講師への道 第2章 1対1の対人コミュニケーションスキル③フィードバック
「気の利いたフィードバック」は、講師の力量の現れ
講師が、特定の受講者の気づきを増幅したり、その気づきをクラス全体に共有するという目的で、受講者のパフォーマンス(グループワークのアウトプットや、プレゼンテーション、ロールプレイ実演)に対してフィードバックする局面があります。
ここでいわゆる「気の利いたこと」が言えれば、上記目的通りまたはそれ以上の効果が得られます。反対に不発に終わると、あからさまにクラス全体の学習効果が下がるまでには至らないものの、微妙な失望感がざわざわと広がったり、目(耳?)の肥えた受講者や事務局から「大した講師ではないな」と、値踏みされたりします。
では、どうすれば「気の利いた」フィードバックができるようになるのでしょうか?順に解説していきます。
フィードバックで押さえるべき5項目
講師が受講者のアウトプットやパフォーマンスにフィードバックする際、押さえるべきは以下5項目です。
アウトプットやパフォーマンスの理想像、あるべき姿
観察された受講者の客観的言動、実際のアウトプット結果
上記1と2のGAP
GAPが生まれた要因(講師の仮説)
上記4を踏まえた具体的な改善アドバイス
論理的思考における問題解決プロセスに沿ったフィードバックですね。上記はあくまで基本形です。時と場合に応じていくつかの項目を端折ってもOKかと。受講者のアウトプットやパフォーマンスが良かった場合は上記3がなく、4では成功要因を述べ、5ではさらによくするための、あるいは再現性を高めるためのテクニックやコツをアドバイスするとよいでしょう。
時間が許せばコーチング・アプローチに則って進められるとより効果的です。ティーチングで進める場合はGAP分析の精度が低かったり、論理展開がグダグダだと受講者の間に「?」が広がりますのでご注意を。
いずれにしても、「そのワークやロールプレイセッションにおける理想やあるべき姿の具体像が頭に入っていないと、適切なフィードバックができない」ということは、強調しておきたいと思います。
良い点から伝えるか?改善点から伝えるべきか?
フィードバックの順番の話ですね。一般的には、良い点を伝えた後に、改善点を伝えるのがより良いと考えます。理由は、良い点を伝えて受講者の承認欲求を満たしておいた方が、その後に続く改善点の指摘を受け入れやすくなるからです。
ところが、良い点、改善点と伝えた後に、また良い点に戻ってフィードバックを終える講師が稀にいます。受講者同士のフィードバックとなると、その割合は格段に高まります。なぜでしょうか?
おそらく、耳の痛い話で終えるのは相手に対して気まずいので、「でもまあ、全体としてはまずまず良かったと思います」的な、ふわっとしたポジティブ感想を述べたくなるのでしょう。
しかしながら、これをやってしまうとフィードバックの効果は薄まります。「途中で厳しい指摘もあったけど、全体としては良かったんだよな」と、自身のパフォーマンスを正当化してしまいます。詳しくは以下書籍をご参照。
講師がやるべきことは、受講者に気づきや学びを与えて、さらなる成長に向けた行動変容を促すことです。傾聴と共感を通じて心理的安全性はあくまでも高く保ったまま、指摘すべきはズバリ指摘しましょう。事実に基づく客観的な指摘であれば、受講者は受け入れるはずです。
ちなみに、フィードバックが根性論や精神論などの主観に基づくものだと、「それってあなたの感想ですよね?」と論破されてしまいかねません。
さらに深いフィードバックをするために押さえるべき3要素
ところで人事評価におけるフィードバックでは、「SBI情報を押さえる」ことが大事だと言われます。SBI情報とはそれぞれ、Situation:状況、Behavior:行動、Impact:影響のことです。
このSBI情報は、研修の場における、講師によるフィードバックにも応用できる概念だと考えています。
Situation:状況を問う
同じ言動をとっても、状況次第で結果が良くなることも悪くなることもあります。つまり「どのような状況だったか」を確認することは、フィードバックするうえで重要です。
受講者に問いかけ、答えさせることで、「状況をどのように認識していたのか」という、状況認識能力を測ることもできます。
Behavior:行動を問う
状況を把握したうえで、「具体的にどのような行動をとったのか」を確認します。具体的に問うことで内省を促すことができますし、言語化させることで自身の行動を客観視させる効果もねらえます。
さらに、「その行動のねらいや意図」も併せて確認することをおすすめします。「なぜ、そのような行動をとったのか?」ということですね。ねらいや意図がなかったり、見当違いであればアドバイスします。
Impact:影響を問う
とった行動が、「最終的にどのような結果をもたらしたのか」を確認します。結果を「良しと捉えているのか、悪しと捉えているのか」という、受講者本人の自己認識も併せて確認しましょう。
ところで、受講者へのフィードバックにあたって、まず本人の認識を問うことは、フィードバックの効率と効果を高めるうえで非常に有効です。どこまで自覚しているのか(場合によっては誤認しているのか)がわかれば、本人の認識が及んでいない範囲に限定してフィードバックできるからです。