対話篇「羽とは何か?」
羽とは何か?
半田さん 名梨くん。何を考えこんでるの?
名梨くん あ。半田さん。いいところに来た。みちこ先生からね、また宿題出されちゃったんだよ。今度は「羽」について考えなさい!って。まいったなー。
半田さん とか言いつつ、嬉しそうだね!。それで、どこまで考えたの?
名梨くん 「羽があるから飛ぶ」のかな?それとも「飛ぶ必要があったから羽がある」のかな?って。半田さんはどう思う?
半田さん どう思うって・・・うーん・・・。
「飛ぶ必要があったから羽がある」っていうのは普通だね。例えば「飛行機」。海や
山など他の乗り物では移動が困難な場所を移動し、より速く移動するために乗り物
に羽をつけたのだから。それが飛行機だよね。
名梨くん そうかな。空を飛びたいという願望から飛行機が誕生したのかもしれないよ?空を飛びたいから羽をつけた。それが飛行機。
半田さん ふーん。でもどっちも同じだね。
名梨くん 何故?
半田さん だってどっちも必要性とか目的から羽が求められているからね。より便利な移動と言う目的のために羽をつけた乗り物が飛行機だし、空を飛びたい!っていう目的のために羽をつけた乗り物も飛行機。だとしたら、どっちも目的のために羽がついたと言う点では同じだよね。
名梨くん あ、そうか。
半田さん そうすると、目的から羽が求められたのだとすれば、それはこうも言えるよね。「羽とは目的のための手段」だって。「手段」って言ったけど、技術でも技法でも、方法って言ったっていいと思うよ。
名梨くん つまり必ず「目的」が「手段=技術・技法・方法」の先にあるってことだね。
半田さん そう。
名梨くん じゃあ、じゃあね。「羽があるから飛ぶ」のはどう?ここに目的は無いんじゃない?「あ、何かついてる。動かしてみよう。あれ、体がちょっと浮くよ。もっと動かしてみよう。あれ!体が宙を動くよ!じゃあとりあえず飛んでみようか」みたいな感じ。この場合目的が先にあるわけじゃないよね。
半田さん お、ちょっとだけ鋭いねー!確かにそうかもしれないね。例えば雀の雛が最初にはばたくのはそんな感じだと思うよ。親鳥が飛び方を教えるようなこともあるかもしれないけど、何か目的を示して飛び方を教えているわけじゃないだろうからね。雛は親鳥の羽ばたきをまねてとりあえず体をいろいろ動かしていく中で羽ばたく事を覚え、羽ばたいて飛ぶ事を覚えていく。目的が先にあるんじゃなくって、とりあえず「やってみる」。そしたら「出来た事」が「飛ぶ事」だったってわけだ。
名梨くん 初めに目的ありきではなくって行為ありきだね。
半田さん 整理してみるね。
①目的が先にあるから羽がある場合。つまり飛行機みたいな例は、羽とは「手段=技術・技法・方」である。
飛びたい!だから羽をつけた。と言う場合も「飛ぶ」という目的のために羽という「手段=技術・技法・方法」を求めたわけだから同じ。
②羽が先にある場合は、つまり雛鳥のような例は、羽とは単に羽ばたくという行為である。行為によって「飛ぶ」が生じ、「飛ぶ」を確認できるだけで目的はここにはない。
名梨くん 「羽って何?」と言う問いに答えるなら、どっちが正解?
半田さん どっちも正解かなー。でも順番はあるよね。まず②がないと「飛ぶ」ということ自
体が解らない。だから「羽って何?」にも答えられない。これが答えられないと①
の飛ぶ目的だとか目的のための手段の話にならないから、まず②が必要だよね。
名梨くん つまり?
半田さん つまり羽とは何か?と言う問いへの最初の答えとしては、羽とは羽の形状に潜在している「飛ぶ事ができるという潜在性そのもの」だという事。潜在性が羽という具体的な形状と、飛びたいという行為と願望を結びつけているっていう事。この潜在性を専門的な言葉で言うとアフォーダンスっていうけどね。
名梨くん 何か難しくなってきたなー。アフォーダンスね。後で調べるよ。検索でちょちょっとね。
半田さん 便利でいいねー。今の時代は。
ところで羽の話の延長だけれども、天使っているよね。
名梨くん いないかもしれないけど、話が進まないからいると言っておくよ。
半田さん 天使には羽が生えているよね。
名梨くん うん。生えているね。解剖学的に言えば手が四本あることになるよね。
半田さん 手が四本あるかどうかはおいていて、天使には羽がが生えているんだけれども、私はむしろこう思うんだ。「羽に天使が生えているのだーっ!」て。
名梨くん 笑っちゃったけどすごい発想だね!でもなんで?
