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No.1441 表と裏と
国内では、「松」は縄文時代(13000年くらい前から2300年くらい前まで)に瀬戸内海に見られたと言います。一方、「杉」の方は、約10万年も前にかなり繁栄していたことが、花粉研究により知られているそうです。ヘーボタンです。
この「杉」の和名は「大和本草」(江戸時代中期の薬に関する書物で、1708年、貝原益軒の著)によると、「真直ぐの木」なので「直木」(スギ)としたとか、江戸時代後期の本居宣長の「古事記伝」には「スギは傍らにはびこらず、上へ進み上る木」なので「進木」(ススギ)が語源であるとか伝えているそうです。ヘーボタン×2?
私は、52年~55年ほど前に大分県日田市で高校生活を送りましたが、500年もの歴史があるという日田杉の山々を見ることが出来ました。日田は江戸時代に天領となり、日田を流れる三隈川、玖珠川、花月川、大山川、津江川などは、筑後川に流れて行きましたから、地形的にも木材の運搬に大きく貢献し繁栄をもたらしたことでしょう。
その「杉」に「表杉」と「裏杉」の二種類があることを知りませんでした。
「表杉」は太平洋側に生える杉で、湿気や水に強い反面、 寸法が変わり易いとか。太平洋側から四国、九州に分布し、幹は細く、枝は水平方向に伸び、葉は広いのが特徴です。吉野杉、日光杉、山武杉、三河杉、日田杉などは代表的な表杉のようです。
「裏杉」は日本海側に生える杉が主で、一番低い太枝は積雪によって垂れ下がり、その接地した所から発根し、 上方へと枝を伸ばし、葉は小さく狭いのが特徴だそうです。日本海側から北陸・山陰地方に分布し、秋田スギ、丹沢スギ、天城スギ、吉野スギ、魚梁瀬スギ、屋久スギなどが裏杉とされていました。
11月30日、「神様の木に会う 巨樹からのメッセージ『伝説』」(NHKBS再放送11:00~11:30)を見ていて「裏杉」のことを初めて知りました。枝が入り組んで伸びています。幹の根もとから上を眺めると、私の見たもとのない杉の世界がありました。こんな巨樹が登場しました。
山形県最上郡戸沢村土湯にある、樹齢推定300年以上の「土湯の赤杉」は威風堂々たる姿です。
山形県最上郡鮭川村にある「小杉の大杉」は、「トトロの杉」として親しまれているそうです。なるほど、尖がった二つの耳とユルボワンな形がよく似ていました。
表杉は、積雪の少ない本州太平洋側に生育し、太陽の光が良く当たるように葉を拡げているために、大雪の際には葉の間に雪が詰まり、その重さで折れる可能性が高くなります。ところが、裏杉は積雪の多い本州日本海側に生育し、葉を短く、枝を垂れ下げて雪の害を防いでいるのだそうです。しなやかさは、自然環境が生んだ驚異の生き残り術のように思われました。
樹木には足が無いので、生まれた所から一歩も動けません。かろうじて、根っこや枝葉を伸ばすだけです。自然は、彼らに試練を与えますが、どっこい生きています。命あるものの知恵と工夫は、そうした環境から生み出されたもので、嫌な事や嫌な所からすぐに逃げ出してしまおうとする私は、裏杉の生き方、生育の仕方にひどく打たれてしまいました。いい番組でした。
※画像は、クリエイター・ハスつかさんの、タイトル「大きなスキの木の中で。 (縄文杉に逢いにいく編②)」の1葉をかたじけなくしました。その説明に「屋久島のウィルソン株の中から、空を見上げてみる。」とありました。息をのむ光景です。お礼を申し上げます。