ニュースアプリ『ハッカドール』が終了した2つの理由。代わりになるアプリもご紹介
みなさんこんにちは、漫画やアニメの情報をIPに紐付けたサブカルデータベース、okiniを運営している、なやせです。
2019年8月15日、DeNAが運営するサブカルニュースキュレーションアプリの『ハッカドール』がサービス終了し、2014年8月15日から続いた5年間の歴史に幕を下ろしました。
一時期はハッカドールをよく利用しており、周囲でもしばしばハッカドールの”マスターさん”を見かけていたので、サービスの運営は順調なのだと思っていました。
ファン層が厚いことを物語るように、ハッカドール内のアプリナビゲーターたちが登場する漫画やアニメへのメディアミックスも果たしていました。
漫画やアニメなどのサブカルチャーは着実に市民権を得てきており、ハッカドールの潜在的なユーザー層は急激に拡大しているようにも思います。
そんな流行に乗っかる、つまりトレンドフォローな環境にもかかわらず、なぜサービス終了に至ったのか、理由を考察していきたいと思います。
「ハッカドール、名前はよく知っているんだけど、どんなアプリだっけ??」
という方もたくさんいると思うので、『ハッカドール』を知らない人のために簡単に紹介します。
「君にシンクロするニュースアプリ」
これがサービスの副題になっています。
サブカルチャーを扱うまとめサイトやブログ、出版社等の公式プレスリリースを収集・整理、つまりキュレーションしたものが、ユーザー登録時の診断に基づいて配信されます。
配信された記事に対して、似たような記事が「ホシイ / イラナイ」かを選択することで、自動配信記事の選別が最適化されていくのが特徴的です。
漫画やアニメに登場するハッカドール1号、2号、3号は、それぞれ”マスターさん”が欲しいと思っている記事を集めてくる役割を持ったキャラクターとして、サービスの看板を担っています。
似たような記事が「ホシイ」と言えば、ハッカドールたちがやる気を出したり、「イラナイ」と言えばちょっとしょんぼりしたりするような感じです。
ちなみに、『ハッカドール』は、「コンテンツ消費が”はかどる”」から文字った文字って名付けられたとのこと。
さて、前置きを終えたところで、ここからは考察に入っていきたいと思います。
目次
1.ビジネスとしての可能性
ー1-1 サブカルチャーメディア媒体を取り巻く市場
ー1-2競合・類似事業
ー1-3DeNAのコミット量
ー1-4なぜアニメ化以降、勢いが続かなかったのか
2.「ハッカドール」のサービスとしての価値(執筆者の視点からの考察)
ー2-1マネタイズの難しさ
ー2−2サービスはユーザーのニーズを満たしていたのか、広告効果のある媒体だったのか
3.ぼくが かんがえた さいきょうの サブカルメディア
ー問題の解決方法として何があるのか
1.ビジネスとしての可能性
そもそも、ビジネスとして、『ハッカドール』のようなサブカルチャー情報の提供サービスが成り立つのか、検証していきたいと思います。
1-1 サブカルチャーメディア媒体を取り巻く市場
一口にサブカルチャーと言っても、定義がいろいろあると思います。
「ハッカドール」での配信ニュースのジャンル区分は”マンガ・ラノベ”、”アニメ”、”ゲーム”、”声優”、”キャラクターグッズ”、”コスプレ”、”VOCALOID”、”特撮”、”BL”の9ジャンルで構成されていました。
サブカルチャーの明確な定義は難しいですが、ここでは、ハッカドールの各ジャンル区分が概ね含まれるような、作品の商品化市場まで含まれた、広義のアニメ産業市場を念頭に考えたいと思います。
日本動画協会が発行しているアニメ産業レポートによると、2017年のアニメ産業市場は2兆1,527億円でした。
「ハッカドール」のような、情報を提供するメディア事業の収益の柱は、アフィリエイトや宣伝記事の掲載等、何かしらの創作物の広告宣伝費が基になっていると考えられます。
アニメや漫画などを取り扱う上場会社としてすぐに思い浮かぶ企業の売上高に占める広告宣伝費を確認してみました。
(「これが入ってない!」という会社もありますが、イメージしているサブカル以外の分野でも大きく売上を上げているような会社は意図的に除いていたりしますので、、やめて石投げないで><)
スマホゲーム等でテレビCMをたくさん出しているところでは10%近く、それ以外での中央値では大体3.5%くらいでした。
先程の広義のアニメ産業市場と各社広宣費割合の中央値をかけ合わせた、753億円がサブカルチャーメディア媒体を取り巻く市場規模と考えることができるでしょう。
ちなみに、2013年から2017年のアニメ産業市場の年平均成長率は10%と高い成長率を示しています。
