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『すずめの戸締まり』が向き合おうとしたものを考える #0011

本記事はポッドキャストとして配信したエピソード「『すずめの戸締まり』が向き合おうとしたものを考える」の議事録です。
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『君の名は』ファンの皆様ごめんなさい(も)


【トーク内容】

・感想読み上げ(怪談レストランについて)

脱コミのサムネイル作者のみうらさんから、ジブリ回についてのコメント。

怪談レストランで唯一くらいに忘れられないトラウマ回のことをピンポイントで話しててびっくりしたwww あれが一番トラウマで、小3くらいのときにタイムリープものへの恐怖だけ植え付けられた。お母さんとお父さんに助けを求めるかんじと、救いのないラストが刺激強すぎました。二人のその話に対する感想をもっと聞きたかったですねー

も:この話に関する感想はないだろ!

リ:感想がない…!?確かタイムリープできるボタンを手に入れた少年がうっかりビルから落ちた際にそのボタンを押すんだけど、どうしても落ちた直後までしか時間を巻き戻すことができず、無限に落下を繰り返すというお話(「リプレイ」)について喋ったんでしたね。

も:そういうお話でしたね。感想はないです。(笑)

リ:いや、「怖かった~」とかあるだろ!

も:でもやっぱりみんなにとって印象的なんだね、アレって。"怪談レストランで唯一忘れられないトラウマ回をピンポイントで"、って。

リ:印象的だよ。だって戻れないんだよ?何回落ち続けてもずっと落ち続けるなんて、怖すぎる。

も:そこまでは僕も思ったよ。でもそれ以上の感想は出ないですね(笑)

・『すずめの戸締まり』みた?

も:すずめの戸締まり』を観ましたね。かなり遅れての鑑賞となりましたけど。

リ:観ましたねぇ。これ、上映開始は(収録日から)半年以上前だったんじゃない?ようやくって感じですよ。

も:僕は新海誠の作品を観たことがなかったんですけども。

リ:それは珍しいね、って言おうとしたけどそこまで珍しくはないか。意外といそう。

も:君の名は。』は僕が高校3年生の時に上映してたんですけど、当時はすごかったですよね。

リ:そうだね。あの映画に関しては1年以上上映してたんじゃない?

も:あれでRADWIMPSも国民的バンドになった。今回の主題歌もそうだったね。

・『君の名は。』にまつわる嫌な思い出

も:『君の名は。』については嫌な思い出しかないんだよ。

リ:あ、何かそれにまつわるよくない記憶があるのね。

も:まつわっているかどうかは分からないけど、とにかく嫌な思い出がある。僕、高校1年生の時に初めて彼女ができたんですね。

リ:ほうほう。

も:高3になる頃には別れてたんだけど同じクラスになった。で、その子が夏あたりにクラス内の他の人と付き合い始めたの。

リ:気まずい。

も:そうすると周囲からなんか"もこみくん…"みたいな、そういう視線を感じるわけですよ。僕自身はなんとも思ってないのに。気にしてないからどちらの人とも話したりしてたけど、その時もね。

リ:あぁ、そういうのはどうしても感じてしまいますよね…

も:その二人が『君の名は。』を一緒に観に行ってたんですよ。この映画の印象は自分にとってそれでしかない。なんかもう、まつわるもの全てがろくなもんじゃない。

リ:そんな私怨で「ろくなもんじゃない」呼ばわりされて、新海誠からしたらたまったもんじゃないですね…

・三部作でいちばんいいタイトル

も:そんなこんなで新海誠作品にはなんとなく良い印象を受けていなかった。『天気の子』とかもそういう感じだったんですけど。

リ:でも、『すずめの戸締まり』に関しては何かが違ったんだ。

も:そう。この映画はまずタイトルとビジュアルイメージが発表されたじゃん。扉だけが写ってる、みたいなやつ。それを見た時点ですごいタイトルが良いなって思ったんだよね。"戸締まり"か…!みたいな。

