見出し画像

No.620 遊びをせんとや生まれけむ

小学館「日本国語大辞典」の「あそび」の項を見ると、
「⑧機械の連動作用がすぐに伝わらないで、多少のゆとりがあること。」
とあります。
 
車やバイクや自転車のブレーキも、すぐに利かずに、いくらか踏み込んだり、絞ったりする事でゆっくりとその能力を発揮します。いきなりブレーキが効けば、大変危険です。「遊び」は、まことに重要であり、「遊び」があるからこそ大きな効き目を生じることが出来るのでしょう。
 
その昔、OAB放送の「世界が驚いたニッポン! スゴ〜イデスネ!!視察団」(テレビ朝日放送系列)という番組で、スペインのガウディーが設計し、いまだに建築中のサグラダ・ファミリアナンバー2の建築家が来日しました。
「地震や台風が多い日本で、昔の建造物がどうして残っているのか興味があるのです」
との理由でしたが、鋭い指摘です。
 
彼は、合掌造りの茅葺きの業に驚嘆していましたが、心柱の根元が独楽の先のように尖っていることに感動しました。地震にも緩やかに対応できる独楽先の柔軟性こそ「遊び」だというのです。又、伊勢神宮では、柱と壁板の隙間に注目しました。数十年先には重みと乾燥で板材が縮んできます。その隙間を保っているのだといいます。これも見事な「遊び」だったのです。
 
 高さ634mもある電波塔にして観光施設の東京スカイツリーは、最新の地震対策として「制振」(地震の揺れを吸収して小さくする装置)を採用しています。その名を「心柱制振」というそうです。これは、1300年も前の法隆寺の五重塔の内部にある「心柱」に倣ったもので、心柱が地面から上部まで貫かれていることから、強度を上げることにも地震の対策にも生かされているということでした。これも「遊び」が生みだす大きな力だといえそうです。
 
 「遊びをせむとや生まれけむ 戯れせむとや生まれけむ 遊ぶ子供の声聞けば 我が身さへこそ揺るがるれ」
(『梁塵秘抄』編者・後白河法皇)
機械も建物も人間も、「遊び」が必要なようです。大きな力を生み出すためにも。

【コメントをくださった皆様へのお礼】
8月中に、国内外のnoteの筆者や愛読者の方々から心あるコメントを頂戴しました。大いに感謝し、恐縮しています。返事の仕方も分からずに不義理をはたらいておりますこと、お許しください。孤弱の身ではありますが、頑張ります。