アニメ産業市場がこの成長率がそのまま続くと仮定すれば、2025年には4兆6,108億円、2030年には7兆4,222億円となり、サブカルチャーメディア媒体を取り巻く市場規模も、2025年には1,613億円、2030年には2,597億円と成長して行くことが想定されます。
ビジネス機会を検討するには十分な市場規模であることがうかがえるでしょう。
1-2競合・類似事業
実際にサブカルチャーメディア媒体として事業が成り立っている例は世の中に散見されます。
例えばゲーム情報メディアを運営するGamewith
2013年6月に創業し、自社のウェブサイト「Gamewith」上でゲーム攻略やゲーム紹介を手掛けることによって、広告主となるゲーム会社から売上を上げ、わずか4年後の2017年6月に東証マザーズに上場、2019年8月には東証一部に市場変更と急成長してきました。
株式会社Gamewith 2019年5月期通期決算説明資料より抜粋
若干サブカルよりも範囲が広くなりますが、インターネットカルチャー情報を扱う、ねとらぼも好業績を上げています。
「ねとらぼ」はソフトバンクグループ傘下の東証一部上場企業、アイティメディアが運営しています。
2019年3月期のメディア広告セグメントの売上高は約27億円となっており、ねとらぼは、同社運営メディアの8割以上のPV数を稼ぎだしていることから、20億円程度の収益力を持っていることが想像されます。
アイティメディア株式会社 2019年3月期決算説明資料より抜粋
非上場であったり、大企業の一事業であったりして細かな事業の状況までは分かりませんが、この他にも多くのサブカルメディア媒体が存在しているかと思います。
大企業の一事業という位置づけであれば、本業のプロモーションを目的としている場合は必ずしも大きな収益力があるとは限りませんが、少なくともサブカルメディア事業だけで東証一部上場企業になれるだけの事業収益性はあると考えることができると思います。
1-3DeNAのコミット量
サービス開始から4か月後の2014年12月の開発インタビュー記事によれば、2014年1月からDeNAの新規事業として検討が開始され、同年4月頃から4か月の開発期間をかけて8月にサービスをローンチしています。
サービスの運営だけでなく、ハッカドールのキャラクターを使ったメディアミックス展開も行っており、2015年3月からは漫画、2015年10月からはテレビアニメの放送を開始しました。
2015年3月にはアプリの累計ダウンロード数が60万ダウンロード、2017年5月には200万ダウンロードを達成していたとのこと。
1-4なぜアニメ化以降、勢いが続かなかったのか
DeNAは、ハッカドールのサービス提供の前後から、インテリア関連情報の「iemo」や女性向けファッション情報の「MERY」を買収し、キューレーションプラットフォーム事業に参入していました。
2015年10月にヘルスケア情報キュレーションサイト「WELQ」を開設。
同サービスに対しては、医療に関わる記事であるにも拘わらず、キュレーション記事の内容の信憑性や正確性を確認する体制がなく、キュレーション記事として内容に責任を負わないと免責を謳いながらクラウドソーシングによる安価な記事制作、内容に問題があるにも拘わらずGoogle検索などの検索エンジンで上位表示されるSEOの強さから批判が集まります。
2016年11月から12月にかけて行政も動き始めて世間の関心も高まり、記事の公開停止、問題調査のため社外の第三者委員会設置、2017年3月にはキュレーションサイト事業を統括していた方が辞任するに至りました。
『ハッカドール』では、純粋に他サイトの情報をキュレーションするに止まり、他のキュレーションサイトで問題となったような論点を抱えていなかったことから、特に当時批判を浴びるようなことも一切なかったと記憶しています。
しかしながら、当時はキュレーションサイトそのものへの風当たりが強く、特に当事者となってしまったDeNAでは、より保守的な対応を取らざるを得なかったことが想像されます。
改めて時系列を確認すると、2015年から2016年前半にかけてはメディアミックスもあり、相当コミットされていたことがうかがえます。
実際、Google検索ボリュームを見ていると、アニメ化前後での盛り上がりがうかがえます。
推測の域を出ませんが、その後のWELQ問題の余波を少なからず受け、2016年後半以降では大きな施策を打つことが叶わない中での運営となっていたのではないでしょうか。
2.「ハッカドール」のサービスとしての価値(執筆者の視点からの考察)
WELQ問題の影響が大きいことも想像されますが、200万ダウンロードまで達成していたことを考えれば、2016年頃までに”マスターさん”となったユーザーの継続利用が続いていれば、サービス終了の憂き目に遭うこともなかったように思われます。