リ:確かに三部作の中では間違いなく一番いいタイトルな気がする。

・簡単な設定解説/もこみ評:結構良かった

も:そういう意味で『すずめの戸締まり』は観に行きたいと思ってたんですけど、案の定公開初日から色んな話が流れてきたよね。

リ:そうね。天皇がどうたらとか、震災がどうたらとか。どういう話なんだろうかって感じでしたね。

も:そう。このお話、モチーフが震災なんですよね。東日本大震災。

リ:でしたね。それに関してはオマージュとかじゃなく、本当に東日本大震災としてテーマに扱ってた。

も:主人公のすずめはその被災者の高校生。震災でお母さんを喪ってしまって、宮崎県に暮らす叔母さんの元で暮らしているっていう境遇でした。この映画に対する僕の印象としては"結構良かった"という感じだったけど、リサフランクさんはどう思いますか?

・リサフラ評:頑張ってるけど気になる点アリ/地震の原因の描き方

リ:僕は新海誠がすごく頑張ってるな~と思ったんだけど、それはそれとして気になる部分も結構あったなって感じですかね。

も:気になる部分。

リ:はい。東日本大震災が作中でまさに東日本大震災として出てたけど、そこになんだか引っかかる部分があったというか。この映画ではミミズみたいなのが地震の原因として扱われてたじゃないですか。

も:あのどす黒い色をした、なんかエヴァっぽいやつね。

リ:そうそう。で、そのミミズにエネルギーが溜まって地面にバーン!!って叩きつけられると地震が起こってしまう、という。普通の人には見えないけれど、実はこの世界の地震は全てそのミミズに引き起こされていたんだ、みたいな世界観だったけれども。

も:そんな感じでしたね。

リ:そしてその世界には「閉じ師」という役割の人がいて、ミミズが出てくるドアを閉めることができていたら地震は起こらずに済んだと。そういう自然災害が人の手でどうこうできるものだったみたいな描き方だったのが引っかかりましたね。フィクション上の災害ならともかく、現実に起きたことをそういう風に扱うんだ…って。

も:それについて問題視するのは確かにその通りだとは思う。「常世」という、いわゆるあの世的な所と繋がっている廃墟の扉からミミズが飛び出してくるという。その扉を押さえつけているのは廃墟にかつていた人の心の重みみたいなものでもある。

リ:残留思念的な感じのものですかね。

も:そんな感じですね。だからこう、結局地震というものがミミズというモチーフに託されて、それを押さえたりコントロールしたりするのが人間、という構図は問題含みだよね。

リ:そうだよ。だってこの作中の世界では、関東大震災とか阪神淡路大震災とかも言ってしまえば閉じ師の落ち度として描かれてるわけじゃん。

も:そういうことになりますよね。

リ:だからそこはかなり気になったんだけど、ただ新海誠は絶対にそのような批判を受けることを承知でこの映画を作っている。その覚悟は評価したい。

・「常世のミミズ」と『かえるくん、東京を救う』

も:このミミズってね、完全に村上春樹の引用なんですよ。

リ:え、そうなんですか?

も:かえるくん、東京を救う』っていう短編小説があって…あ、偶然にもちょうど映画観る前に紀伊国屋で紹介したね。

リ:ありましたね。(笑)

も:それは『神の子どもたちはみな踊る』っていう短編集に収録されてて。阪神淡路大震災に関係するお話なんですけど、そこでも地震を引き起こすのがミミズなんですよ。だからそれを完全に借りてる。

リ:なるほどね。それは知っといた方がいいね、影響元として。

・過疎化や廃墟化と繋げるため?

