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かつて存在した北谷町役場を経由するバス路線
現在の北谷町役場の敷地内にはバス停が設置されており、沖縄バスの43番・北谷線、96番・北谷~イオンモール線の2路線が乗り入れている。
この2路線のうち、最初に乗り入れた43番・北谷線の運行開始は2015年のことであるが、それ以前にも約2年半の短期間だけ、琉球バスのバス路線が43番・北谷線と同様に敷地内に乗り入れていた時期があった。
現在の北谷町役場は1998年4月に完成
はじめに北谷町役場について。
現在の北谷町役場は1998年4月に完成したものであるが、建て替えではなく移転であり、それ以前の役場は県道24号線沿いの現在は北玉児童館がある敷地に立地していた。
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建て替えに伴う新庁舎は、米軍キャンプ桑江の敷地内に建設された。キャンプ桑江跡地ではなく、現役の米軍基地の中である。これは、1990年6月19日の日米合同委員会にて、キャンプ桑江の北側エリアの返還手続きを進めることが合意されたため、その返還を見越して、先に新庁舎を建設したものである。正式に返還されるまでは、米軍と日本政府の共同使用という形であり、ほかにも読谷補助飛行場の返還予定地に先行して建設された読谷村役場の事例(1997年に基地内に竣工、2006年に基地返還)がある。
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こういう事情から北谷町役場は基地返還前から立地していた一方で、他のエリアについては2003年3月31日に返還されてから街づくりが進められたこともあり、返還から約7年が経過した2010年当時の航空写真をみても、跡地には北谷町役場しか立地していなかった。
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(国土地理院の空中写真【COK20101-C2-17】を筆者が加工)
路線バスが乗り入れないことが町議会で問題に
新庁舎は国道58号からはあまり離れておらず、既存の桑江バス停から徒歩10分であり、致命的に公共交通の便が悪い立地ではなかった。
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ただ町議会では、移転前から問題になっていたようである。
次に、米軍基地内に建設された新庁舎への臨時バス路線を配置することについて伺います。いよいよ5月からは役場業務もキャンプ桑江地内の新庁舎で始まります。新庁舎を利用するには国道58号線のバス停からは遠く、車を持たない町民にとってタクシーを利用するしかないのではないかと思われます。
(中略)
町の責任で住民の基本的な公共的交通機関であるバス路線を確保することが道路建設や福祉施設の設置と同様、大事な仕事となっているのではないかと思います。町民が一番利用する公共施設である庁舎近くにバス停がないということは考えなければならない問題ではないでしょうか。バス会社と協議し、町内公共施設を結ぶ大型バスを運行させ、それに補助金を助成するか、あるいはバス路線が乗り入れされるまでは町独自にでも臨時バスを運行する等、町民の足を確保し、庁舎が利用しやすくなるようにあらゆる手立てを考えるべきだと思いますが、町長の所見を伺います。
新庁舎の供用後も引き続き議論になっており、議員の中からは既存の62番・中部線(読谷~謝苅~砂辺)の経路変更が提案されている。
それから、その一時的な対策としてですね、私は今、琉球バスの砂辺線がありますよね、砂辺線がありますから、あれは幸い美浜の中央線を通っていますので、一時的にですね役場庁舎の方にも迂回してもらうというふうな方法で、これはバス会社としてはですね、経費の一部を助成していけばそれには協力していくのではないかなと思っているわけですがね。
(注釈)1998年6月当時は75番・石川砂辺線の運行開始前であったことから、この当時唯一、砂辺を終点としていた62番・中部線のことを「砂辺線」と述べたと想定される。
75番・石川砂辺線が乗り入れを開始
新庁舎への乗り入れ路線として、前述の町議会内では、琉球バスが運行する62番・中部線が挙がっていたが、最終的に同じく琉球バスが運行する75番・石川砂辺線が乗り入れ路線となった。
75番・石川砂辺線は、那覇交通の石川市(現・うるま市石川)からの撤退に伴い、1998年8月から運行を開始したばかりの路線である。石川市の東山駐車場を起点とし、北谷町の砂辺スポーツランド前(現・砂辺駐機場)を終点とする路線であった。
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この75番・石川砂辺線が、北谷町からの要請を受け、北谷町役場を経由するルートに変更されることとなった。
