透明な螺旋
「ガリレオシリーズの主人公て誰なのだろう?」と、考えてしまったのは『湯川学』の名がやっと79ページに出てきたからだ。
遅すぎやしないか?
でも、
プロローグから引き込まれてしまって28ページ目に草薙刑事と内海薫が登場するまで、ガリレオシリーズだという事をすっかり忘れてしまっていたくらい、湯川学がなかなか登場しなくても気にならないくらい、いつものように最初から面白かったのだ。
しかも、やっと登場したかと思えば湯川先生は両親の住むマンションに滞在しているという。湯川先生の背景はいつも研究室なので突然の家族の登場にピンとこない。
一人っ子、、うんうん、そんな感じ。
父親は元医者、、、うんうん、でしょうね。
母親が、、認知症だと!?
両親が余生を海が見える横須賀のマンションで、という所までは良かったが、足の骨折で認知症が悪化した母親の介護に手が余った父親の応援に出向いたと淡々と説明する湯川先生…。
「この偏屈な物理学者が母親のオムツを交換している ー まるで想像がつかず当惑した ー」という草薙刑事の心境は、読者も一致するものである。
どうも、アメリカから帰って来てから湯川先生は人情味溢れて戸惑う。
年齢を重ねて人間がまあるくなったのかな、普通に。
海で発見された男性の遺体。
その男性の行方不明届を出していた同居人の女性は謎の老婦人と一緒に失踪したらしい。
2人の関係は?
捜索すると老婦人は絵本作家だった。彼女が手掛けた絵本の最終ページを開いてぎょっとしたように目を見開いた草薙を見て、薫はその手元を見た。参考文献の欄に記されていたのは。
『もしもモノポールと出会えたなら』 湯川学(帝都大学)
やっと現れた湯川先生の名にワクワク感が一気に高まります。
しかも、童話のようなタイトルが気になる。
『モノポール』て、なに?
東野圭吾は、この『モノポール』という単語を使いたくてこの小説を書いたのでないだろうか?と、ちらっと思ってしまった。
湯川先生と絵本作家の老婦人にどんな繋がりがあるのか。
そして草薙にも。
海で発見された遺体の男性の発信履歴の中に、草薙の馴染みのクラブのママの名前があったのである。
そのママと、遺体の男性、そして同居人の女性の関係性とは?
登場人物達がどんな風に関わっているのか想像していくクライマックスで、湯川先生の突然のカミングアウトに度肝抜かれます。
もう、事件の方のどんでん返しが掠れてしまうくらい。
ガリレオシリーズは、このところ、真実は必ずしも正解ではなくて、明るみにしない事で誰かが救われるならそれでいいという、結末が続いているような気がする。
『容疑者Xの献身』で、学生時代の友人の想いを汲み取れず結果的に陥れてしまった事を湯川先生は悔いているような?
クールな言動と裏腹にあれから、一層、人に対しての情が深くなったように思う。
読み終えると、親と子の家族愛に感動して何だかいつもと違ったガリレオだった。
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