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No.1373 さいばんちょー!

昨日の「虎に翼」(最終週・第128話)は、尊属殺人の罪が問われ、最高裁で判決が下る日の被告・美位子と寅子の、こんな会話から始まりました。

美「もし勝てたら、どうなるんですか?」
寅「現判決が破棄されれば、恐らく執行猶予がついて、あなたはすぐ社会に戻ることが出来る。」
美「でも、それって、いいんでしょうか?あたし、人を殺したんですよ。あたし、あの時、紐で締め上げた感覚が、今でも手に残っているんです。毎晩毎晩、夢に見て、服役した方がずっと楽なんじゃないかとずっと考えて…。」
寅「何かしらの罪を償いたいと思うことは、あなたの尊厳を全て奪って、何度もあなたの心を殺してきた相手を肯定してしまいかねない。あなたが出来ることは、生きて、出来る限りの幸せを感じ続けることよ!」

このやり取りを聞いていた時、森鴎外の『高瀬舟』の話を思い出していました。両親に早くに先立たれ、兄・喜助と弟だけでその日暮らしの貧しくつましい生活を送って来ました。しかし、弟が病気となり、喜助の足手まといになりたくないと考えた弟は自殺を図るのですが、うまく喉笛を切ることが出来ずに苦しんでいるところに、喜助が仕事から帰って来ました。弟は苦しい息の底から「殺してほしい」と願うのですが、喜助が聞き入れるはずがありません。しかし、「早く殺せ」と催促する弟の恨むようで憎むような眼を見ると、弟を早く楽にしてやらねばと思う様になり、喉笛に刺した刀を引き抜こうとした時に致命傷を負わせてしまいました。喜助は「弟殺し」(安楽死?)の罪で、死刑を減じられ遠島を申しつけられました。

この時、罪人・喜助を「高瀬舟」で護送した与力の羽田庄兵衛は、喜助の話を聞くにつけ「これは、本当に弟殺しの罪に当たるのだろうか?」という疑念が浮かぶのでした。生徒に「あなたが裁判長なら、喜助は、有罪か、無罪か?」と感想を問うたら、
●死ぬと分かっている弟に手を貸しただけ
●兄に殺人の意志はなく、嘱託殺人だった
●苦しむ弟を少しでも早く楽にしたかった
と1~2割が「無罪」を主張する一方で、
○喜助の弁明のみであり、見た者がいない
○理由に関係なく殺したことに変わりない
○他に助かる最善の手段を尽くしていない
と8~9割が「有罪」を支持しました。

そんな反対派の中に、
「喜助は、きちんと罪を償うことで、改めて人生をやり直すことが出来るのではないか。」
という意見があり、クラスに大きな拍手が上がったことを思い出しました。

美位子さんの場合は、鬼畜にも劣る父親の蛮行であり、情状酌量してもなお余りある尊属殺人だと思われましたが、最高裁の判決は「尊属殺人罪」を破棄し「殺人罪」に切り替え、3年間の執行猶予の付いた2年6か月の懲役罪に決まりました。

桂場裁判長だったら、喜助にどんな判決を下したでしょうか?


※画像は、クリエイター・ゆりんでーる☆さんの、タイトル「すぐ批判的になる自分の性格をリーディングしてもらった話」の1葉をかたじけなくしました。その説明に、
「調子に乗りすぎたり 自分を責めすぎたり 何かと人は偏りがち 裁判官のおじちゃんがね 『心のバランスを取れるように』って 天秤をくれたよ どちらかに偏りそうになったら この天秤を思い出して平衡にするんだよって 教えてくれた 守り龍も、ちょんちょん優しく 手伝ってくれるって」
とありました。私も、大事にしたい天秤です。お礼を申し上げます。