も:でもそれを「人の心」とかに絡めたのは反発を生むよね。

リ:そうだね、もうちょっと何か別の手段があったのではないかと思ってしまう。

も:ただまあ、日本って人が減っていっているわけじゃないですか。で、当然廃墟も増えていっているという、なんとかそういう問題意識も接続したかったというのがあったのかもしれませんね。

・リサフラが語る新海誠の進歩/『君の名は』は架空のカタストロフィを描いたけど

リ:色々言っちゃったけど、東日本大震災をそのまま作品に出したっていうこと自体はやっぱり評価したいな。もこみくんが買った『すずめの戸締り』のパンフレットを読ませてもらってるけど、この監督のインタビューのところで、「『君の名は。』も東日本大震災のことを意識して作った作品だ」みたいな感じで言ってるじゃん。

も:言ってますね。

リ:『君の名は。』がどういうお話かというと、まず過去に隕石が落ちて滅んだ町があって、その災害が起きる直前の時代に主人公の片方がいる。で、落ちてくる隕石自体はどうすることもできないけど、なんとかしてそこにいる住民の人たちを救おうみたいな話なの。

も:知ってますよ。観てないけど。

リ:あ、知ってましたか。で、あれはもう完全に架空の話じゃない?そういうのと比較すると、真っすぐ現実のものを描こうとした頑張り自体は評価したい。ただ描き方は良くなかったな、という。

・震災を描く上で生じる当事者性の問題

も:ただ、それってあくまで設定に対する批判だよね。

リ:ほお。

も:この「震災を描く」っていうのは多分みんなやろうとしてることではあるわけじゃん。

リ:そうだね。

も:それを真正面から描いてる。で、新海誠って出身は長野だから、被災者ではないわけですね。そして僕らも東北の被災者ではないじゃないですか。なんというか、その当事者性という部分がめちゃくちゃ難しいなという。

リ:うーん、そこは確かに。

も:だってこれを東北の人が作るかといったら、多分できないことだと思うんですね。

リ:難しいところはあるでしょうね。

も:だし、当然やらなきゃいけないことでもないし。だって本当に心の傷を負っているわけだから。

・震災を知らない年齢層もたくさん観てる

も:あと監督本人も言ってたけど、多分これを観ている中学生とかはマジで震災の記憶ってないわけですね。東北でこういうことがあったとか、そういう認識が我々とは違う。今の高校生とかも、当時の記憶全然ないですって感じだったし。

リ:でしょうね。だって我々が当時小学3年生と6年生みたいな感じだもんね。

・映画『浅田家!』も最近観た/震災に関する映画を立て続けに観て痛感したこと

も:僕、『浅田家!』っていう映画を最近観たんですよ。嵐の二宮が主演のやつなんだけど。

リ:ほうほう。

も:これは実話を基にしてるのね。どういうお話かっていうと、まず主人公は浅田政志という、結構ちゃらんぽらんな生活をしている写真家なんです。めっちゃ端折って説明すると、写真集を出版してそれで受賞したり、余所のうちの面白い家族写真を撮ったり、みたいな感じでフリーランスとして活動する面白い人がいて、その人の写真家としての成長や出会いを描いた映画なんだけど、後半は完全に震災の話になるんですね。

リ:なるほど。

も:だから東日本大震災に関わる映画を立て続けに観たことになるんだけど、そこで痛感したのが、僕は震災で人が死んだってことを全く理解してなかった。

リ:ああ。

も:ってことをすごく思ったんですよ。

・写真を洗っている菅田将暉

も:作中では、浅田さんに初めて家族写真を撮ってくれと依頼したのが東北の家族だったから、という理由で被災地に向かうんだけど、そこに行くと、ずっと写真を洗ってる菅田将暉がいるんですよ。

リ:ずっと写真を洗ってる菅田将暉…?

