目黒区美術館「ベルギーと日本 光をえがき、命をかたどる」感想と見どころ
1.概要
目黒区美術館で開催されている「ベルギーと日本 光をえがき、命をかたどる」を観てきました。ベルギーと日本という珍しい取り合わせながら、日本の近代美術について考えさせられる面白い展示でした
2.開催概要と訪問状況
展覧会の開催概要は下記の通りでした。
訪問状況は下記の通りでした。
【アクセス】
先日訪問した松岡美術館と目黒駅を挟んで反対方向で、こちらも通り沿いに歩いていれば迷うことなくたどり着けました。徒歩15分くらいです。
【日時・滞在時間】
日曜日の14:30に訪問しました。資料なども含めると割と展示数が多く、全部見終わったのは16:00頃でした。
【混雑状況】
割と空いていてゆったり見ることができました。ただ一部作品リストと展示順が異なり、多少迷いました…。
【写真撮影】
ルネ・マグリットの「ジョルジェット」を除き全点撮影可でした。
【ミュージアムショップ】
今回の展示についてのグッズは多くありませんでしたが、過去の企画展の物も含めポストカードなど色々販売されていました。展覧会にちなんでベルギーワッフルも売ってました(笑)。
3.展示内容と感想
展示構成は下記の通りでした。
明治時代にベルギーに留学した洋画家・太田喜二郎、児島虎次郎と彫刻家・武石弘三郎の作品を軸に、戦前の日本とベルギーの文化交流、ベルギー文化の受容を探るという内容でした。
第1章では太田喜二郎、児島虎次郎の留学中、帰国後の作品を中心に日本において印象派(ベルギーではルミニスムと呼ばれる)がどのように受け入れられたかが考察されていました。太田喜二郎の一連の作品からは、光をどう捉えるかという印象派的なテーマに一貫して取り組んでいた様子が窺えました。一方で児島虎次郎の作品は「川辺の風景」はマネ、「男の裸像(1)」はシーレ、「和服を着たベルギーの 婦人」はマティスと、色々な作家の影響を受けていたように見受けられました(実際にその作家を見たり意識していたかは不明ですが)。ただ太田は画壇で印象派風の画風を受け入れられず最終的に放棄し、児島は画壇と距離を置いて創作を続けたこともあり、「結局のところ日本において印象派は、受容されがたいものであったと言えよう」(展覧会キャプションより)と結論付けられていました…。印象派が作品として受け入れられなかったということではなく技法として定着しなかったということだと思いますが、現在の印象派の人気からすると意外な感じがしました。
第2章では戦前の日本で彫刻家としてロダンと並んで評価の高かったムーニエと、その影響を受けた日本の彫刻家の作品が展示されていました。ムーニエの作品は真に迫るような迫力とドラマティックさがあり、明治から大正にかけての浪漫主義と相性が良かったように思いました。ただ戦後の日本社会では忘れ去られた感があり、「社会運動の波に乗り、多くの作家に影響を与えた一方、その主題のみで理解されることも多く」(展覧会キャプションより)結局定着しなかったと論じられていました…。
第3章ではアートを通しての日本とベルギーの交流に焦点が当てられていました。第一次世界大戦中のベルギー、また関東大震災後の日本に対してお互いにアートを通じての支援があったことを初めて知ったのですが、この当時からこのような国際的な協力とチャリティーの精神があったことに驚きました。一方でベルギーのアーティストを日本に紹介しようとした事例も展示されていましたが、こちらも単発的なブームで日本に深く根付いたとは言い難いようでした…。
全体的に戦前の日本においてベルギーのアーティスト、作風とも定着しなかったという結論に落ち着いてしまうのですが、ここから日本の近代美術史について見えてくるものがあるようにも思いました。一つは西洋的な美術という概念が導入されてから日本においても急速にアカデミズムが形成され、傍流に属しながら創作を続けるには難しさがあったということ。もう一つは社会的な問題意識を表現するよりも個人の内面を追求する方が芸術家らしいという思想があったのではないかということです。一側面を見ての感想なのでそうと言い切れるものではないと思いますが、定着しなかったものに着目することによって却って見えてくるものがあるというのが面白い気づきでした。
4.個人的見どころ
個人的には下記の作品が印象に残りました。
◆ジャン=ジョセフ・ デルヴァン「連馬」制作年不詳 大原美術館
◆エミール・クラウス「レイエ川の水飲み場」1897(明治30)年 姫路市立美術館
どちらもベルギーの印象派「ルミニスム」に属する作家の作品で、今回最も印象に残りました。「連馬」は渦を巻くような雲と大気のうねりを感じさせるような空の描写がダイナミックで、太古の歴史(この場面では人間と馬の友情の歴史?)のようなものを感じさせました。一方「レイエ川の水飲み場」は静謐な美しさをたたえた作品で、朝日を反射して緑色に輝く湖面は神々しさを感じさせました。どちらの作品も宗教的な敬虔さを感じさせるものがあり、本家フランスの印象派よりも象徴主義寄りな作風に思われました。
◆児島虎次郎「和服を着たベルギーの 少女」1910(明治43)年 高梁市成羽美術館
展覧会ポスターで見て気なっていた絵です。ピンクと赤を基調にパステル調でまとめられていて、可愛らしい作品でした。余白の活かし方もオシャレだと思いました。
◆児島虎次郎「花鋏を持つ婦人」1913(大正2)年 高梁市成羽美術館
一見美しい絵なのですが、何かしら不穏な雰囲気を漂わせた作品でした。女性の青白い肌、コントラストの強い着物の色合い、花の暗めの赤、手には鋏といった諸要素の組み合わせがそう感じさせるのかもしれません。ただ日本画のいわゆる「怪しい絵」と比べるとドライな感じで、他の作品にはない魅力がありました。
◆太田喜二郎「麦秋」1914(大正3)年 高梁市成羽美術館
こちらは発表当初酷評されたそうですが、私としては日本情緒と印象派的な技法が調和した清々しい絵だと思いました。収穫の秋と謂えどまだ暑い一日の空気感が伝わってくるようでした。
◆齋藤素巌「東京株式取引所本館 建築装飾」1931(昭和6)年 小平市
「農業」、「商業」、「工業」、「交通」を擬人化したブロンズ像の連作なのですが、小型ながら力強さを感じさせる造形が印象に残りました。政治的な意図で労働を賛美するというより、働く人に敬意を払うという作者の誠実な姿勢が感じられました。
5.まとめ
普段あまり触れる機会のないベルギーの作家や日本の近代洋画家の作品を楽しめるとともに、いつもと違う視点で日本の近代美術史について考えさせられるユニークな展示でした。会期終了間近ですが、気になる方は行ってみることをお勧めします!
6.余談
帰りに目黒駅でゴディバの店舗を見かけたのですが、"Belgium 1926"の文字が。恥ずかしながら初めてゴディバがベルギーのメーカーだということに気が付きました(ショコリキサー大好きなのですが…)。意識してみるとベルギーのもので日本に定着しているものも結構あるんだなと思いました。
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