見出し画像

講師への道 第3章 1対多数のファシリテーションスキル④議論の見える化、構造化

暴れ馬を飼い慣らす、動かない馬を歩かせる

研修やワークショップの運営において、受講者同士あるいは受講者と講師の対話から得られる気づきを重視するならば、討議の活性化は重要な要素です。ただし、悪気の有無にかかわらず、受講者が討議テーマを無視して好き勝手にしゃべり出すと、収拾がつかなくなります。
かと言って、お通夜のように誰も話さないようでは、討議は成立しません。いずれの場合も、学習ゴールは達成できないでしょう。

「屏風の虎」の、一休さんみたいだ!

討議を適切に活性化させるのは講師の役目であり、ファシリテーション力が試されます。その際、押さえるべき要素は以下7点です。

  1. 「心理的安全性」を確保する

  2. 参加者それぞれに役割を付与する(フリーライドを許さない)

  3. 討議テーマを再確認し、ゴールを明確にする

  4. ゴール達成に向けて論点を分解し、討議順序を決める=アジェンダを作る

  5. 各論点について「MECE:漏れなくダブりなく」に討議を進める

  6. 議論を見える化し、構造化する

  7. 時間内に結論に導く(タイムマネジメント)

第3章各項の中で既に詳述した項目もありますので、本稿では上記5と6の項目に着目して以下詳述します。

ベースとなるのは論理的思考

具体例でイメージしましょう。例えば、ある会社の営業部隊が受注できずに苦しんでいるとします。営業力の強化をテーマに会議が開かれます。アジェンダに並ぶ論点の一つに「顧客の潜在的な課題をヒアリングする能力の向上」があります。
さて、ファシリテーターはこの論点についてどのように深堀りし進行すれば、議論を見える化、構造化できるでしょうか?

結論を先取りすると、以下のような問いかけとその連鎖としての討議の流れをあらかじめシミュレーションしておく必要があります。

  1. 「潜在的な」課題を引き出すには、直接的な問いかけ「あなたが気づいていない課題を教えてください」はナンセンスですよね。だとすると、間接的な問いかけって、具体的には何でしょうか?

  2. 潜在的な課題に気づかせるためには、多面的に問いかける必要がありそうですね。多面的な問いかけのコツって何かあるものでしょうか?

  3. 多面的ってキリがないですよね。顧客商談も時間が限られているとすると、どれぐらい深掘りすればよいでしょうか?

  4. 対話のラリーが続くにつれ、顧客の回答が「脱線してきた」と感じる時ってありますよね。その場合、どう軌道修正すればよいでしょうか?

  5. 顧客との対話を通じて論点を網羅するために、どのようなスキルが有効でしょうか?

  6. 顧客から潜在的な課題を引き出すためには、スキルがあればできるものでしょうか?ナレッジやマインドは重要ではないでしょうか?

  7. これまでの議論を踏まえて「顧客の潜在的な課題をヒアリングする能力」を改めて整理すると、どのようになりますか?

問いへの答えをMECEに整理しながら、漏れを埋める問いを重ねる、重要な答えを深堀りする

上記の問いの連鎖は何を狙っているのでしょうか。討議の核となる本質的な問いを起点に、共感コメントを返しながらコメントすることへの心理的ハードルを下げつつ、次の問いにつながるキーワードを取り上げ、連鎖させつつ、全体として論点が横道に逸れないように、むしろ縦に深く掘り下げることを実践しています。

クイックに、ラフに、ロジックツリーを描いていく

とはいえ、対話は水物です。想定通りに議論が進むことは稀でしょう。受講者の討議をゴールに向かって発散、そして収束させるためには、どのようなガイドが有効でしょうか。

論理的思考ツールの一つである「ロジックツリー」を使って、議論を見える化、構造化しましょう。ただし、ロジックツリーをトップダウンで作ることはお勧めしません。討議のスタート時には必ずしも全体像も、議論の道筋も見えているわけではないので、第一階層のキーワードが浮かぶとは限らないからです。最終的にはロジックツリーらしいものが出来上がることを目指しますが、議論の取っ掛かりはどの階層のどの部分から始まるか、予測できないからです。
なので、具体化(枝を広げる)と抽象化(枝を束ねる)、対立概念化(他の幹を探す)の3つの問いかけを往復させながら、ツリーの全体像を徐々に広げながら描いていくことがコツです。イメージは以下の通りです。

  • 具体化:今おっしゃったことをさらに具体的に言うと?実際には何が?事例はありますか?他にはありますか?他にはありますか?他には…

  • 抽象化:AとBとCの3つのキーワードが出揃いましたが、これって結局、何ですかね?まとめると何が言えそう?俯瞰して言えることは何?

  • 対立概念化:今、「質」というキーワードが出ましたが、一方で「量」で言うと?これらは「ヒト」に関すること、一方こちらは「モノ」に関することですね。では、経営資源のフレームに照らして「カネ」に該当することは何?

ツリーに見えない図ですが、言いたいことは「クイックに、ラフに描く」ってことです。

注意点としてはくれぐれも「細部にこだわらない」ことです。細かなことにこだわると、沼にはまって思考が停止します。もちろん時間も掛かります。
研修やワークショップの場において、ファシリテーターたる講師の目的は「討議を適切に活性化させること」であって、「厳格にMECEに分けること」でも「同一階層の概念の粒度をそろえること」でも「ロジックツリーを美しく完成させること」でもありません。

ですから、多少、論理のほころびや矛盾があったとしても、討議が活性化すればいいのです。ゴールを見失ったり、目的と手段をはき違えたりしないように、ご注意ください。

いいなと思ったら応援しよう!