も:そう。菅田将暉。そんな大学院生がいたんだけど、その光景を見て、"写真家としてやるべきことはなんだろう"みたいなことを考えさせられた浅田さんは、洗った写真を展示して、被災者の元に返してあげるということをやり始める。なんなら今でも、展示はしてないまでも被災者の人に写真を返すという活動はやってるらしいんだけど。それで、娘を亡くしたお父さんが、「葬式に使う写真がない」と言って訪ねてくるようなシーンもあって。

リ:辛いな…

も:そういうのを見てて、ああ、人が死んだんだ、っていう。本当に分かってなかったな、って思わされた。

・あの日何してた?

も:よくさ、2011年3月11日のあの時間に何してた?ってことって訊かれるじゃん。何してた?

リ:僕は小学校で帰りの回をやってる最中でしたね。

も:そっか、僕は掃除をしてたと思う。

・じゃあ、次の日は?

も:じゃあ、次の日は何してた?

リ:次の日…何してたかな、覚えてない。でも、多分ある程度普通に過ごしてたと思うよ。

も:そうだね。僕、次の日に友達とガンプラ買いに行ったんですよ。

リ:ガンプラ…?

も:ガンプラ。近くの家電量販店に営業してるか電話で確認して、そしたら普通にやってたから買いに行って、それを友達の家で組み立ててたんだよね。なんかやっぱりそんな感じだったな、って。

リ:でもそうだよね。

も:やっぱり人が死んだんだってことはまだ小6だったから理解できてなかった。東北に親戚がいたとかでもなかったから。理解できてなかったんだってことを、『すずめの戸締まり』を観てすごく感じましたね。

・過去との決別ではない「いってきます」

リ:僕も設定の面では色々思うところはあるけど、それ以外では結構良いなって感じたところもあって。

も:例えば?

リ:ラストシーンの話になるけどさ、ドアを閉める時、「いってきます」って言うじゃん。それがめちゃくちゃ良いなって思って。もしそれが過去との決別だったら「さよなら」って言ってたはずなんだよ。

も:うんうん。

リ:でも「いってきます」なの。辛い記憶を押し殺すとかそういうんじゃなく、とりあえず一回戸締まりをするっていう。その言葉選びが好きだったな。

も:「いってきます」っていうのも重い言葉だしね、震災って部分だけで言うと。

リ:まさにそこも描かれてたね。

・すずめの行動原理が分からん、という声への疑問/震災を描くことのやましさ

も:あとなんかよく批判されてるのは、すずめちゃんの行動原理が分からんっていう部分だけど、それに関しては彼女が被災者であるということを無視した意見かなと感じるんだよね。

リ:ほう。

も:多分、新海誠も震災を描くことにやましさを感じてると思うんだよ。当事者じゃないわけだし。「当事者じゃない」っていうのも色々と難がありそうな表現ではありますが、とにかくそう。

リ:うん、間違いなくあるだろうね。

も:ただ、それをあけすけに描くのは難しいわけ。すずめの日記を見に行くシーンあったでしょ?

リ:小さい頃に描いてたやつね。

も:でも黒塗りになってたじゃん。あれってつまりそういうことだと思うんだよ。やっぱりそこはどうしても描けなかった。で、すずめの行動原理がどうっていうのは、被災して母親を喪って叔母に引き取られて、って絶対後で色々あったわけじゃん。多分馴染めてないんだよ、示唆する描写も多かったけど。

リ:そうね。

も:そういうバックグラウンドを想像すると、草太に着いていくのは全然理解できなくはないというか、結構腑に落ちましたね、そこは。

・『竜とそばかすの姫』の行動原理はガチで分からん

も:で、『竜とそばかすの姫』だっけ?

リ:はい、細田守監督作品。

も:あれはガチで僕は分からなかった。

も:最後の方とかマジで、なんでそんなことするのっていう。

リ:あれは、僕も全く理解できなかった。

も:"行動原理が分からない"って、ああいうことを言うんだろって。『すずめ』は理解できる方だと思う。

リ:細田守は脚本を書いちゃダメな人だよ。

も:あれほんとに意味不明だった(笑)

も:僕は別に映画は脚本がどうとかどうでもいい派なんですよ。映像がすごい良ければOK。でも『竜とそばかすの姫』だけはおかしかった。あれも東京に行くよね?

