「アリとキリギリス」と言えば、イソップ童話のお話です。紀元前6世紀ごろ、古代ギリシアの奴隷だったアイソーポス(イソップ)という人が、人々に語ったとされる寓話集なのですが、原題は「セミと、アリとのこと」だったそうです。
1593年(文禄2年)にイエズス会によって刊行された『天草本 伊曾保物語』(Esopono Fabvlas)の本文を見ても、そのことが知られます。次に掲げたのは、その原文ですがMS明朝体に変換したので原文の表記が少しかわったところがあります。
ローマ字(ポルトガル式ローマ字)ですので、読みは難しくありません。古語ですので意味不明の個所もあるかもしれませんが、ザーッと読んでみてください。「原文」と「読み」を各行ごとに掲げました。Xitagocoro(下心)とは、「教訓、戒め」の意味です。
この「セミ」が他国では「キリギリス」に替えられました。その理由は、セミの北限にありました。大塚 萌さん(千葉大学)の論文(抄出)には、次のようにあります。
つまり、セミの生態として、イギリスを除き、フランス南部以北にセミは見られにくく「鳴く昆虫」という認識であったことから、「セミとアリ」は誰もが知る「アリとキリギリス」にかえられたようなのです。
では、アイソーポス(イソップ)の国ギリシャに、本当にセミはいたのかと言うと、ヨーロッパにセミは少ないものの、ギリシャからイタリア、南仏を経てスペインにかけての地中海沿岸には何種類かのセミが分布しているそうです。ギリシャの古典の詩にも登場し、セミコインもありましたから、確かに存在しています。また、世界には3,000種ものセミがいるそうですが、イギリスは1種(チッチゼミ?)のみだそうです。やはり熱帯に多い昆虫のようです。
ちなみに、「セミとアリ」だったものが、ロシアでは「トンボとアリ」となっているそうで、やはりセミがいないからだそうです。お国変われば品変わるということでしょうか?
※画像は、クリエイター・おいもぱーてぃさんの、タイトル「アリさんみたいなキャリアウーマンになりたぁぁい」をかたじけなくしました。「アリとキリギリスになぞらえました。」の解説がありました。お礼申し上げます。