半田さん 天使の役割は羽そのものだから。顔だけの姿や子供の姿はおまけだね。
名梨くん よくわからない。
半田さん 天使は神の意志を人に伝える「手段=技術・技法・方法」であるから。
名梨くん ああそうか。さっきの話とつながってるね。神にしたら人に意志を伝える「手段=技術・技法・方法」だし、人にしたら神の意志を知るための「手段=技術・技法・方法」ってわけだね。
半田さん そう。羽という「手段=技術・技法・方法」によって神は人を目的にするし、人は神を目的にできる。
でも・・・
名梨くん でも?
半田さん キリスト教の三位一体論では神が常に中心なんだよね。ドカッと神が居て、神の元に人の子であるイエスがいて、羽が生えた神の遣い走りである天使がいる。で、神はこの三つのペルソナのすべてでもある。だから常に神が中心にある。そうして神を中心としたうえで、「手段=技術・技法・方法」である天使が神と人の橋渡しをしている。これによって神と人はそれぞれお互いを目的化することになる。だから人の究極の目的は天使を媒介にして神に限りなく近づく事であり、神の目的は天使を遣わして為す、人の可能な限りの導きである。
名梨くん で?
半田さん じゃあ、ってかんがえるんだ。じゃあさっきのアフォーダンスとしての羽・・・天使を中心としてみたらどうなるのかな?って。神中心じゃなくってね。
名梨くん どうなるの?
半田さん えー!まだ私に言わせるの?ちょっとは自分で考えたらー?
名梨くん じゃあ考えるよー・・・えーと、三位一体論においては羽、つまり天使は遣い走りで神と人の間を行ったり来たりするわけだから、そういう媒介者ってことだよね。中間者と言ってもいい。これまでの話ではそれが「手段=技術・技法・方法」って事だったよね。だからつまり、この「手段=技術・技法・方法」を中心に据えるってことは、「目的」のために「手段=技術・技法・方法」が生じるのではなくて、「手段=技術・技法・方法」から「目的」が生じるってこと?
半田さん そうそう。いいねー!もう一押し!
名梨くん 「手段=技術・技法・方法」から「目的」が生じるってことは・・・同時にそれを志向する願望も生じるって事?
半田さん そう!いいねー!これを「手段=技術・技法・方法」を中心とした三位一体論と言ってもいいかなー・・・なんて思うんだけど、どうかな?
名梨くん みちこ先生―、どおー?
みちこ先生 もうちょっと身近な事として説明してー!
名梨くん だって。はい、半田さんお願い!
半田さん もー。自分で頑張って説明しなよー・・・まあ、いいか。
ええと、みちこ先生は絵が好きだから絵を描くよね。で、いろんな画材を使った事があると思うんだけれども、画材によって「描ける絵=目的」と「描きたい=願望」が決まってくるってことはなかった?例えば、クレヨンをあれこれ試しながら使ってると、「クレヨンで描ける絵=目的」が「描きたい絵=願望」としてだんだん定まってくる。透明水彩を使えるようになると、「透明水彩で描ける絵」が「描きたい絵」として定まってくる。私も絵が好きで色々な画材で描くんだけど、そういう経験はあるよ。
油彩をやってた時はレンブラントは良いな。レンブラントみたいに描きたいな。って思ってたんだけれども、クレヨンじゃ絶対無理。
クレヨン画なんて子供っぽくて魅力ない!やっぱり油彩でレンブラントがいい!
だけどクレヨンを使ってみたら、クレヨンで描く絵が魅力的に見えてきてそれが目的となってきたんだよ。同時にそういう絵を描きたい!って願望も強くなってきた。レンブラントじゃなくってね。
透明水彩の時も同じだったね。いわさきちひろみたいな絵は好みではなかったけど、透明水彩が使えるようになるにつれて、初めてああいう絵の魅力がわかる様になってきたし、ああいう絵を描きたいと思えるようになってきたんだ。不思議でしょう?
画材と言う「手段=技術・技法・方法」が目的と願望を決定するって・・・つまりそういう事。
わかったー?!
名梨くん わかったー!
みちこ先生 わかったー!
半田さん でもこの「わかった」からさらに先があるよー。
考えてねー!
Bye Bye See You Again
2022年11月23日
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