おっちょこな君へ (南と小町の物語)その5高校時代編
初めて小説(空想エッセイ)書きました。
1959年生まれの私❗️
懐かしさをお楽しみ頂けたら嬉しいです^ ^
どうぞ読んで下さい。
【高校時代】
年が明け、私たちは共に地元の県立高校へと進学した。
クラスは10クラスあり、ここで私たちは初めて別々のクラスになった。
南は理系のクラスに、そして私は文系のクラスを希望したからだ。
そして南は中学校の時と同じようにサッカー部に入部した。N高のサッカー部は全国大会にも出場するほどの強豪校としてその名を馳せていた。南も日々練習に明け暮れていた。
中学校の時から他の学校へサッカーの練習試合などに行っていた南は、他の中学校から進学してきた生徒の中でもその存在を知られていたようだ。
現に私と同じクラスになった女子の中でも、「南西中の南君」は知られていた。私は(南って意外に有名なんだぁ)と、ちょっと驚く。
しかし、学校で顔を合わせることはほとんど無く、移動教室の時にその姿をチラッと見る程度であった。
高校で私は「文芸部」に入部した。「文芸部」は詩・小説、随筆、論評などの執筆を主な活動とする文化部である。
中学校で部活を経験していない私に、「文芸部」の存在はとても魅力的だった。先輩たちの作品を読ませてもらったり、自分の作品の講評をもらうことは、新鮮で自分の世界が広がることが嬉しかった。
さて、その年の全国高校総体のサッカー競技は、地元で行われた。
南は1年生ながら、レギュラー入りしていた。ここでレギュラーを獲るということがどれほどのことなのか、誰もが知るところであった。
南は「文武両道」そして校訓である「百折不撓」を実践躬行していた。
我が母校は実力を発揮し勝ち進んでいった。
「絶対に優勝できる!」誰もがそんな期待に胸を膨らませていた。
ただ私には1つだけ心配なことがあった。それは、おっちょこな南がここまで来て怪我とか病気とかアクシデントに見舞われないかということだった。
私は嫌な予感が当たりませんように…と毎日近くの神社にお詣りをするようになっていた。「どうか南が怪我などしませんように…」と。
その日もお詣りを終えて境内を出ようとした時、バッタリ南と出会った。
「よう、小町~」南は悔しいほど爽やかに白い歯を見せた。
「お前、何かお願い事か?」と不思議そうに聞く。
(何言ってんのよ!あんたの為じゃん!!)と言いたいところをグッと抑えて「まあね」とだけ言った。
「南は何のお願い?」当たり前のことを聞く。
「もちろん、総体優勝さ!小町も応援してくれよ」南は山門で、いきなりその場で1礼し柏手を打った。
「あのね、南!私は南が心配だから、こうしてお詣りしてるんだよ!だって南は昔からおっちょこじゃん。だから、土壇場で怪我なんかしないかって、私マジで心配してるんだよ」ポロっと本音がもれてしまった。
すると南は「大丈夫だよ!」と笑い、ポケットからキーホルダーを取り出し、私にみせた。
「俺にはこれがあるから!小町が修学旅行の時、買ってくれたやつだよ。」
そこにはちょっと汚れたお守りがついていた。
「やだっ!!もうボロボロじゃん!新しいお守り要る?」と聞く私に「いや、これがいいんだよ」と言いカギを無造作にポケットへ突っ込んだ。
地元開催の総体で我が母校は、決勝戦を迎えた。
南は10分ほど試合たらしい。「らしい」というのは、私も会場にはいたが人混み過ぎて南の雄姿がわからなかったからだ。
ただ波のように押し寄せる歓声とどよめきの中に身を置けたことと、母校の優勝は誇らしい出来事となった。翌日の新聞では大きく取り上げられていた。
その後、南たちサッカー部員の人気は爆発的なものになった。
これで南は少し遠い存在になってしまうのだろうな…と私は思った。
しかしそれは、嬉しい誤算だった。
何故なら私は、南と幼馴染で家が近所という理由だけで、南へのファンレターを渡してほしいと頼まれることがやたらと増えたからだ。
そして預かった封筒を仕方なく南の家に届けることになる。
まだ、宅配便などない時代のことであった。
南のお母さんは「小町ちゃん悪いわね。嫌なら断ってくれてもいいのよ」と言ってくれたがそれはそれで楽しかった。南の家に行く大義名分が立ったからだ。
バレンタインのチョコも袋いっぱい届けた。私はそのずっしりと思い紙袋を持ちながら(こんなに食べたら絶対に太るじゃん)とそちらを心配した。
南はありがとうと言って受け取った。
そして「あれ!小町からのは?」と掌を出した。
「残念ながら、私からのなんてありませーん」私は笑って言う。
「ってかさぁ、みんな私のこと郵便配達員と勘違いしてるんじゃないの?
ねえ南、みんなに代わって私に配達料払いなさいよ」と南の掌をピシャリと叩いた。
「痛てぇ~」南はおどけて言う。
「ねえ南」私は南に忠告した。
「チョコくれた女子たちにちゃんとお礼言いなさいよ!みんな南のために、南にあげたくて一生懸命に準備したんだと思うよ。」
「だよなぁ」南は素直に言った。そして「小町以外は」と付け加えて笑った。
それから一週間後、わたしはまた南の家を訪ねた。
「南、遅くなったけど私からのバレンタインのプレゼント」私は小さな包みを渡す。
「えっ!」南は驚いていった。
「開けてみて」という私に「ここで?」と訊ねる。私は大きく首を縦に振る。
南はそのプレゼントに驚いていた。
「ねえ南、あんなにチョコ貰ったら虫歯になるじゃん。だから私からは歯磨きセット!しっかり歯磨きしなさいよっ!!」そう言って私は玄関を出た。
そんな私たちのやり取りを見ていた南のお母さんは笑いながら言った。
「良かった!小町ちゃんみたいにしっかりした女の子が陽太のそばにいてくれて…。小町ちゃん、この子はどこか抜けてるから頼むわね」
「余計な事言うなよ」と怒る南を無視し私は「おばちゃん、任せて!南のこといつでも見張ってるから」とおどけて言った。
そうだ、私はどこか南の保護者のような立ち位置にいる自分に、気づいていた。
クラスメートがバレンタインのチョコを平気で私に託すのも、私を恋のライバルとしては見ていないからなのだ。あれだけモテる南と話をしていても誰もやきもちひとつ焼かない。
だって友人たちから見れば、私は南の保護者的な存在なのだから…
いつか私は努めてそんな風に振る舞うようになっていた。
それを私は決してイヤではなかったが、少しだけ複雑な感情があったのも嘘ではない。決して恋などと言うものではなかったが…
南自身はそんな私をどう思っていたのだろう?
続く