おっちょこな君へ (南と小町の物語)その9【クラス会】編
初めて小説(空想エッセイ)書きました。
1959年生まれの私❗️
懐かしさをお楽しみ頂けたら嬉しいです^ ^
どうぞ読んで下さい。
【クラス会】
南の受賞から4年が経った2019年、私たちの学年は還暦を迎えた。
それを記念して、中学時代のクラス会を開こうという話が持ち上がった。
中学卒業からすでに45年の歳月が流れていた。
南は今でも、東京とカナダを行き来する多忙な日々を過ごしている。講演や執筆活動、雑誌のインタビューなどが相次ぎ、研究に費やす時間が減ってしまったことを悩んでいるそうだ。
執筆といえば、私も細々とエッセイを書き続けている。おかげで昨年5冊目のエッセイ本を上梓することが出来た。有難いことだ。
私のエッセイをとても気に入ってくれていたサラが、突然「翻訳してみたい」と申し出てくれた。その提案に驚きながらも、私は喜びと戸惑いが入り交じった複雑な感情を抱いた。だが、彼女の情熱に押されるように、素直に感謝の気持ちでその申し出を受け入れることにした。
9月の下旬の日曜日、中学校時代のクラス会が地元の料亭で行われた。
ここは、クラスメートが営む地元でも評判のお店だ。
当時の担任だった沢村先生も出席して下さった。
乾杯の後、沢村先生の傘寿のお祝いと南の受賞祝いがサプライズで行われた。
「長生きすると、こんな幸せな日も来るものね」と言う先生の頬をいく筋もの涙が流れ落ちていく。そして先生は、今まで南が海外から送ってくれたという絵葉書を持参し皆に披露した。
「先生、それ秘密だよーー」と言いながら照れて笑う南だった。そして
「今から俺たちは、中学生時代にタイムスリップしまーーす」と勢いよく言った。
その言葉に皆が「おおう」と反応し、心はピュアな15歳にワープした。
南は努めて皆と語り、このひと時を楽しんでいるようだった。
時々、おっちょこな中学時代をからかわれていたが、それが本当に嬉しそうだった。
皆が、思い思いに懐かしい話に花を咲かせていた。
お酒の勢いもあってか、「ホントはオレ、〇〇ちゃんが好きだったんだ」なんて謎の告白タイムがあちこちで始まっていた。同級会あるあるである。
「あーあ私、室井君と結婚すれば良かった~」
突然、クラスでいちばん大人しかった多紀ちゃんが45年越しの思いのたけを片思いしていた室井君にぶつけた。
(多紀ちゃん、やっと言えたね!良かったね!)
私は、あの頃の引っ込み思案だった多紀ちゃんの切ない想いを知っているだけに胸がジンとした。
もちろん多紀ちゃんにも室井君にも、今は幸せな家庭がある。
ワインではないが、それぞれが熟成を重ね渋みも酸味も程よく溶け込み奥深い味わいを醸し出している。
そんな幸せな今があるからこそ、時を経て言えた言葉なのだろう。
今日のこの時を、私はいつかエッセイに書きたいな…と思っていた。
「よう、小町~! 飲んでるか~」
空のお猪口を持って、南が私の隣に座った。
「南、飲み過ぎなんじゃない?」
そう言いながら、私は南のお猪口に日本酒を注ぐ。
「う~ん」南は虚ろな目をしている。
私は多紀ちゃんに便乗するように
「あーあ、私も南と結婚すれば良かったかな(笑)」とおどけて言った。
その時、お猪口を口元へ持っていこうとしていた南の手が止まった。
南は盃をテーブルに激しく置いた。その勢いでお酒がちょっとこぼれた。
もしかして、マズイことを言ってしまったのかな?と、ちょっと焦る。
でも、こんな冗談が南に通じないわけないのに…
「小町、話しておきたいことがある。いいかな?」
南の真剣な声に、私は思わず息を呑んだ。
南の次の言葉が全く予想できない。
「私…、南とはこれからも今まで通りの距離感でいたい。だから、もし、それが崩れるようなことなら言わないでほしい…」
勇気を振り絞ってそう告げた。
南は少し間を置いて静かに言った。
「それは、小町次第だと思う。」
一瞬、炭酸のシュワシュワという音がやけに大きく聞こえた気がした。
私は南の言葉を待つしかなかった。
「小町…、俺が盲腸で入院していた時のこと覚えてるよね?」
わたしは小さく頷く。
「俺、あの時言えなかったんだけどさ…」
南は大きく息を吸った。
そして吐息の勢いに任せて早口で言った。
「あのさ…実はさ、俺の『おなら』ってすっげぇ臭えんだぁ!」
「…はぁ…?」私は開いた口が塞がらなかった。
なんじゃい、それ!?
ちょいと南よ!想定外が過ぎるじゃないか!
私は言葉を失う。
南が大きな声で笑い、両手を上げて「やっと言えた!」と安堵する姿に、私は呆然としてしまった。
「全然、良くないんですけど…もう!」
腹立たしさとおかしさが入り混じる中、私は南のお猪口を掴み、「次は注ぐ番ね」と命じた。
「あれっ、お前、酒飲めたっけ?」と言う南に「四の五の言わんでさっさと注がんか~い」と私は酔ったふりをする。
小さなお猪口に静かに注がれる日本酒は、まるで私の感情を写し取るかのようだった。
私はそれに、そっと口づける。
続く