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No.954 よみがえる

1994年の番組に「印度漂流 生と死の大地 神々の饗宴」(OAB放送)と言うのがありました。俳優・緒形拳(1937年~2008年)が、3週間にわたってインド全土の旅をするドキュメンタリーです。

母なるガンジス川に生命は帰り、そして再生すると言います。信仰心厚い民族の血と、教えと、祈りが、よく現れた番組でした。拳さんの旅の途中で、全国各地を祈りながら巡礼する一人の老僧の言葉が心に強く残りました。
 
「私の体は古くなったので、死んで新しいのと取り換えるのです。」
 
命は一回きりのものとし、死を絶対視しがちな現代のわれわれとは異なり、再生を信じて心身共に新たなものとなって生まれて来ることを誓う、この老人の晴れやかな笑顔が印象的でした。

従容として死に赴くことのできる、恐るべき豊かな精神土壌を今もって受け継いでいる人々の国は、心の大国のように思えました。心の弱い私は、おじけづきます。
 
宮澤賢治(1896年~1933年)は、詩「永訣の朝」(『春と修羅』所収、1924年発刊)で妹・トシ(1898年~1922年)の言葉を残しています。

(うまれでくるたて
こんどはこたにわりやのごとばかりで
くるしまなあよにうまれてくる)
「またひとにうまれてくるときは/こんなにじぶんのことばかりで/くるしまないやうにうまれてきます」(賢治自身の簡単な訳)

結核により24歳の若さで他界した彼女は、本当に命の再生を信じていたのでしょう。そして「同じ苦しむのなら、自分の為でなく人の為でありたい」とするその言葉は「天女」(遭ったことはありませんが…)のそれかと思ってしまいます。彼女もまた、心の大国で生きていた女性なのかも知れません。
 
信仰心の篤さ、強さは、また不可能を可能にする力を持たせることができるのかも知れません。若くして病没したトシさんが、もし翌年に生まれ変わっていたのなら、今年はその100年目を迎える計算です。
 
昨、2022年9月1日時点で住民基本台帳に基づく100歳以上の高齢者の数が、9万526人だったそうです。女性が89%を占めると言いますから、8万568人いたことになります。生まれ変わったトシさんは、今もご健在で、人の為に生きておられることでしょうか?
 


※画像は、クリエイター・吉塚康一/百年ニュース「毎日が100周年」さんの、宮澤賢治の1葉です。少し長い、次のようなタイトルが付けられていました。
【百年ニュース】1920(大正9)12月2日(木) 宮沢賢治(24)国柱会信行部に入会。「今度私は国柱会信行部に入会しました。すなわち最早私の身命は日蓮上人の御物です。従って今や私は田中智学先生の御命令の中にだけあるのです。あまり突然でちょっとびっくりなさったでしょう」『宮沢賢治全集第13巻』