No.1197 近所の神様
いきなりですが、3月末になって、ようやく私の中の正月が終わりました。
1週間ほど前、散歩に出かけた時のことです。団地の曲がり角に近づいたとき、サッ、サッと竹箒で路上を掃く音がします。
「お婆ちゃんだ!」
私は、少し早足になりました。
2月1日になると「お約束」のように律儀に咲き始めるのが、お婆ちゃん家の「枝垂れ梅」です。今年もその時を忘れずに可愛いお姫様が艶やかなその姿を見せてくれました。
ところが、新年が始まっても、一度もお婆ちゃんの姿を見られませんでした。きれい好きのお婆ちゃんは、家の前の落ち葉や散った花をいつもきれいに掃除していました。でも、その姿が見えないのです。そういえば、物干し竿に干し物も見なくなりました。
腰が二重に曲がっており、80歳はとうに過ぎたお婆ちゃんです。体調を崩したのではなかろうかとずっと心配していました。わが家の枝垂れ梅は、義父の没後に枯れました。若い庭師が、
「亡くなった人が連れて行くなんていいますね…。」
というのを以前聴いていたので、お婆ちゃんちの梅の花が見事に咲いたことが、主の健在を示す証と考え、小さな心の支えにしていたのです。
そのお婆ちゃんの家の近くから聞こえた箒の音に、一気に心配が吹き飛びました。急いで角を回るとお婆ちゃんが短い竹箒で落ち葉を掃いていました。
「お婆ちゃん!」
声をかけると優しい笑顔が振り向きました。
「あら、まあ!お久しぶりですね!チョコちゃんは元気?」
去年のうちにチョコの死を告げておりましたが、もうすっかり忘れているみたいです。でも、私の不安は杞憂に終わりました。体は不自由至極でしょうが、不満を託つこともなく、ニコニコして明るい笑顔で話してくれるお婆ちゃんは、菩薩様のような慈しみを感じる人です。私は、その老女を信者のようにあがめているので、ほっと胸のつかえが下りました。
今年初めてのごあいさつとなりましたが、漸く正月が過ぎた気持ちになりました。
※画像は、クリエイター・守屋吉之助🌈Healing artistさんの、「川越七福神の一つ、天然寺の願掛け観音です」の1葉をかたじけなくしました。心よりお礼申し上げます。