがあるんだよ。でも今考えるとそんなところにいるの変だね。」と。
そして続ける「今顔を出した赤帽を見たら、マルセイユのカフェの彼と、眉毛(まゆげ)一つ違っていない。でも、そこまでわかっているのに顔ははっきりと思い出せないな、でもあいつだという確信はあるのにね・・・。」。
そのタイミングで、村上の友人数名がカフェに現れ、私はそれをきかっけに村上と別れる。
そして、こう締めくくられる
私はカッフェの外へ出ると、思わず長い息を吐(つ)いた。それはちょうど三年以前、千枝子(ちえこ)が二度までも私と、中央停車場に落ち合うべき密会(みっかい)の約を破った上、永久に貞淑な妻でありたいと云う、簡単な手紙をよこした訳が、今夜始めてわかったからであった。…………
要は私は妹と不倫しようとしていたが、2度もすっぽかされ、その理由が今の話でわかったのだと。
はじめ聞いた時、全然わからんかった。
わからなすぎて、いろいろネタバレ考察を調べたんだけど、しっくりくるものがみつからなかった。
そのせいでぐるぐる考察してしまったのだが、まずは、私の考察の前に、ネット上の考察を見る。
考察1「赤帽は兄の作り出した幽霊シンボル」
これは僕も最初思った考察。
じつは私と妹の不倫に感づいていた兄が、もう夫も帰ってきているから二度と逢瀬をしてはいけないよと、怪談調子で友人に伝えている説。
赤帽≒すべて知っている兄。
まあこのまま突っ切ることもできそうな説だけど、その割には出来事が冗長すぎる。
なくもないかとも思うがスッキリしない。
考察2「赤帽は私」
多分、実は私だったのです系のよくありがちなオチ。
これも思ったが、マルセイユで夫と会っているので、ここが単純に矛盾する。
不倫しようとしているのに、マルセイユで近況聞いて、帰ってきて妹に報告して消えるって意味不明である。
これも不完全燃焼。
考察3「藪の中パターン」
真相は闇の中的な。
もともと真実なんてないただの不思議話。
考えるの面倒くせえ、芥川ってそういうやつだよ!
これで逃げてもいいんだろうけど、僕が何度も読んでよく考えたらある筋ににたどり着いたので、まあこれじゃないなと。
僕の考察
これ多分、真面目な芥川がパズルみたいにキッチリ作ってある
『ほのぼの怪談話』
で間違いないと思う。
考えれば考えるほど、筋が通る。
僕の考察の前提として
私:2度ほど不倫しようとしたが、妹に断られ、その理由がわからない
村上:私と妹の仲も何も知らない。妹の話も「ただの妙な話」として語る完全なる第三者純粋ボーイ。
妹:大好きな夫と離れ離れでさみしい。寂しさから私と不倫しようとしている。
妹の夫:戦地に出向いて、謎の不思議な赤帽と出会う
という世界線。
じゃあ、赤帽ってなんなのさ。
赤帽:不倫ダメ絶対メッセンジャーオバケ
です。
私は妹と2度会おうとしていたと最後に語ります。
この話の中にも確かに2度会おうとしていた。
1回目は「泊まりの用事でびしょ濡れで帰ってきた場面」
2回目は「看板の赤帽を見て引き換えした場面」
その度に、妹は家に引き返した。
つまり、赤帽は、妹に不倫をさせないように働きかけをする役割をしているわけです。
要するに優しいヤツなんです。
しかも、妹も恐怖より先に、うっかり自分の近況を話してしまうくらいには、なぜか心を許してしまっている。
攻撃性のかけらもないオバケなんです。
守護霊的な立ち位置なのでしょう。
その面影を妹の夫も理解しているのか、夫の方もそれほど妙とも思わずに自分の近況を話してしまう始末。
そして、赤帽に出会うことができるのは妹と夫だけです。
それ以外の人は出会うことができていない。
2人だけ出会うことができる、オバケというか愛の精霊みたいなものでしょう。
夫は、「眉のあたりが完全一致するんだけど、はっきりと顔が思い出せないんだよなあ」と一言最後に添えます。
僕はこれを読んで、
妹の守護霊だから、妹の顔の面影をみている
のだと昨日完全に寝る前まで思っていました。
が。
おそらく、寝ている間に脳が勝手に更に考察したのでしょう。
今日の朝には全く違う答えが頭の中に浮かんできました。
「あ、これ多分、生まれてくる子どもだ」
と。
おそらく間違いない。
妹:赤帽と出会った後、初見では安心しながらも、後にちょっと怖くなる
夫:終始そこまで恐怖していないが、眉が印象的だと語る。
なんかちょっと温度差があります。
きっと夫に似た子どもが生まれてくるのでしょう。
眉は妹のではなく、夫のものに似ていたのだ思います。
赤帽に夫の面影が見えるからこそ、不倫しようとするバツの悪さを痛感して特に妹は怖かったのだと思います。
双方ともぼんやりとしか顔を把握できないのは、まだ見ぬ顔だからでしょう。
ただ最後に眉のあたりは認識できているので、もうすぐ生まれる暗喩なのかもしれません。
2度目妹に出会ったときの赤帽は、夫の近況を報告した後、遠くでニヤリと笑います。
「よかったね!安心してね!おかあさん!」という優しい気持ちが伝わります。
『そもそも、なぜ赤帽なのか』
赤帽ってなんだろうって、当時のこと、僕もよくわからないんですけど、荷物運搬するお仕事、郵便配達員、メッセンジャー的なものであるはずです。
夫と、妹の間でメッセージを取り交わすから、郵便配達員の姿をしているのは間違いないと思います。
が、以下、今日の朝導かれた案
赤帽≒赤ん坊
のダジャレも入っているんじゃないのかな。
二人の生まれてくる子どもというヒントをここでひとつまみ。
やってくれるぜ芥川!
もう書くの飽きてきちゃったんで、このへんで終わりにするのだが、最後に怪談じみた話を僕からもひとつまみ。
私が受け取ったという妹からの「永久に貞淑な妻でありたい」という簡単な手紙。
これを出したの本当は誰だと思う?
妹じゃないんと思うんです。。。。
ヒントはメッセンジャー。
おそらく、こういう数段構えの怪談だと思います。
これが正解だろ龍之介!
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