リ:行くね。

も:行く意味が分からなすぎる。オンラインの関係じゃなくて実際に対面で会うことの意義はすごく分かるんだけど、そこへの持っていき方がぶっ飛びすぎてる。僕に読み取れてない部分があったのかもしれませんが。

リ:いや、あれは変でしたよ。

も:変だったよね…

・『すずめ』の旅先追跡パターン/衝撃のイス

も:それに比べて『すずめ』は東京に行く理由が納得できるというか、全然自然だったし、ぶっちゃけかなり面白かった。あと昨日リサフラも言ってたけど、交通系ICからその行動が追跡されるのがね。

リ:電子マネーの履歴というかね。かなり現代的でしたね。

も:あと、いつの間にかネコに「ダイジン」って名前がついてたね。気付いたらみんなその名前を受け入れているという。

ダイジン

も:あと椅子がね。

リ:椅子が歩いてましたね。

も:あれは衝撃的だよな。これがあと2時間続くの!?みたいな(笑)。コミカルでおもしろかったですね。

リ:うんうん。

も:なんか本当にお話として面白かったですよ。最後にすずめちゃんがすずめちゃんに椅子を渡すシーンとかも、ベタかもしれないしそこで言ってることも普通かもしれないけど、でもやっぱりグッと来るものがあったな。

椅子(草太)

・新海作品初鑑賞補正?/環とすずめの衝突シーンのえげつなさ

も:ただ僕はこれが初の新海誠作品だったので。なんか感想で、過去作を観てきた人たちからすると話がちょっと分かりやすすぎるみたいなのも見かけたけど。

リ:それはどうなんだろうか。僕も過去作は前二作しか観てないけど、でもその二つと比較して感じたのは、さんっていたじゃないですか。叔母さんのね。

も:いましたね。

リ:環さんとすずめちゃんが衝突するシーン。あれとかっていうのは少なくとも前二作にはなかったものというか、ちゃんと大人の視点があったっていうかね。環さんの心情とか、すごいリアルで。

も:あれはえげつないシーンですよね。

リ:本当にそうだったと思うんだけど、ただ『君の名は。』や『天気の子』っていうのはそれと比べて割と視点が思春期っぽいというか。後者なんてまさにですよ。なんか孤島みたいな所に住んでる主人公がなんとなく嫌気がさして家出して、そこでヒロインと出会うみたいな話なので。

も:そうなんだ。

リ:あれを初めて観た時、僕は高校3年生だったけど、「なんて幼いんだ…」みたいな感じで、むしろ受け入れられなくて。

も:ああ、自分と同年代の設定だからこそ。

リ:そう、だからこそその幼さが目立って映った。今は受け入れられるようになったけどね。そういうのと比べると、かなり視点が変わってきてるように感じたね。

・物語を面白くする“三角関係”

も:僕は三角関係になってるのが良いなと思った。すずめちゃんと大臣と草太、ここはある種の三角関係でしたよね。二人だけじゃなく、ここにもう一人いるっていうのがすごく物語を面白くしてたと思う。

リ:確かに。

も:あとさっき話した環さんとすずめちゃんの衝突っていうのは、サダイジンっていうもう一匹のネコの仕業だったよね。

リ:うん。

も:そういう第三者によって何かが起こるっていうのは面白かった。あと、草太の友達の芹澤とかもね。芹澤はもう少し出てきても良かった。

・芹澤の選曲狙い過ぎ

芹澤

リ:芹澤は選曲がね。

も:あれはね。カーステレオで音楽を流すシーンがあるんだけど、「ルージュの伝言」から始まり、そこから昭和歌謡的なものが続くという。あれはちょっと狙ってるような雰囲気があって…

リ:やかましかったね。

・父親の不在は意図的?

