アーティゾン美術館「アートを楽しむ ― 見る、感じる、学ぶ」感想と見どころ
1.概要
アーティゾン美術館で開催されている「アートを楽しむ ― 見る、感じる、学ぶ」を観にいきました。肖像画、風景画、都市生活といった切り口から絵画の楽しみ方を紹介しており、色々と発見の多い内容でした。
2.開催概要と訪問状況
展覧会の開催概要は下記の通りです。
訪問状況は下記の通りでした。
【日時・滞在時間】
土曜日14:00~15:30入場のチケットを事前購入していました。最初にエレベーターで上がって6F「第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展 ダムタイプ|2022: remap」⇒5F「アートを楽しむ ー見る、感じる、学ぶ」⇒4F「石橋財団コレクション選 特集コーナー展示 画家の手紙」と下りながら展示を見ていく構成でした。割とコンパクトにまとまっていて、14:30に入館し3フロア回って16:00過ぎに展示室を後にしました。
【混雑状況】
次々とお客さんが来ていたのですが、作品と作品の間隔が広めで快適に鑑賞できました。展示室のキャパと来場者数の計算がしっかりできているのかなと思いました。
【感染症対策】
入り口で手指の消毒、検温がありました。
【写真撮影】
全点撮影可でした。
【ミュージアムショップ】
コレクション展のため今回の展示に合わせて作成されたものはなさそうでしたが、お香や色鉛筆など個性的なグッズが揃っていました。
3.展示内容と感想
展示構成は下記の通りでした。
Section1では自画像、肖像画が取り上げられていました。作家の(自分を含む)モデルとの向き合い方について、造形面、精神面の両方から迫る内容でした。会場には小出楢重が「帽子を被った自画像」を描いたアトリエを再現したスペースが設けられていたのですが、画家は鏡を見ながら自画像を描くので実際の空間と作品は反転している、画家は小道具もこだわって用意している、といったことが分かって興味深かったです。
Section2では風景画を「街」と「自然」に分けて展示しており、画家がどういった経緯でその風景を絵に収めたかが解説されていました。クロード・モネ「黄昏、ヴェネツィア」についてはモネが療養のため訪れたヴェネツィアの光景に感動して描いたこと、ヴェネツィアを再訪した時に仕上げようと思っていたが叶わず自身のアトリエで仕上げたことなど作品にまつわるエピソードが紹介されており、作品への思い入れがより伝わりました。この作品を譲りたがらなかったモネが着物姿の日本人女性に頼まれたら譲ってくれたというエピソードが微笑ましかったです(笑)。
Sectin3ではベルト・モリゾ「バルコニーの女と子ども」を「都市景観」、「女性の社会的立場」、「ファッション」、「マネとの師弟関係」といった様々な切り口から考察していて、一つの作品でもいろいろな視点から楽しめることが伝わりました。特に母娘の衣装が効果的に見えるよう構図が計算されているという解説が面白いと思いました。私としては屋外の絵でありながら母親が娘に視線を向けていて母娘の世界になっているところにモリゾらしさを感じたのですが、母親のスカートの膨らみを見せるために横向きにした構図の意外な効用だったのかもしれません。
Section毎にフリーのパンフレットが用意されていて持ち帰ることができました。帰宅後に読んで図版の豊富さと会場内の解説文がほとんど網羅されていることに驚きました。展覧会の振り返りにはもってこいで、作品についてじっくり考えてもらいたいという美術館の意図が感じられました。
4.個人的見どころ
特に気に入った作品は下記の通りです。
◆森村泰昌「M式「海の幸」第1番:假象の創造」2021年 アーティゾン美術館
6年前に初めて森村泰昌さんの作品を見た時は、大変失礼ながら「出オチか?」と思ってしまいました…。しかしその後、美術番組での作品に対する鋭い指摘やインタビューから伝わるアートに対する真摯な姿勢に感銘を受け、すっかりファンになっていました。昨年は森村さんの著書「自画像のゆくえ」(光文社新書、2019年刊)を読んだのですが、特にカラバッジョ、ウォーホルの章は興味深く読みました(新書本とは思えない厚さです)。今回展示されていた「M式「海の幸」第1番:假象の創造」は青木繁「海の幸」(ちょうど横に展示されていました)からインスパイアされた作品ですが、荒々しさが魅力の作品を理知的に再構成した跡が窺えました。
◆パブロ・ピカソ「腕を組んですわるサルタンバンク」1923年 アーティゾン美術館
◆パブロ・ピカソ「女の顔」1923年 アーティゾン美術館
ピカソに対しては正直アバンギャルドさに苦手意識を持っていたのですが、上記2点からはピカソの懐の深さを感じさせられました。「女の顔」は大理石のようなボリューム感と真っ青な空を思わせる背景がまさにギリシャ彫刻のようで、小型ながら存在感のある作品でした。絵肌にざらざらした感じがあったのですが、画材に砂も使われているようで、質感に対するこだわりが感じられました。「腕を組んですわるサルタンバンク」は「堂々としたサルタンバンクの英雄的な姿」(パンフレットより)を描いた作品ですが、私には試合前のボクシングのチャンピオンのように見えました。鍛え上げた体と余裕を感じさせるポーズ、そして物思いに沈むような表情によるのでしょうか…。この作品はピカソの「新古典主義の時代」の集大成的作品とのことですが、一つの表現を突き詰めた達成感と一所にとどまることのできない焦燥感が投影されていたのかもしれません。ペンとインクで描いたような端正な輪郭線も魅力的でした。
◆梅原龍三郎「ノートルダム」1965年 アーティゾン美術館
まさに寺院から後光が差しているような作品でインパクトがありました。この作品は晩年に描かれたもののはずですが、パワフルさと目にした景色に対する印象がダイレクトに表れているところが素晴らしいと思いました。
◆ヴァシリー・カンディンスキー「3本の菩提樹」1908年 アーティゾン美術館
カンディンスキーは抽象絵画の祖というイメージがあったのですが、光を感じる風景画も描いていたことが意外でした(カンディンスキーが本格的に抽象絵画に取り組んだのは1910年代以降なのだとか)。黒い額縁と相まってステンドグラスのような趣がありました。
◆ギュスターヴ・カイユボット「ピアノを弾く若い男」1876年 アーティゾン美術館
私がピアノ演奏が趣味なので感情移入しやすかったのですが、ピアノに映り込んだ指や部屋の装飾などの描写が細やかで、作品としても魅力的でした。会場には19世紀に製造されたエラール製のピアノも展示されていました。現代の曲線美を感じるピアノとは違ってカクカクしたデザインが印象に残りました。
5.まとめ
一つの作品に対して、制作過程を想像したり色々な視点から作品を解釈するなど、より深く楽しむヒントを得られた展覧会でした。GWに家族と鑑賞し、感想を語り合ってみるのも楽しいかと思います!
6.余談
鑑賞後1Fのカフェでコーヒーを飲んでいたのですが、別のテーブルに運ばれてたシフォンケーキが物凄くおいしそうでした。次は注文したいと思います。
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