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No.1422 何やら行(ゆ)かし?

選挙があるたびに、読み返す新聞のコラムがあります。2015年(平成27年)6月18日の「編集手帳」の記事です。

英国の首相で絵ごころもあったチャーチルに、ある人が尋ねた。「一度も絵を描いたことのない人物が美術展の審査をしています。いいものでしょうか?」◆チャーチルは答えたという。「べつに悪くはないでしょう。私はタマゴを産んだことは一度もありませんが、タマゴが腐っているかどうかは分かります」。英文学者の外山滋比古さんが『ユーモアのレッスン』(中公新書)に書き留めている。経験の有無がすべて、とは限らない◆選挙権の年齢を現在の「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げる改正公職選挙法が成立した◆財政赤字や社会保障費をめぐる政策の卵が腐っていたとき、その卵でこしらえたマズい料理を将来の長きにわたって食べさせられるのは若い世代である。まだ社会経験の乏しい高校生の一部も1票を手にすることになる。心配は要らない。名宰相の太鼓判を自身の糧として、卵の鮮度をしっかり見極めていこう◆季節はちょっと違うが卵料理の好きな一句がある。〈新涼やふたつ瞠(みは)れる目玉焼〉(朔多恭)政策・政見に瞠る若い目が、政治に涼やかな風を運んでくれるといい。

読売新聞「編集手帳」2015年(平成27年)6月18日

2001年(平成13年)7月から「編集手帳」を担当した竹内正明氏の筆になるコラムです。大好きなコラムニストです。しかし、2017年(平成29年)に体調不良により一線から引退されました。その2年前の記事です。
 
今年、10月27日投票の衆議院議員総選挙前の授業で、高校3年生に「投票の通知が来た人?」と訊いたら、3分の1ほどの生徒が遠慮気味に挙手しました。もちろん、投票に行くか行かぬかの質問などしませんでしたが、後日、この日の10代の投票率の記事を見つけました。

 総務省は30日、衆院選の18、19歳の投票率(小選挙区)の速報値が43.06%だったと発表した。(中略)18歳の投票率は49・21%、19歳は36・67%だった。男女・年齢別では18歳女性が最も高い49・86%で、18歳男性48・60%、19歳女性37・28%、19歳男性36・09%と続いた。18歳は学校で主権者教育を受けるなどし、投票を促される環境にいる人が多いとみられるため、19歳よりも高い傾向にある。(中略)
 今回は、選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられてから初めて行われた16年参院選以降、6度目の国政選挙だった。制度導入以降、18、19歳の投票率は全体の投票率を大幅に下回り、30~40%台と低水準が続く。最も高かったのは16年参院選の46・78%で、最低は19年参院選の32・28%。今回の衆院選では、全体投票率との差が、16年参院選に次いで小さかった。

時事ドットコムニュース 2024年10月30日

コラムニストの期待も空しく、2016年度の参議院議員選挙の次に低い10代の投票率となったという記事でした。10代の意見としては、
〇大人世代よりも絶対数が少ない10代の意見は取り上げられるはずがない。
〇自分一人が投票しても大勢に何の影響もない。
〇誰が選ばれても同じだから投票には行かない。
などの意見も聞かれるようですが、これは、10代に限った考えでもないし、今回だけの特徴的な傾向でもないと思われます。

選ぶ側の政治への関心や投票への意識が高まることと、選ばれる側の訴える力と魅力的な政策等々、互いが引き合う関係でありたいと望みます。

「やまぢきて なにやらゆかし すみれぐさ」
は『野ざらし紀行』中の松尾芭蕉の句(天和4年=1684年)だそうです。ひっそりと道端に咲く可憐なすみれ草に、ただひたすら理屈もなく無性に心がひかれるさまを詠んだものでしょうか。

「何やらゆかし」には、ほおっておけないほど気が惹かれる魅力を感じます。「ゆかし」は「行かし」と同義だと考えます。10代の心をとらえて投票をしに「行きたい」と考えさせるには、どうしたら良いのでしょう?被選挙人たちに10代の若者からの宿題が与えられているように思います。


※画像は、クリエイター「まるこめ。」さんの、「投票に行こう!と言っているような大学生です。詳しくはnoteで!」の1葉をかたじけなくしました。お礼申し上げます。