したがいまして、現在、役場庁舎が基地内にある関係上、一般町民におきましては路線バスのバス停との関係から大変不便を強いられてきているということでお叱りも受けておりますが、これについては現在、砂辺駐車場から、そして石川の東山の駐車場までの琉球バスの75系統の路線について役場庁舎への乗り入れについて琉球バスと協議を進めておりまして、これについてはいい感触を得ております。
北谷町役場への乗り入れを開始したのは、1998年12月21日のことである。なお、乗り入れたのは、役場が開庁している平日のみで、かつ9時〜13時の間のみであった。
「次は北谷町役場前、北谷町役場前」-。キャンプ桑江にある北谷町役場に町民待望のバスが21日から運行を始める。琉球バスの系統75番、石川砂辺線が路線を一部変更し、町役場を経由するもの。平日の午前9時前から午後1時すぎまでの間に六往復する。
(中略)
運行は当面、平日に限られ、土日、祝祭日は休み。下り(石川発)の最も早い便だと午前8時55分に役場に着く。上りの場合、砂辺スポーツランドを午前9時15分に出発、役場に25分に到着する。役場を出る最終便は上りの午後1時20分。
沖縄タイムス)
運行ルートは43番・北谷線とは異なる
北谷町役場バス停自体は、沖縄バスが現在も運行する43番・北谷線が停車する北谷町役場バス停と同様に、庁舎前広場であったようである。
今週の月曜日、12月14日と15日の両日においては、バスの試験運行も行われ、庁舎前広場にバス停留所の案内が掲げられ12月21日(月曜日)からの営業運転の運びとなっています。
ただ、43番・北谷線が通る道路(市道)は、2003年の返還以後に建設された道路である。そのため、75番・石川砂辺線は、43番・北谷線とは異なるルートで北谷町役場に乗り入れていた。
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(国土地理院の空中写真【COK20101-C2-17】を筆者が加工)
当時の新聞記事$${^1}$$およびバス運行ルート$${^2}$$によると、第二桑江と県営美浜団地前の間にて、北谷町役場を経由するルートとなっていることから、以下のようなルートであったと想定される。
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2001年4月をもって乗り入れ終了
北谷町役場への乗り入れは短命で、2001年4月には終了となった。約2年半のみの乗り入れであった。終了の理由は単純に利用者が少ないためであった。
行政におきましても、これまで行政事務連絡車両を活用し、主要な公共施設等、役場庁舎への連絡を試みたり、平成10年12月からは琉球バス株式会社への要請を行い、既存路線のルート変更により役場庁舎を経由したバスルートを確保し、午前中運行の条件付きではありましたが、住民の交通手段の確保を行ってきました。琉球バス株式会社におきましては、職員1名の増員や、75番線の運行指定道路の変更等を行い、新しい路線への期待を持っておりましたが、利用客数が思うように伸びず、平成13年4月には庁舎への乗り入れを中止しています。
ちなみに75番・北谷砂辺線は、2001年4月15日をもって廃止されて、区間を短縮した75番・石川北谷線に引き継がれている。
北谷町役場への乗り入れは、75番・北谷砂辺線の廃止と同日の2001年4月15日であろうか。
2015年4月より約10年ぶりに路線バスが乗り入れ
冒頭でも書いたように現在の北谷町役場には路線バスが乗り入れているが、75番・石川砂辺線廃止以後の初路線は、2015年(平成27年)4月6日に那覇バスターミナルと北谷町役場を結ぶ路線として運行を開始した沖縄バスの43番・北谷線である。
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この路線については、北谷町からの補助等は無く、沖縄バスによる自主的な運行のようである。
北谷町役場を発着点とし、沖縄バス株式会社が運行する路線バス系統43番北谷線は、北谷町役場から桑江伊平土地区画整理地区内を廻り、国道58号を通り那覇バスターミナルまでを結ぶ路線で、平成27年4月6日に運行を開始いたしております。
(中略)
路線バス系統43番北谷線に対して町からの予算支出はございません。
その翌年である2016年4月1日からは、イオンモール沖縄ライカムと北谷町役場を結ぶ沖縄バスの96番・北谷〜イオンモール線が乗り入れを開始しており、2023年7月現在は、2路線が乗り入れており、平日10本/日(43番:10本/日、96番:0本/日)、土曜休日8本/日(43番:7本/日、96番:1本/日)が運行されている。
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脚注
北谷町役場にバスが運行/住民の要望に応え路線を変更/きょうから1日6往復(1998年12月21日 沖縄タイムス)
沖縄・交通観光情報システム 系統番号75/石川砂辺線/北谷町役場経由/上り(Webアーカイブページ)