No.661 日本人より日本人らしい「鬼」?
「今、NHKの番組見てますか?」
のメールを、7年ほど前にK先生から頂いたことがあります。それは、NHKスペシャル「私が愛する日本人へ ~ドナルド・キーン 文豪との70年~」という番組でした。
類稀な日本文学研究者の米国人ドナルド・キーン氏(当時93歳)は、
「あいまい(余情)・はかなさへの共感・礼儀正しい・清潔・よく働く」
の五つを日本人の特長として挙げていました。言い得て妙の日本人観です。
特に「清潔」と「礼儀正しさ」は、近年の新型コロナ禍、さらにその変異株禍にあって、被害拡大を何とか阻止し続けていると言ってよいと思います。火山帯の国日本だからこそ、全国に温泉が湧き、「清潔」を尊び「入浴や湯治」を愛する国民の遺伝子が受け継がれてきたのでしょう。島国日本は、魅惑の「湯~沸くランド」です。
そんな日本に、
「大戦の敵国であり、中国の猿まねに過ぎない東洋の小国日本に学ぶものなど無い」
とするアメリカの無理解者が少なくなかった戦後に、日に三度「日本食」を食べ、作家と交わり、古典作品に接し、独自の日本観を世界に伝えました。
「日本の英雄は、義経のように、初めは上手く行くが段々ダメになる。その、人としての弱さに同情できる『ものの見方』が日本的。」
と桜を愛する日本人を語ります。更に、古典や近代現代作家の「日記」の中にも「日本人の心」を見出す努力を一切惜しまない炯眼の持ち主でもありました。
「自分たちの伝統に興味のないのが弱点。一番良いのは、過去の良さを勉強し自分の愉しみにする事。伝統は隠れて見えなくなる事があるが、続いている。一番の魅力。」
と「日本人に伝えたい話」をしてくれました。日本人より日本人らしいアメリカ人として、2012年3月、帰化申請が受理され、彼が日本人となったのは、90歳の時でした。日本国籍取得後の正式名は「キーン・ドナルド」(「鬼怒鳴門」)と名乗りました。
作家三島由紀夫からの書簡に「怒鳴土起韻様」「怒鳴門起韻様」「ドナルド・起韻様」という当て字があったことから、「鬼怒鳴門」の生みの親のように言われているそうです。キーン氏自身は、「鬼怒川温泉が好き」だからと冗談交じりに講演したこともありましたが、案外、嘘から出た真だったのかも知れません。
「人を笑わせる時に使います」
と言って「鬼怒鳴門」の名刺を配ったその人は、2019年(平成31年)2月、96歳で御名前のとおり「鬼籍」に入りました。
※画像は、クリエイター・わたなべ - 渡辺 健一郎 // VOICE PHOTOGRAPH OFFICEさんのタイトル「十二単衣」をかたじけなくしました。平安時代にタイムスリップしてしまいそうな作品です。お礼を申し上げます。