ここでは、サービスの価値がどこにあり、どこが不足していたのか考えることで、「ハッカドール」が盛り上がり、そしてサービスが終了することになった原因を考えていきたいと思います。
2-1マネタイズの難しさ
サービス終了後、CNET Japanの5年間を振り返るインタビュー記事では、「ハッカドール」の起案者でありプロデューサーである岩朝氏が以下のようにコメントしています。
岩朝氏 :ただ、今になって思えばですけど、あとから広告施策や有料会員なども行いましたが、最初からきちんとマネタイズを考えて設計してリリースしていれば、ここで終わってなかったのかなと考えるところもあります。
1-2でも言及したように、もともとDeNAの主力サービスであるMobageへの送客を念頭においていたことで、最終的にはハッカドール単体でのマネタイズは十分な成果をあげることができなかったということでしょうか。
サービスが拡大し始めた2015年4月頃には、ハッカドールのマネタイズ展望について、岩朝氏は以下のようにコメントしていました。
マネタイズは「ハッカドールでユーザーが新しいコンテンツを知る、ユーザーはメーカーにお金を払う、我々はメーカーからお金をいただく」という仕組みにしたいです。
あとは、我々も「コンテンツを応援したい」という気持ちが強いので、面白いコンテンツが育っていく「発射台」のような役割が担えれば嬉しい。
(中略)
やっぱり数字ありきでロジカルにつくる作品が多くて、「尖った作品」が生まれにくいのは、それはそれでつまらないかなとは思います。
ということもあり、ハッカドールで「尖ったコンテンツ」「売れるかわからないけど、どこかにファンがいるコンテンツ」がユーザーに届く仕組みをつくりたいんですよね。
そういう意味でも「市場を傷つけず、適切な対価がもらえるビジネスモデル」を、育てていけたらと考えています。
面白いコンテンツが育つような環境を作りたいという想い、一人のオタクとして非常に共感できるところであります。。。
マネタイズについてはやはりメーカーからの広告料を想定していることが伺えます。
アニメ化後の2016年3月のインタビューで、広告出稿の問い合わせが継続的に来ているとコメントしていますので、実際にハッカドールへの広告出稿の引き合いはある程度見込まれていたのでしょう。
嶋田氏によると、ハッカドールのサービス開始当初から広告出稿の問い合わせが継続的にあり「むしろお待ち下さいと、お願いする状況だった」という。
過去のインタビューを見る限り、収益性にも問題無さそうに思えましたが、サービス終了後のコメントから最終的にマネタイズで苦労していたことが伺えます。
広告主側は、その広告によってどれだけ売上に貢献があったのか、必ず効果測定を行います。
問い合わせ後にトライアルで広告出稿をしてみたものの、広告主側で広告料に見合った売上の貢献が確認できなかったため、その後の継続的な広告出稿の受注や広告単価の引き上げによるハッカドールの収益拡大につなげることが難しかったものと推測されます。
広告を募集するハッカドール側としても、2016年後半以降の露出の少なさを鑑みると、アニメ化前後の頃のようなユーザー数の増加は見られず、メディア媒体の価値を売り出していくことが困難だったのではないでしょうか。
広告以外にも、2017年8月頃からアプリの有料課金サービスを開始しています。
月額500円で、ニュース配信時のNGワード設定や広告を非表示にできる便利な機能が用意されました。
しかし、アプリのレビューコメントでは「500円は高い」と評するコメントが散見され、やはり収益性を大きく改善できるだけの課金ユーザーは確保できなかったのではないかと想像されます。
2−2サービスはユーザーのニーズを満たしていたのか、広告効果のある媒体だったのか
ユーザーレビューを確認すると、絶賛する内容のレビューがたくさん見られ、サービスが本当に愛されていたことが伺えます。
(特に類似サービスのレビューを見ると、ハッカドールと比較されてけちょんけちょんに言われてしまっているのも見かけます)
しかし、レビューをよくよく見ると「サービス終了を知って久しぶりにアプリを立ち上げた」ような、サービス登録はしているものの頻繁に使うわけではない非アクティブユーザーが遠い日の思い出を語っているものが多いように思われました。
私自身も、何かのきっかけでたまにアプリを立ち上げる程度で、ここ数年は頻繁に使用していたわけではありませんでした。
何故か。
突き詰めて考えていくと、「ハッカドール」に対しては、何かそこに載っていてほしい情報を期待して見に行くわけではないので、能動的にアプリを立ち上げてサイトを見に行く動機がなかったのではないかと思います。
要は、はっきりとした目的がないまま、なんとなく時間を潰すためにハッカドールを使うことが多かった。