も:あと旅先で何人か女の子とも知り合いますよね。ルミとか千果とか。でもそういうの見ててすごく気になったのは、"父親"が完全に消されてること。

リ:確かに全然出てこなかったな。

も:一切出てこなかった。すずめちゃんのお母さんはシングルマザーで、女手一つで育てられたからこそすずめの境遇が痛ましいものになるわけだけど。その頃から父親の存在はなかった。行き先で助けてくれる人もみんな女性だし、引き取ってくれた家族も女性だし、全然父親が出てこないという。草太は両親が出てきてなかったね。

リ:おじいちゃんは出てきてたけどね。

も:うん、血縁関係としての親子の描き方が一般的なそれとは違う…普通じゃないとか言ったらあれなんだけど。

リ:あえて除外してる印象は受けましたよね。

・日本語と神道と天皇

も:でもテーマは神道というね。

リ:そうね、もう『君の名は。』~『すずめの戸締まり』は神道三部作だからね。

も:神道を扱うからには当然天皇がどう、みたいな話にもなってくる。これはずっと思ってることだけど、日本語ってやっぱり天皇がいる言語圏なわけですよ。うまくは言えないけど。

リ:ふむ。

も:天皇って常に存在しているじゃないですか。日本語による思考様式とかって、天皇という存在があるということはもはや絶対に不可避というか。あらゆる言説において、天皇の存在がどこかで必ず影響しているわけです。

リ:まあそうなるのかな。

も:だから『すずめの戸締まり』に天皇が全く描かれないことが逆に変みたいな指摘とかを見ると、まあそれも指摘としては分かるけど、正直観てる最中にはそんなこと考えなかったな~って感じですかね。

・アニメ大量視聴中リサフラ先生の評価/良いアニメには重力がある

リ:あと最後にアニメーション表現についても話したい。

も:リサフラ先生、よろしくお願いします。

リ:先生(笑)。僕、アニメに関しては最近TVアニメをめちゃくちゃ観てるんだよ。なんだけど、こういう"ここに全てを注ぎ込む"みたいな気合の入り方をしたアニメ映画は久しぶりに観たから感動しちゃったよね。なんか、良いアニメって重力があるよなって思った。

も:ほぉ~。

リ:走ってる時の髪の揺れ方だったり足の跳ね方だったりみたいな、そこらへんがやっぱり細かいな~って思ったね。

も:確かにみかんが落っこちるところとかもね。椅子が走るっていう訳の分からないこともやってるし。

リ:あれは面白かったね。(笑)

・オーロラの彩度

リ:新海誠のアニメって色彩がめちゃくちゃ豊かなイメージだったけど、その点については前二作と比べるとそこまでだったね。

も:そうね。

リ:それこそ第二回で取り上げた『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』とかって、世界を過剰に美しく描くことによって綺麗な画を生み出してるよね~みたいな話をしましたけど、新海誠作品はまさにその象徴だった気がしていた。でも今までのと比べると案外そういう要素が少なかったなという印象を受けたんですよ。

も:確かに。見ててそんなにストレスがなかった、というか全くなかったかもな。

リ:そういうのって、やっぱり"忘れられた場所"を描く上ではやっぱり忠実さが必要だったのかな、みたいなことを思いました。だってこのお話、宮城県がピカピカな感じだったら物語として成立しないもんね。

・外部なりのギリギリの当事者性

も:そういう話で言うと、芹沢が「ここってこんなに綺麗だったんだ」みたいなことを言ったのに対して、すずめが「ここが綺麗…?」みたいな感じで返してたシーンあったじゃないですか。

リ:ああ、あったね!

