No.843 明日の故郷、将来の故郷、日本の故郷
数日前の大分合同新聞「灯」欄で、高校時代の恩師・後藤宗俊先生(別府大学名誉教授)のコラム「東日本大震災・鎮魂の調べ」を拝見しました。次の文章がそれです。
「2月6日、トルコ・シリア国境で死者5万人超の大地震が起きた。そして3月11日、東日本大震災から12年、各地で鎮魂と慰霊の祈りがささげられた。
あの大震災の直後、東京で開かれた二つのコンサートに深い感銘を受けた。毎年この時期になると、その録画を視聴している。
その一つ。震災から1か月後の4月10日、なお強い余震が続く中、上野の東京文化会館で巨匠ズービン・メータがNHK交響楽団を指揮してベートーベンの交響曲第9番を演奏した。
管弦楽団、合唱団、総員二百余人。文字通り入魂の演奏だった。特に第4楽章、クライマックスの『歓喜の歌』は、そのまま至高の鎮魂の歌となったように思えた。終演後、鳴りやまぬ拍手の中、メータさんは表情を崩すことなく、胸元で掌を合わせて深く黙礼した。
同じ日、NHKホールでは世界的なテノール、プラシド・ドミンゴが3時間にわたる熱唱の後アンコールに応えて唱歌『故郷』を日本語で歌った。このシーンは今もネット上などで繰り返し再生されている。
-兎追いしかの山 小鮒釣りしかの川-
子供の頃から繰り返し聴き、歌った歌なのだが、『かの山』『かの川』はこんなにもかけがえのないものだった。満員の会場のあちこちで涙をぬぐう人の姿があった。ドミンゴさんの歌は続く。
-如何にいます父母 恙なしや友がき 雨に風につけても 思いいずる故郷-」
私たちにとって、かけがえのない「ふるさと」です。2011年に起きた東電福島第一原発事故を機に定められた原発依存度低減の政府方針を、現政権は改め、今年2月10日に「最大限活用」を閣議決定しました。CO2を出さない有効な原子力発電と言われます。しかし、南海トラフの大規模地震(M8からM9クラス)の可能性が、今後30年以内に70~80%の確率で発生するという科学的見地から言えば、国を挙げての防災の強化に、自ら弓を引こうとしているように思われてなりません。
未来に残したい「故郷」を奪う者は、誰なのでしょうか?皮肉にも、故郷を持つ政治家であり、故郷から彼らを支援する国民でしょうか?
-山は青き故郷 水は清き故郷-
※画像は、クリエイター・michiakiさんの、「朝霧高原から観た富士山」だそうです。日本人の心のふるさとですね。お礼を申し上げます。