確かに、アプリを立ち上げてみると「そんなこともあったのか」と関心を惹く未知の記事を見つけて興奮することもありましたが、そもそもアプリを立ち上げる機会が減ってしまったので、そのような効用が得られる機会もまた減ってしまいました。
また、なんとなく情報を知るだけでよければ、Twitterで十分だったというのも大きいかも知れません。
2-1で引用したサービス終了後のインタビュー記事の中でも、Twitterとのバッティングについて言及がありました。
荒巻氏 :(中略)ユーザーのニュースのとらえ方が変わってきていることに気が付いたんです。ハッカドールは好みに応じて情報を提供するのですが、やはり1時間ぐらい前の情報になるんです。でも今はTwitterの投稿やリプライなどで、即時に知ってしまう状況があると。
(中略)
アニメファンにライト層は増えているし、アニメもTwitterで話題になってから見るという方も多いのです。でも、そのニーズをとらえようとすると、結局「Twitterでいいよね」という話しになってしまいます。やれる策も少なくなってきているところもあって、どうしたらいいかを考える日々でした。
ハッカドールを利用するモチベーションが低いことは、ユーザー層の曖昧さにもつながり、広告掲載によってターゲティングできるユーザー層が特定できず、広告出稿側に対するスキを与えてしまったのではないかと思います。
TwitterのようなSNSの場合、SNSで投稿されるユーザー情報を基にして広告配信を最適化させることによって、この課題を解決してきました。
ハッカドールでも、情報配信の最適化の際に利用した「ホシイ / イラナイ」の情報を基にしたユーザーの詳細な趣味嗜好情報を活用し、広告配信の最適化をすることができれば、広告単価の引き上げ等の道が残されていたのかも知れません。
一方で、頻繁にハッカドールを使っていた時期というのは、私が崇拝する『灼眼のシャナ』の情報を追うために血眼になっていた時期でした。
既に作品が完結して3、4年経過していたので、2~3か月に一度何かしらの情報が出てくればいい方でしたが、私としてはその情報を入手したいがためにハッカドールを利用していました。
Twitterも利用していましたが、Twitterの場合はどうしても情報が時間経過とともにタイムラインに埋もれてしまうため、使い分ける形でハッカドールも重宝していました。
利用していくうちに利便性に気付き、登録キーワードに好きな漫画やアニメのタイトルを加えていきました。
そうすると、現在アニメが放映されているためにイベント等が頻繁にあることから記事がたくさん拾われてきてしまい、当初目的としていた『灼眼のシャナ』も含めてイベント等が少なく、本来見逃しやすい情報があるはずの作品の情報が、盛り上がっている作品の情報の中に埋もれてしまうような状態になってしましまいました。
こうなってくると、情報が埋もれるのを回避する当初目的が果たされないため、私もハッカドールを使う頻度が下がり、次第にTwitterに依存していくことになりました。
3.ぼくが かんがえた さいきょうの サブカルメディア
ここまで見てきた通り、サブカルメディア単体での事業は十分成り立ち得るし、それだけの市場が存在していることは理解に難くないと思います。
ハッカドールの考察を踏まえ、じゃあ、どんなサブカルメディアであれば、私が(!)満足して継続的に利用できるサービスを作り上げることが出来るのでしょうか。
結局、ユーザーが真に求める情報を、漏れなく、必要なタイミングで確認できることが肝要だろうと考えています。
それができれば、ユーザーの消費購買にもつながりやすく、マネタイズ(延いてはサブカルを担う事業者の収益向上)も比較的やりやすくなるものと思います。
では、具体的にどうすのか。
その答えの一つが、開発中のokiniだったりします。
漫画やアニメのようなサブカル情報を熱量を伴って求める際、自身がファンとなっている特定の作品であったり、特定のクリエイターが、情報を探す際の軸になっていると思います。
私が「灼眼のシャナ」の情報を求め続けるように。
そうした情報を探す際の軸を捉えて、okiniでは、作品タイトルやIP(Intellectual Property)ごとに情報をキュレーションしています。
作品タイトルやIPに情報が紐付けられることによって、ユーザーが真に求める情報に容易にアクセスでき、他の情報に埋もれることを回避することがでるものと考えています。
まだまだ開発途中ですが、少しでも興味を持ってokiniのサイトをご利用頂けましたら励みになります。
もし、漫画やアニメ等のサブカルチャー発展のためのサービスを新たに考えている方、既に従事されている方などいらっしゃいましたら、お気軽にご連絡ください。
より漫画やアニメ等のサブカルチャーが発展していくために、okiniとして協力できることがあれば嬉しいです。