も:あそこはやっぱり原発の話だと思うんですよね。原発事故とか津波があったような場所を東京の人は「綺麗」って言うんだ、っていう。そういうのを示唆した表現だったんじゃないかと思う。やっぱりギリギリのところで外部からの当事者性みたいなものを表現しようとしているんじゃないかな。

リ:結構緊張が走るシーンだったよね。

・大ヒット中の中国韓国でどう受け入れられているのか

も:この映画っていま中国や韓国でめちゃくちゃ売れてるらしいよね。

リ:らしいね。興行収入がとんでもないことになっている。

も:アメリカとかでも劇場公開されてるでしょ?まあそれも気になるけど、とにかく東アジアでどういう風に受け取られてるのかが気になる。

リ:確かに。

も:国境を越えての視点というか、そういう意味での外部性だよね。まあ単純に面白いから売れてるというのはあるだろうけど。

・新海誠に興味が湧いた

リ:ふと思ったけど『君の名は。』が公開された頃ってちょうど"インスタ映え"みたいな言葉が浸透してきた時期か?全体的に彩度が高いのってそういうのとも関係してるのかな。

も:それは過去作とかも観てる人に色々訊いてみたいところですね。

リ:確かに。

も:とにかく僕も新海誠に興味湧きましたよ、この映画観て。

リ:あ、本当ですか。ぜひ色々観てください。

ーーーお便りーーー

もこみさん、リサフランクさん、こんにちは。
ベランダに花壇を放置していたら雑草が生えてきたので、せっかくだからと育てていたら、ここ数日で急成長を遂げました。
嬉しいです。

神奈川県在住 ペンネーム:リサフランクさんからのお便り

・雑草が大雨で急成長

も:おめでとうございます。

リ:ありがとうございます。

も:雑草を育てているんですか?ていうかそれは元々何を育てていたの?

リ:遠い昔すぎてよく覚えていない。相当長い間放置していた花壇なんです。僕、マンションのまあまあ高めの階に住んでて。そこのベランダに置いてる花壇から急に草が生えてきたら感動するわけですよ。風に乗って来てくれたんだね、って。

も:ああ。

リ:しかもなんか3本くらい生えてる。あまりにも愛着が湧いちゃって、ちょくちょく水やりしたりして育てていたんですが、なんかどんどん大きくなってきて。ちょうどこの収録している日の一昨日だか一昨々日だかにとんでもない雨が降ったと思うんですけど、それの影響なのか、昨日ふと花壇を見てみたらとんでもないことになっていて。なんかトトロの「大きくなーれ」的なやつで伸びたんかなって思った。

も:トトロ観たことないんですよ。

リ:そうだったわ!!なんかこう、ニョキニョキとした動作を子どもらがすることによって農作物が急成長するシーンがあるのですが、それなのかなって。

も:じゃあ、「トトロいたもん!」ってことですか?

リ:「トトロいたのかもしれないもん!」ですね、見てはないので。

本当はここに写真を載せたかったのですが、あまりに大きくなりすぎて撮ろうとすると向かいのお家が写っちゃうので載せられませんでした。申し訳ないです。(リ)

・てか雑草って何?/強い生命力から貰う元気

も:雑草って何?あいつらなんで生えてくるの?

リ:わかんないけど、とにかく生命力が強いことだけはわかる。最近はそれを見て毎日頑張っているよ。

も:生命力の強い人を見ると頑張ろうって思うよね。じゃあ、みんなも雑草を育てましょう。

リ:雑草を育ててください。

【参考】

・映画『すずめの戸締まり』(⁠https://suzume-tojimari-movie.jp/⁠

公開時も話題になったかなり強い語調の批判文=新海誠監督『すずめの戸締まり』レビュー:「平成流」を戯画化する、あるいは〈怪異〉と犠牲のナショナリズム(評:茂木謙之介)


【話者】
⁠もこみ⁠
⁠リサフランク⁠

【デザイン】
●アートワーク:⁠nao miura⁠
●OP・BGM・ED:⁠林舜悟⁠

【番組アカウント】

⁠Twitter(⁠@OKmiscommnctn⁠⁠)⁠

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連絡先:okmicommunication@gmail.com

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