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No.426 あれから100日経ちました!

あの日、朝方は少し肌寒く、秋だとばかりに鰯雲が空を覆っていました。
作家・重松清氏の新聞連載小説「はるか、ブレーメン」(画、丹下京子さん)が大分合同新聞で始まったのは、その2021年10月24日のことでした。

あれから今日で100日目、「はるか、ブレーメン」も100話目を迎えました。この連載小説について、重松氏は、
「人生の走馬灯に描くものを探す人たちの物語であり、16歳の少女のフシギな旅の物語でもあります。」
とコメントを寄せています。画家・丹下京子さんの柔らかくて親しみの持てるタッチの挿絵が、毎回、物語の一断面を見事に切り取って描かれており、読者をその世界に静かにいざなってくれます。

「はるか、ブレーメン」は、両親に捨てられ、養育してくれていた祖母に死なれ、一人ぼっちになった主人公・小川遥香(高校2年生)が、ブレーメン・ツアーズと言う怪しい旅行会社の社員・葛城圭一郎から依頼を受け、定年世代の息子(村松達哉)と85歳の認知症の母(村松光子)の「人生の走馬灯」に描かれる場面を探しながら成長してゆくという不思議なお話です。

全身黒ずくめの葛城の醸し出す雰囲気は、「イマドキの死神」を思わせるのですが、依頼者の息子・達哉さんに言わせれば「走馬灯の絵師」という奇妙なキャラで、とんでもない能力の持ち主です。そして、主人公のはるか(遥香)も、彼女の級友のナンユウくん(なんちゃってユウキの略。北嶋裕生)も、そこそことんでもない能力の持ち主として、また、物語世界のキーマンとして活躍するのです。今どきの若者の面白い感性や、微妙に揺れ動くピュアな心のひだを、本人になりきって表現できる、この小説家の持ち味というか特異な感性が、遺憾なく発揮されている作品です。

 とは言え、話の展開は超スローテンポです。
プロローグ(1)~(9) 祖母の49日の法要、遥香の境遇、ブレーメン  社からの手紙
第1章 (1)~(26) ブレーメン社・葛城からの依頼の了承、ナンユウくんと準備
第2章 (1)~(28) 村松親(母)子(息子)が遥香宅を訪問。人生の走馬灯談議。遥香は、村松母の背中に手を当て記憶にダイブする能力自覚
第3章 (1)~(24) 遥香は周防市案内中に村松母の不倫を特殊能力で読み取り大いに悩む
第4章 (1)~(13) 遥香はナンユウくんに相談。ナンユウは母親自慢の優しい息子の背中に手を当てて記憶を読み取る作戦に出たが、とんでもない記憶の画像が…果たして息子の正体は?
こんな具合で100回目の今朝は驚き。今後は波乱の予感に満ちています。

ネットの「粋-iki-」という情報のページに、「走馬灯」について書いてありました。
「走馬灯は、主に死に際や感情が揺さぶられた際に、様々な記憶が次々と蘇ることを意味します。
 過去の出来事をありありと思い出すことや、時間の流れを無視して大量の記憶が蘇るケースが多いのも特徴です。意識的に思い出そうとして思い出すものではなく、条件が重なった結果として記憶が蘇る場合に使われます。
 記憶に流れがあり、生まれてから死ぬまでの一生の記憶が一瞬で蘇るケースや、家族との思い出など印象に残るエピソードが思い浮かぶ場合が多いといわれています。実際に体験することが難しいため、小説などのフィクション上の表現か、治療などで蘇生した人の体験談が主になっています。」
この発想は、「はるか、ブレーメン」の作者も共有しているのではないかと思います。

脇役の一人、ブレーメン・トラベラーズの葛城圭一郎の話も、まさにそんな説得力に富んでいます。
「走馬灯に描き漏らしたものがないか、棺の前でみんなで思い出を語って、亡くなった人に教えてあげているのです。」
「走馬灯の描き漏らしは意外と多いんです。本人が忘れている…というか、走馬灯に描くべきものなのに、その尊さに気づいていない場合もあります」
「あとは、本人が蓋をしている場合。いわゆる、記憶を封印するというやつです。戦争や大きな災害を経験した人にはそういうことが多い」
そしてもう一つ、
「忘れているわけではなくても、封じるしかないものがある。これを走馬灯に書いてしまうと、のこされた家族が悲しむから」

遥香は、自分を捨てた両親の記憶や走馬灯を読んでみたいのではないかな?
私の父母は、子ども達をどう思いながら黄泉路に行ってしまわれたのかな?
 
私は、今や、小説の登場人物が5人以上いると、もう頭の中がこんがらかって先が読みづらくなるような、すっとぼけた脳みそになりました。でも、この連載小説は、数学の各単元のごとく、少人数で話が進んで行き、分かり易く読み易く、こんな私でもお供できるのです。

この小説には、年老いて行く私にとって、何かをこじ開けられる鍵を与えてくれるかもしれないと興味津々です。朝イチのルーティーンとして、新聞のページを開いているのです。