椎名林檎と”あたし”たち
「現代のシド・ヴィシャスに手錠かけられるのは只あたしだけ」
14歳のとき、この歌に出会った衝撃を未だに忘れることはできない。
シンガーソングライターとしての才能はもちろん独特な考え方やファッションなど、椎名林檎の魅力は絶えない。
10代の頃から40代の今に至るまで素晴らしい作品を作り続けている、そんな彼女の魅力を語りたい。
椎名林檎にハマったわけ
始まりはカラオケで聴いた「ここでキスして。」
私が初めて椎名林檎の曲を聞いたのは中学生のときだった。カラオケで友達が歌う「ここでキスして。」を聴いた時の衝撃を今でも鮮明に覚えている。
家で早くホンモノが聴きたくて、全速力でサビだらけの自転車を漕いで帰った。
「ラブソングなのに、可愛くない」というのが最初の印象だった。
しかしアンニュイな表情や等身大の歌詞、何とも言えない金切り声混じりの歌に一瞬で引き込まれてしまったのだ。
過激なジャケ写
彼女のCDジャケットやPVの衣装は、かなりハードなイメージだ。
「本能」ではナース服を着て、メリケンサックでガラスを叩き割っているし、「罪と罰」では赤のパンツスーツに日本刀を持って、真っ二つのベンツの前に立っている。
今までこんなPVは見たことがなかったので、一気に引き込まれた。
後々歌番組でみたのだが、「ゴーストライターいるんでしょとか、面と向かって言ってくる人もいた。自分の本職の仕事自体を疑われるのはごめんだ!と思ってアー写とかジャケ写がだんだんエスカレートしていった。
もうとにかく強く、それで馬鹿にされない。『馬鹿にすんなよ!』って気持ちがあった。」と言っていた。
他の人がやっていないようことをやるのはカッコいい!というのもあったが、そういう怒りや悔しさも彼女の世界観を構成するエレメントになっていることも、思春期の私にとってはたまらなかった。
固有名詞が作り出す唯一無二の世界観
椎名林檎といえば、歌詞に固有名詞が出てくることで独特の世界観を作り出していることが魅力だ。
「頬を刺す朝の山手通り 煙草の空き箱を捨てる」
「セヴンスターの香り 味わう如く 季節を呼び起こす」
多くは"あたし"が想う”あなた”への気持ちなのだが、これらの固有名詞があることで歌詞の意味に重みが出たり、その情景や空気感が伝わってくる。
決して彼女の歌う歌詞の意味そのものが理解できたわけではないけれど、リアルさがある歌詞を聴いてこんなふうになりたい!と思ったのは私だけではないだろう。
今を歌う椎名林檎
大人になっても少女のように軽やかに生きる
若い時の尖り方から一転し、年齢を重ねるにつれて今の彼女にしかできない柔らかい表現をするようになっていく。
しかし、その中に少女だったときと変わらない面影を感じることができる。
「大人になってまで胸を焦がして ときめいたり傷ついたり 慌ててばっかり」
彼女のように才能があって輝いている大人の女性でも同じように悩んだり、さまざまな感情に左右されながら生きているんだなと感じさせられる歌詞だ。
それでいて「誰のものでもない私の人生、私は自由」と言い切ってくれる。
独特の世界観を提示しながら共感を呼ぶこと、それが彼女の最大の武器だと言いたい。
東京事変としての椎名林檎
復活した東京事変
東京事変とは、椎名林檎を中心に2003年に結成された5人組のロックバンドで、2012年に日本武道館公演をもって活動を終了した。
その後2020年に、「再生」と称して解散時のメンバーで再始動することが発表された。
東京事変のメンバーはソロや他グループで活躍しているメンバーばかりで、それぞれの分野でのいわゆるスペシャリストだ。
そんな彼らが集まっているのだから超人集団と言えるし、それぞれのファンが集まっているのだから、ライブの倍率がとんでもないことになるのも頷ける。
生きる希望を与えてくれる事変
昨年は再結成の年にも関わらず、全国ツアーが中止されてしまった。参加する予定だったファンはみんなやりきないと思ったはずだ。
しかし、そんな中彼らは諦めることなく無観客ライブを開催し、ファンに「再生」を示してくれた。
暗いニュースが多く気持ちが重くなってしまう今、私だけでなく多くのファンに希望を与えてくれたことはいうまでもない。
東京事変としてのこれからも、見守り続けていきたい。
"あたし"と人生と椎名林檎
私自身、14歳のときから27歳の今に至るまで彼女の曲を聴き続けて、一緒に成長してきたという気持ちになっている。
椎名林檎は40歳になった時、「どなたも生意気とは言ってくださらない。早く自分を試したくてカウントダウンしてました。」と言った。
待望の40代だ、とも。
年齢を重ねるにつれて同じ曲でも捉え方が変わったり、これから先も新たな発見があるかもと思うと、歳を重ねるのも悪くないなと思う。
多くの"あたし"たちに共感をもたらしてくれた椎名林檎のこれからを楽しみにしつつ、今日も彼女の曲を聴きながら眠りにつきたい。
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