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No.713 大根侍、見参!

おでんに、みぞれ鍋に、田楽に、ふろふき大根に、カクテキ(キムチ)、ブリ大根、大根ステーキ、大根サラダ、味噌汁に、焼魚のお供に…、大根は根菜類の万能選手です。
 
「大根」というと、こんな古典のお話があります。
 
「筑紫(つくし)に、なにがしの押領使(あふりゃうし)などいふやうなるもののありけるが、土大根(つちおほね)を万(よろづ)にいみじき薬とて、朝ごとに二つづつ焼きて食ひけること、年久しくなりぬ。
 ある時、館(たち)の内に人もなかりける暇をはかりて敵(かたき)襲い来りて囲み攻めけるに、館の内に兵(つはもの)二人出で来て、命を惜しまず戦ひて、皆追ひ返してげり。いと不思議に覚えて、『日比(ひごろ)ここにものし給ふとも見ぬ人々の、かく戦ひし給ふは、いかなる人ぞ』と問ひければ『年来(としごろ)頼みて、朝な朝な召しつる土大根らにさぶらふ』といひて失せにけり。
 深く信をいたしぬれば、かかる徳もありけるにこそ。」
 
(九州に、何とかいう武術に優れた役人がいた。「大根を万病によく効く薬である」と言って、毎朝二本(二切れ?)ずつ焼いて食べることが長年の習慣となっていた。
 ある日、屋敷の中が無人であった留守を狙って敵が襲来し、屋敷を包囲して攻めてきた。すると、屋敷の中に見知らぬ兵士が二人あらわれて、命を惜しまず戦って、敵を撃退してくれた。とても不思議に思って「長い間、お見かけしないお顔ですが、このように戦ってくださるのは、どういう方々ですか?」と尋ねると「あなたが、長年にわたって信頼し、毎朝召しあがっていた大根らでございます」とだけ答えて去っていった。
 どんなことでも深く信じきっていたからこそ、こんな功徳もあったのだろう。」)
 
『徒然草』(第六十八段)には、大根武士が、家主の危機を救うという奇特なエピソードが見られます。「信じる者は救われる」日本版のようなお話です。「朝ごとに二つづつ焼きて食ひける」とありますから、「押領使」は、大根の主要な栄養素「ビタミンC、消化酵素、イソチオシアネート」をバッチリ摂ることができたでしょう。
 
我が団地の裏手が雑木林の小山で藪蚊が多いことから室内犬となった愛犬チョコは、残念ながら「ここ掘れワンワン!」の素振りも見せません。ましてや、たまにしか大根を食べない我が身に、大根の精が「徳」を垂れたまうことなど期待はずれのようです。やはり、無欲の人、信じる人に功徳は訪れるのでしょう。
 
「のびあがりのびあがり大根大根」
 種田山頭火(1882年~1940年)

※画像は、クリエイター・安良さんの、タイトル「秋アルバム2022 畑便り」をかたじけなくしました。背比べをしているような大根かな!お礼申します。