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No.1496 ビリビリビリ!

クラス担任をしていた30年も前のお話です。

教室の背面黒板の左右の壁は、布紙張りの掲示板として活用していました。
その布紙の継ぎ目が浮き出たのをよいことに、真相は不明ですが、むくつけきやからが、少しずつビリビリと剥いで、いびつな形になりました。

営繕係のオジサンにお願いして壁紙を修繕してもらいました。その作業中、
「なんで剥ぐんでしょうねぇ?」
と心ない仕業をボヤくように話しかけたら、
「幼い頃に、破る体験が少なかったんじゃないですか?」
という思いがけない答えが返ってきて驚かされました。

そう言えば、我が家の本棚の一番下の段の本の腰帯は、ほとんど引き破られていました。娘が1歳前後の頃に「ビリビリ」という音に興味快感を覚えたのか、手当たり次第に破りまくったからです。音に対する関心だけではなく、手先や指先の発達を促す効果があるとも言います。何か、盛りの付いた猫のような声で「アー」だ「ウー」だ言いながら引き破ってはご機嫌だったのを思い出します。

その甲斐あってか、小・中・高とどんなテスト点をとってもビリビリに破らずに持ち帰って来ます。まことに、幼時体験は大事だなと思った次第です。

娘の名誉のために書いておきますが、トップ画像の『百人一首』の文庫本をあんなにも齧ったのは、一昨年の5月に虹の橋を渡っていった飼い犬のチョコが、しでかしたものです。犬が本などを齧るのは、ストレスや不安、好奇心、遊び、歯の生え変わりなど、さまざまな要因が考えられるそうです。

チョコの場合、遊びと歯の生えかわりの併せ技ではないかと思います。実に鋭利な噛み跡です。しかし、成長したら見向きもしなくなりました。『百人一首』の本を齧ったのに、札を取る事はありませんでした。もしゲームに加わったとしても、犬だけに「お手つき」ばかりしたことでしょう。チョコの場合、幼時体験が功を奏したのかどうかは不明ですが、15年間、歯は丈夫でしたから、それをもって『百人一首』効果と呼ばせて頂きましょう。

彼女は、私の散歩の相棒(マブダチ?)でした。15年間で一緒に5,000km前後は歩いた計算です。調べたら、東南アジアの辺りまで行ったことになるそうです。弥次喜多道中ではありませんが、最後はお互いに老々介護し、気遣いながらの道中でした。まことに、「ういヤツ」でした。

「散歩する犬とまた逢ふ星月夜」
 竹内たつ枝