壁ドン

隣の部屋の人から苦情を受けた。

「うちの子が壁に頭をぶつける音が嫌で、仕返しに壁を叩いてるんですか?」

たしかに隣からはよく壁ドンみたいなことをされており、うるさいなとは思っていたが、こちらから何か仕返しとばかりに叩き返した記憶はない。
ちょうど引っ越しの準備をしていたので、もしかするとその作業中に誤って壁にぶつけて音を立ててしまったかもしれない。
玄関から見える位置にも封をした引っ越し段ボールを重ねていたので、
「もしかすると引っ越し作業中だったのでぶつけたかもしれないですね。すみません」
と積み上がった箱を示し、とりあえず謝罪をした。

向こうもそれで納得してくれたのか帰っていったが、これこっちが悪いんか?とドアを閉めてから疑問が湧いた。
たしかにわざわざ文句を言いに来るくらいなので何かしらの音は立ててしまったのだろう。
しかし、子どもが壁に頭をぶつけることで隣に響いてるだろうなという自覚あるんかいと思った。
そもそも壁に頭をぶつけるのは、それはそれで心配だ。

瞬発力があれば言い返せただろうが変に拗れても良くないので、それがベストな対応だったのだろうと考えることで自分を慰めている。

子育ては本当に大変だと思うのでそれに対して文句を言いたいわけではない。
気が立っていて仕返しだと思い文句を言いに来たのかもしれないが、言い方ってあるよねと感じた経験だった。
京都のエッセンスを加えるなら、
「えらいすんまへん。うちの子ぉが騒いで、なにかお気に障りましたやろか」
だろうか。

その日の午後に引っ越したので、その部屋が今どうなっているか知る由もない。
物が何も無くなった部屋では声がよく響いた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?