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No.1372 心憎いコラムの人

敬老の日も彼岸明けも終わってしまいましたが、私には忘れ難い、この頃に書かれた1つのコラムがあります。

 新聞社では、出先から電話で原稿を送ることがある。原稿中に「イトウ」とあれば、受け手は漢字を確かめねばならない。新聞記者出身の青木雨彦さんが「冗談の作法」(ダイヤモンド社刊)で体験談を披露している◆「イはイタリア(伊太利亜)のイだね?」「サンズイのイです」「サンズイ?」「イドのイです」「井戸のイにサンズイがある?」「あります、オイドのイだもの」「オイド?」「そうです、オイドニホンバシの…」◆この会話に笑みをこぼす人ばかりとは限るまい。郷里を離れて都会暮らしをした人のなかには、訛りでつらい思いをした記憶をほろ苦く過去から紡いだ方もあろう◆読売俳壇で目に留め、書き抜いた句がある。〈食(け)と言はれ食(く)とこたへ食ふづんだ餅 福島県 黒沢正行〉。食(け=食べなさい)と食(く=食べます)、1文字で心身の温まる魔法のようなシャワーもある。 

読売新聞「編集手帳」2009年9月22日

コラムの主は、2001年(平成13年)7月~2017年(平成29年)10月2日まで16年間にわたって「編集手帳」を担当したジャーナリストでコラムニストの竹内政明氏(1955年~)です。「編集手帳」のコラム執筆を始めて8年目、氏が54歳の時の筆です。
 
「1文字で心身の温まる魔法のようなシャワー」が黒沢正行さんの俳句なら
「1コラムで心身の温まる魔法のようなシャワー」を人々に浴びせ続けたのが、竹内正明氏だとベタ惚れしている私です。
 
その竹内氏は2017年10月に体調をこわし、第1線から身を引かれました。今日、ご紹介したコラムは、今から15年も前のものですが、読むたびに笑わせて泣かされ、心も身体も潤ってくるのです。


※画像は、クリエイター・きたしげさんの「東海道五十三次のコラージュ作品」の1葉をかたじけなくしました。歌川広重が、浮世絵「東海道五十三次」を版行したのは1832年(天保3年)だそうですから、もう192年が経つのですね。お礼を申し上げます。