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「この世の春」を読んで
「ごめんくださいまし」
元作事片組頭の各務数右衛門の隠居所に現れたのは幼子を抱いた女だった。
その幼子は藩主の・北見若狭守重興の御用人頭、伊藤成孝の嫡男で女は乳母だという。
不穏な空気を纏う北見藩家中の政争から数右衛門ほど遠いところにいる者もいない。
なぜ、父が頼られたのかしら。
娘の多紀は突然の不可解な訪問に疑念を抱いた。
主君押込。病気という名目で強制隠居させられた青年藩主の重興。
一 この世のものとは思われぬほど美しいお姿であった 一
一 美しい線を描く眉と、すっきりと通った鼻筋。その目の涼やかなことよ。切れ長な目は笹の若葉のようだ 一
いったい、どれだけ整った美しい容貌を想像したら良いのだろう。
もしや私の知らない間に、この本が映画化、ドラマ化されてはいないかとスマホで調べてしまった。
どれだけ顔の整ったイケメン俳優が重興の配役を承ろうとも文句しか出てこないと思ったからだ。しかも、容姿だけの問題ではなく、この役所は難し過ぎるのでは。
重興の中には、「琴音」という男の子と、「桐葉」という狭間の女、強い怒りを感じた時に出てくる「ラセツ」という粗暴な男がいるのだから。
重興は多重人格者なのである。
幼い頃に受けた忌々しい、重興が「恥」とする出来事から、自分を守るために生まれた3人の正体とは?
重興を始め、この本に登場する人物たちは美しいキャラが多過ぎる。容姿だけでなく心が綺麗だ。人はやっぱり美しさや優しさに惹かれてしまう。
多紀の凛とした美しさ。
重興の隠居所「五香苑」の舘守、元江戸家老の石野織部の深い忠誠心。琴音に「爺」と呼ばれ重興を慈しむ石野との、やりとりは微笑ましい。
琴音。清らかで聡明な本来の、重興の幼少であったに違いない愛くるしい男の子。
由衣。重興曰く、『春風のような女人であったろう』 多紀曰く、『美しいだけではない。聡明なだけでもない。豊かで優しく温かく愛らしい。』
多重人格の重興を直に受け入れた重興の正室。
女中の「しげ」も、火事で大火傷を負った「お鈴」も美しい。気配り良い働き者だ。
貧しい村で育ちいつも泥まみれのような金一すら、美しい。なにしろ、お鈴に一目惚れしてしまうのだから。
「ああ、お鈴の顔の痣かぁ。ありゃ火傷かい?そんなんしょうがねえ。誰もしたくって怪我するわけじゃねぇ。」と、お鈴を天女みたいだと言う。
からかわれたり哀れまれたりするより先に、まっしぐらに好かれた、お鈴と金一の、恋物語も番外編として宮部みゆき先生に書いて欲しいくらいだ。
せめて、根っからの悪人ではないが、毒のある成孝が再び現れて、大暴れしてくれたら良かったのに。あっけなく蓄電(実は…?)してしまうのは残念だった。
主治医の白田先生も、実は腹黒い人物なのではなかろうか?最後に裏切るのではないだろうか?と期待してみたが、どこまでも仕事に忠実な淡々とした医者だった。
他にもいい人達がいっぱい出てきて(登場人物が多くて混乱する) 結局、悪者はふたりだけ?だろうか。
真の黒幕の正体がうやむやで、まあ権力のあるお大尽様なのだろうが、爺、いや織部は、
「・・内訌が露わになれば、北見藩の存亡にも関わりかねぬ」と。「今の北見藩の政に携わる人々に過去のこの闇を知られてはならぬ」と、葬るのであった。
うーん、もやっとします。もしかして、続編が出来るのか?と、期待したりして。
重興が由衣と復縁するのか、多紀と結ばれるのか? どちらのハッピーエンドに転がっても納得する。時代的に正室と側室でいいじゃないかとも思うのだが、重興がそんな事をするはずがない。
それは読んでのお楽しみという事で。