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No.1328 倒れたら立ち上がる。

中学生になって、兄を見習い柔道を始めました。
受け身とは、腕全体で強く畳をたたくことです。そうすることで、身の安全が守られるからです。その種類としては、以下の四つがあります。
「後ろ受け身」=後ろ方向に転んだ際に、後頭部および首を守る受け身
「横受け身」=横に転がるように横転した際に、頭部や首や全身を守る受け身
「前受け身」=躓いたり前方向に転んだりした際に、顔や頭や全身を守る受け身
「前回り受け身」=前方向に転がるように転倒した際に、頭や首や全身を守る受け身

これらは、子どもたちにとっても、老人にとっても大事な転び方の練習であり、柔道をする人だけに限らない「身を守るための大事な所作」だと思います。

先日のNHK総合「おはよう日本」の中で「オリンピック<ちょいパリ>【柔道】難民選手団“柔道が心の支え”」(8月5日放送)という番組がありました。
 
番組中、アフガニスタン出身の難民選手団のニガラ・シャヒーン(31歳)さんは、
「私にとって柔道は単なる競技ではない。大切な存在です。」
と言いました。どういうことなのでしょう?
アフガニスタンは、東と南にパキスタン、西にイラン、北にトルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、北東では中国と国境を接する多民族国家です。

1980年代には、ソビエト連邦の侵略と占領に遭い、1990年代初頭には、いくつもの派による内戦に苦しみ、1994年からは、タリバンの暴虐とテロに苦しんでいます。過去40年間、彼らの切望していた平和は訪れるどころか、数百万の人々が命を落としたと言われます。人々は強制移民と貧困に苦しみ続けています。
 
さらに、根強い家父長制度、女性軽視の風潮、厳格な宗教などが、女性や子どもたちを虐げて来ました。社会の中で支配され、伝統に抑圧されながら生きる道しか許されていません。もちろん、女性の幸せもそれなりにあったでしょうが、社会的に強い影響を受けないではいられない運命であり存在であるように思います。
 
ニガラ・シャヒーンさんは、11歳から柔道を始めたと言います。難民として社会になじむのは難しく、学校に行けない時期もあったと言いますが、スポーツが心の支えになったと回想しています。戦争や紛争のさなかにあって、心を失わずにいられたものとして。
 
そんなニガラ・シャヒーンさんは、パリオリンピックの難民選手団36人中の一人として63㎏級の女子柔道に出場しました。7月30日の第1回戦で、メキシコ選手のプリスカ・アウィチ=アルカラスと対戦し、「腕挫十字固」(うでひしぎじゅうじがため)により1本負けしました。わずか36秒間の畳の上でしたが、必死の彼女は、どう感じたでしょうか。
 
彼女は言いました。
「私は、柔道で何度も倒れ方と立ち上がり方を学びました。人生で何度も倒れましたが、柔道はその立ち上がり方を教えてくれたのです。」
「私にとって柔道は単なる競技ではなく、大切な存在です。」
そんな話をしました。柔道という競技が世界に広まる理由を一つ教えられました。
 
すべてのアフガニスタンのアスリートたちは、アフガニスタンの平和や安定や発展を心の底から願っているそうです。スポーツは人々に夢を実現する力を与えてくれることもあります。自分が、何もできないのではなく、可能性を見出せる世界でもあるようです。
 
「難民の子どもたちを助けていきたい。それが、これからの目標です。」
ニガラ・シャヒーンさんの眼が輝いていました。得意技を発揮できなかった彼女の36秒間のパリオリンピック(17日間の開催)でしたが、まさに今、閉会式が行われています。


※画像は、クリエイター・TOMOさんの、「オリンピックの柔道のイラスト」の1葉です。お礼申し上げます。